一族の呪縛から解放され、ただの飾りではない実力で道を切り拓いた実感が、冷たい風に乗って心地よく全身を駆け抜けていく。 しばらく歩いた後、交差点の近くで待機していたハイヤーへと乗り込む。 ドアが重い音を立てて閉まり、街の喧騒が遮断される。 その静かな空間で、湊は再び私の手を引き寄せ、掌にそっと額を押し当てた。「……お疲れ様。朱里」 その言葉は、何重もの誓約書よりも重く、深く、二人の絆を繋ぎ止めていた。 ◇ 翌朝。 冬の澄んだ空気を震わせるように、本邸の玄関にある新聞受けに重い束が落ちる音が響いた。 パジャマの上に厚手のカーディガンを羽織り、寝ぼけ眼をこすりながらリビングへ向かう。 テーブルの上には、湊がすでに淹れたコーヒーの深い香りが漂っていた。 ふと、昨夜から小刻みに震え続けていたスマートフォンの通知を思い出し、ロック画面をタップする。 画面が発する青白い光が、薄暗い部屋の空気を不自然に照らした。 ――視界に飛び込んできたのは、大手ニュースサイトのトップページ。 そこには、昨日、私たちが本社の会議室へ入る直前の、並んで歩く後ろ姿が、隠し撮りのような粗い画質でありながらもはっきりと映し出されていた。『九龍グループ新CEO、波乱の再建。その影に潜む「契約花嫁」の真実』『独占スクープ。茅野朱里氏と九龍湊氏の馴れ初めは、月額三百万円の偽装契約から始まった?』『元婚約者・拓也氏、元親友・美咲氏の驚愕証言。「彼女は昔から虚飾と打算の塊だった」』 スワイプしようとした指先が、一瞬にして感覚を失ったように冷え固まった。 スマートフォンの画面が、自身の浅い呼吸で白く曇っていく。 先程まで心地よかったコーヒーの香りが、突如として泥のような重たい匂いに変わったような気がした。「……朱里? どうした」 奥の部屋から湊が呼ぶ声が聞こえる。 手から滑り落ちそうになるスマートフォンを握り直す。 画面をスクロールすると、SNSのタイムラ
Last Updated : 2026-05-28 Read more