All Chapters of 強制狂葬 狂眼ドール: Chapter 11 - Chapter 20

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10.涼の願い

 翡翠が椅子から立ち上がる。「それじゃあ、終わったら執務室においで」「分かりました」 翡翠が静かに扉を閉めたあと、革靴の足音が遠ざかって行く。「……」 緊張が走る。  涼にとって、この異常な世界で生きる術を今、一時の判断で決めなければならない。  一度深く深呼吸をし、『核』に向かって言葉をかける。「貴方は会話はできる ? 」『お答え出来る範囲だけです』 中性的な声。  機械でもなく、人のような抑揚も無い。不可思議な声質。「質問とかしてもいい ? 」『答えられる範囲のみになります。これは皆、共通の条件です』「分かったじゃあ……。ここから出るにはどうしたらいいの ? 」 突然の確信。  だが『核』は暫く処理時間を費やし返答を出した。『悔い改め背負うことです。ここはそういう場所です』「そういうことじゃなくて……。俺は無になりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……」『苦楽は囚人によって感じ方が違います』 涼は『核』の返答が、どこかやり取りになっていない気がした。プログラムされたような、決まり文句のようなものに聞こえてならない。「なんで俺が呼ばれたの ? ここって日本人だけ ? 」『外国人もいらっしゃいます。言語は共通で、『城』にいる限り自動翻訳されています。  一ノ瀬 涼様のご招待は更生の余地ありとみなし、リストの中からピックアップいたしました』「俺は……そういうんじゃなくて、全て0にしたかったんだ。生まれ変わったり現実逃避したい訳じゃないんだ。  無になりたかっただけなんだ ! どうして俺を殺さないんだよ !! 」 ここまで来た涼のストレスが爆発してしまった。『お答えできかねます』 『核』はさらりと言い放つ。  コレに感情などないのだ  受け入れるしかない。 そして考える。自分が活かせること。 しかし、そんなものが自分にあったとしたら、生前も自死など選ばなかったかもしれない。  否、母親からの虐待。  強制的な性と暴力。  それを考えれば、今はいくらかマシなはずだ。  フェンランが言っていた。女達は絶対に身体を売ることをしない。少なくともフェンランを囲う女たちはそうして、ここで生き延びている。  京もフェンランもそうだが、感情が見えなかったら涼は早々に地雷を踏
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11. 翡翠と涼

「終わったか ? 」 近付いて来た足音に翡翠の方から扉を開けて迎え入れられる。「うん。魔法使いは本当に駄目だった」「はは。まさか本当に言ってみるとはね。  さぁ、これから『城』での生活が始まる。殆どの者はここへ来ることは二度と無いが……お茶くらいはご馳走しよう」「……まるで最後の晩餐みたいだね」「君は突然死では無かったな。最後の晩餐を済ませて死んだか ? 」「そういう話はもう、したくないです」 翡翠の質問に悪意を感じた涼は、肩に置かれた大きな手を思い切り振り払う。 その瞬間── ヒュウ……──── 一凪の風が二人の間を駆け抜けるように。  何かが起きた。「 !? 」「今のは…… ? なんだ…… ? 」 涼と翡翠、それぞれに走る感情の流れ。  強制的に感情を捻じ曲げられるような感覚。  涼も体感したことのないものだったが、『城』に要求した事を思い出す。『人の感情が視える力の強化』 それは。  今目の前にいる翡翠を見れば一目瞭然だった。  執務室に来た時に視た翡翠が持つ絶望と哀しみの暗く深い青色が、今はなんとも薄まって視える。 そして気付いた。  翡翠の手を払った自分の人形の指先から、不必要な程伝わる快楽的感覚。それは人の行う性的快楽とは別の種類のなにかであった。「うぅ……」「大丈夫か ? 」 しゃがみ込んだ涼を翡翠が支え、ソファに座らせる。「なぁ、触んないで。なんかこれ、おかしいかも……」「身体に異常は無さそうだが ?」 翡翠は無遠慮にペタペタと確認するようにまさぐって来る。「違う。そうじゃない……。俺の……能力だ……多分 ! 」 未成年の涼にとって初めての感覚で、上手く例える事が出来ない。言葉足らずな涼の姿を見て、翡翠は何かを察した。「一体何を願った ? あの『核』は『酔うもの』の類は厳しい審査があるが……」 涼の紅潮した顔と、くたっとソファへ無防備に転がる姿を見て、翡翠は真っ先に酒や薬物の可能性を危惧した。  飲酒用ではないアルコールを『城』と契約した者もいた。その者は酷い潔癖で消毒用として願ったのだ。今はそれを加工し横流ししてはいるが、黙認されている。決して全ての娯楽物品が禁止ではないのだ。  しかし妙だと翡翠は涼から離れ、鋭い瞳で見下ろす。 涼の今の状態では、とてもじゃないが足腰がいうこと
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12. 副作用

