「行くぞ」准は一言そう言うと、芽衣を抱えたままくるりと背を向けた。そうして公園の出口へと向かって歩き出した彼らに、後ろから鋭い声が追いかけてきたのだった。「ちょっと待ちなさい!」その声にピタリと足を止めた准が振り返ると、先ほどの母親が腕を組んで仁王立ちしていた。視線は真っすぐに准を捉えている。「あなた、見たところずいぶん若そうだけど、なんなの?その態度はっ」「……」准以外の2人はその言葉に驚いて固まっていたが、当人の准はただ黙って、静かにその女を見つめていた。女性はその沈黙を彼の恐れだと思い、ふんっと鼻を鳴らした。「なに勝手に帰ろうとしてんのよっ。私は謝れって言ったのよ?」「僕の記憶では、この者が謝罪していたと思いますが?」准がチラリと保育士を見ると、彼女はまたもやいきり立った。「はぁ!?保育士が謝ったらそれでいいと思ってるの!?その子はアンタの家の子でしょ!?だったら、ちゃんと家の者が謝るのが筋じゃないの!?」「……」そこまで言われても、准は怒らなかった。ただ静かに、この女を見極めようとするかのようにジッと視線を据えていた。「ね、ねぇ…」ここでようやく、もう一人の母親が女の袖を引いて注意した。「ちょっと言い過ぎじゃない?相手は真田家よ?」コソコソと言うのに、女はバカにしたように答えた。「なに言ってんのよ。真田家真田家って言うけど、何程のもんだってのよっ。当主でもないのに誰かを罰する権限があるとでも?」「でも…そんな大したことでもないのに……」「自分の子が泣かされて、大したことない訳ないでしょ!?」「……」そこまで言われては、引き下がるしかなかった。確かにひなちゃんは泣いていたし、意地悪されたって言ってたし…。心の中にそう言い聞かせていた時、目の前の相手から「なるほど」と言う声が聞こえた。「当主が出てくればいいんですね?わかりました。帰り次第、伝えておきます」「え……」2人の母親はその瞬間、声を失った。嘘でしょ?こんなことで当主に報せる?私はただ、真田家の人間に頭を下げさせればそれでよかったのに!〝真田家の人間が自分に頭を下げた〟その事実があればいろいろと自慢できる。普段自分を下に見て笑っている、あの高慢ちきな奥様連中を見返せる。そう思って、強気に出たのだ。この男はどう見ても学生だし、自分のところの子ど
最終更新日 : 2026-01-09 続きを読む