「つまり、『相手の感情が視える』。その中でも『負の感情だけを吸い取ることが出来る』というわけか……」「多分。貴方みたいなお堅い人は自分の心なんて覗かれたくないだろうけど、でも見た感じ……今は『好奇心』の色が強いです。合ってますか ? ……薄い橙色で『楽』に似てるけど、違う。けど、そんな感じに視えたりするんです。  どっか触っていいですか ? 」 翡翠が返事をする前に涼は肩に手を置く。「どうですか ? 『好奇心』は消えた ? 消えてないと思うんです。 多分、人の持つ感情の中で、『吸えるものと吸えないものがある』んだ」 翡翠は眉を寄せると思わず涼の肩を揺さぶる。「俺から吸った負の感情ってなんだ ? 俺には別にそんなものは !! 」 突然取り乱した翡翠に驚きながらも、涼は一度深呼吸をして翡翠の手を握り返す。「はっきり言えば、貴方からは深い『哀しみ』を感じたから。  普段はそんな事を吐き出せない立場なのは分かるけど、俺も分かってしまうんです。  だから……」 言いかけた涼の言葉が途中で止まり、自分が握り返した翡翠の手の違和感に気付く。「…… ??? 」 白い手袋の下。  温もりこそ感じるものの、人の手の感触では無いと気付いてしまった。(義手…… ? なんか硬すぎた気が…… ? ) 思わずパッと手を離し、不味いものを見てしまったと翡翠を見上げた。  だが、それには翡翠は冷静だった。「そうか。つまり……お前には詰まらん意地や虚勢は見え透いてしまうということか」「……そ……言う事……ではありますが……。別に俺も悪意は……」「ああ。『城』で生き残るために自分の感情を視る力の補正を望んだお前に、『核』はその力を『相手の負の感情を吸う』所までバージョンアップさせたわけだ」「でも……。こんな力で……どうやって……。本当に話は終わってなかったのに……」「それが本当なら『城』がお前に与えた正しい能力なはずだ」「そんな……」 嘆き続ける涼を、翡翠はソッと頬に触れる。  涼はその感覚を敏感に受け取った。「き、急になに ! あの、俺 ! パーソナルスペースが狭いというか ! 」「お前の過去は『城』から聞いている。取り繕わなくていい俺にもそんな趣味はない。 教えてくれ。俺の『哀しみ』と言ったな。そんなに強く視えたか ? 」
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13.脱獄への鍵

「何それ ? 誰かの……眼のスペア ? 」 翡翠はすぐにその箱をしまい込む。「初代管理人は人間だった。さっき話した、俺の遠い親族の尼僧だ」「人間が霊界にこんな場所を建てたって凄いね 」「そうだな。その頃、この『城』の全てのキーは、その尼僧の網膜スキャンとパスワードの打ち込みだけ。年配のせいか、全てを同じキーで賄っていたそうだ。  その頃、俺がここに来た。身内の情なんて無かったな。当時の俺は酷くそいつを恨んだよ。  ある日、脱獄に賭けた囚人が、その尼僧の目を抉って剥製にした」「え !? じゃあ、この『城』でその囚人は翡翠さんの親族を……」「……脱獄できるとなったら、なんでもないことだからな」 なんでもない、とは。  目を抉る事か。  それとも尼僧を殺める事なのか。 どちらにせよ、脱獄の代償も重いものなのだと察した。「目玉は囚人仲間の剥製職人に依頼し加工したらしい。後にイチャモンを付けて、その囚人は『ドールアイ』に関わった者全てをファイトで葬ったらしいと聞いたが……。死が無い世界だ。どこまでが本当やら。 だが、俺が管理人になってそれを没収した脱獄などあってはならないからな。 だが、本当の目的は……俺が生者の世界へ帰ることだ。俺も脱獄したい。ここから自分の意思では抜け出せんのだ」「でも『ドールアイ』は……」「ああ。その通り。暫くして、呆気なく『ドールアイ』の片目は盗まれてしまった」「そんな……」 翡翠の絶望と哀しみ、後悔の色。  これは『ドールアイ』を失くし、ここにいるしかなくなった生きる死者としての末路に悲観した結果だった。「『ドールアイ』は両眼が揃わないと意味が無いんだ。俺は唯一の鍵を失ったんだ」 その言葉に涼の眉が寄る。「え ? じゃあ、盗んだやつはなんの為に盗ったの ? 」「さあな。  涼。そいつを見つけて欲しい。『幻のドールアイ』……これが揃えばここから出れる。  お前は感情を読める。長く生活すれば恐らく犯人が視えてくるだろう」「脱獄……出来るなら……。  でも、上手く生活するってのは俺に丸投げじゃない ? 」 すると翡翠は立ち上がりコーヒーを淹れ、涼に差し出す。「ありがとう……」 一口、口につけて、涼はじっとカップのコーヒーを見つめる。  確かにコーヒーの香りだ。味もする。  しかし、人間
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14.俺たちの玩具

 翡翠の後に付いていこうとした涼の足が縺れ、体が宙に浮く。「痛たたた……。え ? 」 その体をしっかりと翡翠が受け止めていた。「随分副作用があるようだな。それとも俺の感情は毒でもあるというのか ? 」 涼を抱えあげる眼差しは穏やかさまである。初めて会った時、恐ろしい程に冷酷な印象は消えていた。獅子の牙が折れたとはまさにこの事か。  触れられている事で更に涼は翡翠の感情を吸わされる。これは涼の意思に関係なく起こる現象だった。「ダメだ……。触らない方がいい……」「気にするな。好都合だ」 翡翠の微笑みを目の前にして、涼は深く微睡みの中に落ちていく。 □ 涼を抱えて囚人塔へ戻ってきた翡翠の姿を見て、皆が一斉に頭は下げるも驚きを隠せなかった。「怪我でもしたんか ? 」 「んな訳ねぇだろ」 「翡翠様と面談中に居眠りこいたんか ? 」 「そんな馬鹿な事ねぇだろ。大事な一生物の道具を選ぶって時によぉ」 「じゃあ、あれだ。睡眠導入剤とか、ヤク中か ? 」 「ここじゃそんな物、認められないの知ってるだろ ? 」 ザワつく塔の異変。  涼を抱えた翡翠が房の前に来て、ようやく京は鏡の中に写る自分から格子の外を見る。「失礼。同居人が昏睡してしまってね」 寝込んでいる涼をそっとベッドに降ろす。「……」 昏睡とはおかしなものだ、と京の眉が跳ね上がる。  そもそも起きるまで部屋に寝かせておけばいいものを、わざわざこれ見よがしに連れてくるのも不自然だと早々に京は見抜く。「では、あとはよろしく頼む」「こいつ、何したの ? 」「なかなか興味深い囚人だ。時折また、話を聞くかもしれん」 そう言い出ていこうとする翡翠の背に京は態とらしい溜息をつく。「翡翠さん。囚人の一人を特別扱いするなんてアンタらしくないね。それがどういう事か分かってんのか ?  それとも、こいつ何か問題でもあんの ? 」「……ああ。そうだな。気をつけよう」 それだけ言い残し、ざわつきが収まらない塔の中、翡翠は戻って行った。「はぁ〜」 京は寝かされた涼を見下ろす。  気絶……暴力で昏睡しているようには見えない。パーツの破損も無いようだ。かと言って性暴力などの被害があったようにも見えず、ますます何故寝ているのか不思議でならない。  むしろ涼の寝顔は母親と添い寝する子供のよう
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15.ガーデンでの詮索

 中庭に出るには、まず一階の闘技場があった場所まで階段を降りる。  グレーチングの冷たい材質に京の履いた黒いブーツの靴底がガツガツと音を立てる。そして誰もがこの慣れた狭い世界の中で、この足音が誰の物か判別が付いている。  しかし、ついつい振り返って見てしまうのは後ろにちょこちょこついて行く涼の姿だ。  ふわふわした銀色の髪に、顔付きより幼く見える体付き。ここに来る者のほとんどは成人で、京と涼は互いに最年少クラスの幼年だ。  それも一人は凶暴。一人は翡翠が目に掛けている、となれば自然と興味の対象になる。「散歩かい ? 袋をやろうか ? 花瓶が割れちゃいかんだろ ?」 それでもこういう者はいる。「要らねぇよ ! 」 京が呆れたように老人を睨む。「涼、こういうの簡単に受け取るなよ ? じゃあ袋くださいなんて、今の話に乗ったら「代わりにそのナイフを寄越せ」とか言われるかんな ? 」「おじいちゃん……」「し、しねぇよ〜」「いや、頻繁にやってんだろアンタ。とにかく、物の貸し借りとかマジで。俺、最初しか言わねぇかんな。  その後で起きたトラブルでお前がどうなっても知らねぇから」 そう言いつつ、京は涼がここへ来た時から世話を焼き続けている。そんな京の後ろ姿を追いながら、涼は平常心を装いながら内心ドキドキしていた。  京の体に纏わり付く金色にも似た輝かしい色。『楽』の感情。  房の中で涼の体に触れ、京は既に何かを感じ取っている。それからだ。この感情が吹き出すように大きく肥大して、中庭に誘われたのだから恐怖しかない。  それでも涼は断ったら不自然と自身に言い聞かせ、行く他の選択肢がない。 闘技場まで降りると、周辺にある商売房の中心に短い廊下があった。  どう見ても先にあるのはエントランスルーム。その奥には大きな扉が見える。 出口だ。「なんか欲しいもんある ? 」 商売房を親指でクイッと指しながら京は涼に尋ねた。「それだけど、ここは金ってないんだよね ? あの店で買うのも物々交換だけなの ? 」 すると、京は難しい顔をする。「そうではねぇけど。例えばこれから外に行くだろ ? 花や木が採れる。そういうものを欲しがる奴もいるから。物々交換もやりようだな。  まだ会ったことねぇと思うけど、生前生まれつき足が悪かった奴はここでもそのままなんだよ
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16.幻のドールアイ

「はは……やっぱり気になる ? よね。京は  ライターを貰ったんだっけ ? 」「あぁ。まぁね。お互いプライバシーは大事だよな。悪ぃ。じゃあ別の質問にしようかな。  俺がお前の手に触った時、変な感じがした。なんか全部どうでもいいっていうか、無関心……とは違うな……。強いていえば……気分爽快 ? スッキリしたな。  あ、勘違いすんなよ。俺の好みは清純系の美少女だから」「勘違いはしてないよ。  えっと、それは確かに俺のせいだけど。順を追って話すと……」 涼は脳内をフル回転させる。「俺、昔から……変な力があってさ」「……霊界で言うのも悪ぃけど、スピリチュアルとか神様とかマジで興味ねェんだよな」「俺も好きで持ってる力じゃないし、スピリチュアルでも無いよ。  とにかく、相手の気分を好転させることが出来るんだ」「それって、ノイローゼが消えるとか ? 」 やはり京は飲み込みが早い 。嘘など一発でお見通しだろうそれは同房の涼にとってデメリットにしかならない。全てを話す決意をする。「そこまで重大な人と関わったことないからなぁ。 俺、元々他人の感情が見えるんだ。それで今まで生きてきた。最も、俺が出会った連中はロクな大人じゃ無かったけど」「はは。それは俺も一緒だな」 京はしょうもなさそうに笑う。  涼も気にせず続けた。「最初は母親の連れて来た男が毎回色が違うことに気付いた。似たもの同士っていうか、母が連れてくる男って大抵同じ色を纏ってたから。 それで俺、今は人のストレスとか悩みを吸い取れるようになったみたい。 『核』に欲しいものを聞かれた時、この能力なら、盗まれる心配ないから安心だなって。  高価な武器を持ったところで使えないしさ」「ふーん。ストレスと悩みねぇ。  もぅ一回触ってもいい ? 」「いいよ。でも、『核』の奴、予想より強いアップデートしてきたせいで、吸いすぎるとすげぇ酔うんだ」「はぁ ? ここでゲロ吐かれても……俺困るんだけど」「いや、その……酔うって言うか、フラッフラのふわっふわになるんだ」「マジで !? あ、だからさっきあんな状態で戻って来たのかよ ! スピリチュアルでキマる意味が分かんねぇ ! 」 涼が差し出した手を京が再び握る。 京の中に渦巻いていた邪念。  あわよくば涼が何を『核』に願ったのかきい
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17.金木犀の咲く庭

 涼にとって激動の半日。 まだ一日も過ごしていない間にこんな事に関わることになるとは思っていなかった。 だが、永遠かもしれないこの死後の世界で、時計盤がどうしたら動くのかも分からないまま脱獄の話に興味を持たないのも不自然だとも考える。「失敗したら……酷い目に合うのかな…… ? 」 デメリットをリストアップするのは大事な事だ。 不安そうにする涼に、京は頷く。「罰則はあるかもな。けど、ここで悪いことをしても人間の監獄とは違う事が一つだけある」「それって……何  ? 」「体罰だよ。人形の体は『城』から与えられている。で、もし体罰を与える役割のやつがいるとすれば翡翠の仕事だろ ? でも翡翠が『城』の所有物である俺たちを壊す道理がない」「それじゃあ、翡翠より『城』の方が上ってこと ? 」「そうなるな」「それって……この『城』が神のよう……」 言いかけた涼に京が目を釣り上げる。「はっ ! 神なんかいる訳ねぇだろ。そんなもんいたら、そもそも全員ここに来てねぇよ」 極端な思想だが、涼も同じ事を思った。自分が死に至った経緯を考えると、神に縋ったところで何も状況は好転しなかった人生だった。「そろそろ立てるか ? 」「うん。大丈夫。 花はどれを摘んで行くの ? 」「オリーブの裏に金木犀があるから。寝る頃になると、下水が臭って仕方ねぇんだ」「意外。主婦の知恵みたいな事するね」「うるせぇ」 二人は小池の飛び石を越える。オリーブの木まで来ると涼は手に届く先に実ったオリーブを手に乗せた。「お腹が満たされないのに、どうして食事が出来るようにしてあるの ? 」「……。飯が要らねぇって事は、消化器が要らねぇって事だろ ? 」「うん。人形なら必要ないよね ? 」
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18.女囚の生き方

「この葉っぱは……野菜じゃないよね ? 何 ? 」「これはね、『冥花』っていうの」「めいか ? 」「『城』では煙草や強依存性がある薬物は禁止なの。国の法律でNGだけど、他の国では合法の物ってあるでしょ ? だから最初から『城』では一律禁止。  でも、そんな習慣で嗜好品が欲しい人の為に、『冥花』が存在するのよ」「それ、意味無くない ? 刑罰になってないし、絶対依存するよね ? 」「そうねぇ。健康の為と言うより、同じ物にしてしまえば規則を決めやすいからだと思うわ。 『冥花』の成分は、この世界にしか無い特殊なものらしいし。  でも確かにね。皆んな依存はしてる。代用品に代わりはないわね」「フェンランが管理してるのか ? 」「ええ。この苗は彼女のもの。そして女囚だけで、栽培と加工してるの」「つまり、女性はこれを売ってるのか……」「そうよ。むさ苦しい塔を抜けて、昼はここでおしゃべりしながら作業。男たちの目を掻い潜って女だけで生きていくの。楽しいわ。  フェンランがしっかりしてるから出来る事ね」 その時、涼はサラが持っている物を見てピンと来る。「そのジョウロ……水が入ってる……」 翡翠が言っていた。 『水の永遠に尽きないジョウロを『核』に要望した者がいた』という話。  サラがそうだったのだ。「これね。フェンランは新人の女性がここに来ると、一応生活のプランを聞いてくれるのよ。わたしもフェンランといた方が安全だと思ったわ。  それにね、田舎育ちだからさ、こういうの嫌いじゃ無かったから。見学した時、水源がなくて水運ぶ作業だけは面倒だなって考えて、水の湧くジョウロを『核』に所望したの」「……フェンランはヤリ手だね。最初から他の人が『核』に求める物まで計算しているっえ事だ」「そうね。彼女が怖いわ。賢くて綺麗だし、ダメなことはしっかり怒る、それでも繊細で優しいヒト。  彼女のおかげで女囚たちは纏まってる。本当に凄いわ。彼女に憧れてる自分もいるのよね」「そっ
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19.癒しの力

 涼がサラから離れてフェンランの元に来る。涼はもう少しサラと話してみたかった。母親からは与えられなかった何かが、彼女にはあるような気がして。 しかしそれがフェンランの危惧することなのだ。今は無言でフェンランは受け入れてはいるが……。「フェンラン、貴重なものを見せてくれてありがとう。次からは気をつけるよ。ごめんなさい」 涼は従順だ。恐らく今までの家庭環境がそうさせた。 だが、ここで生活していったら、それがいとも簡単に捻じ曲がることを知っている。 フェンランは一度、煙管に口を付けると、眉を寄せ考え込む。 そして思い切ったように涼に手を差し出した。「涼。体験させてくれるかい ?  実は一つ、悩みの種があってね……。不安が消えるといいんだが」「あ、俺の能力の話……聞いたんだ。分かった。 じゃあ、触れます。不快感があったらすぐ離すから言ってね ? 」 涼にとって、これが初の依頼になる。 深呼吸をすると、そっとフェンランの白く艶々した爪の手をとった。 駆け抜ける。 感情の激動。 それは地獄の業火の様に熱く、燃えるような感覚だ。思わず手を離してしまいそうになる。 人の感情は複雑で、到底言葉でなど言い表せないものだ。それをどうにか紐解いて色を読むしかない。 大きな『怒』の感情に混ざり、『哀』の感情と『愛』の感情が帯状に絡み合い、浮き上がっては消えるを繰り返す。「うっ……ごほっ ! はぁ……っ ! 」 激しい咳き込み。病気やそんなものではない。肺に水が入り込むような感覚と苦しみが涼を襲う。感情に飲み込まれそうになる。「おいおい、大丈夫なのかい ? 」「はぁ ! はぁ !! すぅー…………は〜。 はい。まだ慣れてなくて……大丈夫です。 えっ
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