All Chapters of 新婚初夜あなたは妹のベッドにいた: Chapter 21 - Chapter 30

59 Chapters

復讐の計画

数日後、私は美咲と都心の静かなホテルラウンジのカフェ個室で落ち合った。窓から見える夜景がぼんやりと輝く中、テーブルにはノートパソコンと私のスマホ、そして離婚届のコピーが置かれていた。美咲はいつものショートボブにシンプルなブラウス姿で、コーヒーを一口飲むとすぐに本題に入った。勘の良い彼女は、私の顔を見るなり眉を少し寄せた。「瑞希、目が本気だね。前のお茶のときより、もっと冷たくなってる。……本気で週刊誌に流す気なんだ」私は頷き、スマホの録画データを再生した。画面に映るのは、特別個室での熱いキスと抱擁。真希の細い腕が陸斗の首に絡みつき、陸斗が必死で真希を抱きしめる姿。真希がドアの隙間に向かって勝ち誇った微笑みを浮かべる瞬間も、はっきり映っている。美咲の目が細くなった。彼女は画面をじっと見つめ、録音された陸斗の掠れた声——「真希……お前を失いたくない」——を聞きながら、ゆっくりと息を吐いた。「これは……かなり強いね。新婚初夜に夫が義妹の病室にいた事実、結婚式での暴力映像、家族特別枠の契約書コピー……全部揃ってる。大学病院の理事長(陸斗の父)が、製薬会社から数億円の研究費を引き出すために『医師本人の配偶者家族限定』という裏条件を作っていた不正も、完璧に繋がる」美咲はノートパソコンを開き、メモを打ち始めた。記者モードに入った彼女の指の動きは速く、的確だった。「タイトル案はどうする?私は『新婚初夜、夫は義妹のベッドに…妊娠中の妻を放置した大学病院医師の二重生活』が効くと思うけど」私は一瞬、息を飲んだ。妊娠の事実はまだ美咲に明かしていない。美咲は私の反応を見て、にやりと笑った。「勘が働いたよ」瑞希の目が、ちょっと守るような動きをした。「……妊娠してるの?」私は静かに頷いた。「三ヶ月。まだ誰にも言ってない。離婚届はすでに陸斗の印鑑をもらった。スクープに合わせて、役所に提出するわ」美咲の表情が引き締まった。彼女はコーヒーカップを置き、真剣な目で私を見た。「わかった。じゃあ、戦略を固めよう。週刊誌は来週の号で第一弾。内容は『新婚初夜の裏切り+家族特別枠の医療費不正』を中心に。結婚式の暴力映像と録画データを匿名で提供。」「録画データはワイドショー番組にもリークする」「とことんやる気ね」「ええ」「第二弾で妊娠事
last updateLast Updated : 2026-04-18
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大学病院の不穏な噂

瑞希が離婚届をバッグにしまい、役所へ向かう準備をしていた頃——大学病院のスタッフ休憩室では、いつものようにコーヒーの香りが漂っていた。しかしその日の空気は、明らかにいつもと違っていた。看護師長の佐々木が、声を潜めて言った。「ねえ、聞いた? 陸斗先生、また昨夜も真希さんの特別個室に泊まり込んでたって。新婚なのに、ほとんど家に帰ってないらしいよ」隣に座っていた若い看護師の山田が、目を丸くして身を乗り出した。「マジ? 新婚初夜の翌日からずっと義妹のところに入り浸りって……ちょっとありえないよね。しかも最近、マッサージだけじゃなくて入浴介助まで自分でやってるんだって。あれ、普通の主治医の仕事?」休憩室の隅でカルテを整理していたベテラン看護師の田中が、ため息をつきながら口を挟んだ。「ただの治療じゃないわよ。真希さん、CMNDSの末期進行型で余命3年宣告されてるのに、陸斗先生の態度が普通じゃないもん。毎日2時間以上個室にこもって、ドア閉め切って……昨日なんか、モニターの音が消えてから30分以上、何も聞こえなかったって話よ」一瞬、休憩室に重い沈黙が落ちた。若い研修医の男性が、コーヒーカップを握りしめながら小声で言った。「俺、昨日夜勤で特別個室の前を通ったら……ドアの隙間から、陸斗先生が真希さんのベッドに上半身を預けて、すごく近くで何か囁いてるのが見えた。あれ、ただの医師と患者の関係じゃないよな……」看護師長がため息をついた。「理事長のご子息だから誰も表立って言わないけど、家族特別枠の治療費が月180万円以上かかるって話も出てるわよね。結婚してるから無料で新薬投与と血管再生療法が続けられる……って、都合よすぎるでしょ。新婚の奥さんが可哀想よ。結婚式で平手打ちされたって噂もあるし」山田がスマホをいじりながら、声をさらに落とした。「ネットでも少しずつ広がり始めてるよ。『大学病院の若手医師が義妹と不適切な関係?』ってスレッドが立ってる。まだ小さいけど、証拠写真とか出回ったら一気に炎上しそう」ベテラン看護師の田中が、カルテを閉じて立ち上がりながら最後に一言残した。「陸斗先生、最近明らかにやつれてるわ。真希さんの余命宣告以降、完全に取り憑かれたみたい。あれがバレたら……医師免許どころか、病院の信用も丸ごと吹き飛ぶわよ」休憩室の
last updateLast Updated : 2026-04-19
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秘密の妊娠、孤独なつわり

瑞希は妊娠を、家族にも、真希にも、陸斗にも、誰にも明かさなかった。母子手帳は、寝室のチェストの奥深くに仕舞い込んだ。表紙の優しいピンク色が目に入るだけで胸がざわつくので、わざと一番奥の暗がりに押し込んだ。誰にも知らされず、誰にも祝われない子供。この子はまだ、私だけの秘密だった。夜、誰もいないマンションのベッドで、私はゆっくりとお腹を撫でた。まだ胎動は感じられない。けれど、確かにそこに命が宿っているという「確かな胎動」を、心の中で感じていた。私は静かに微笑んだ。冷たく、しかし確かに——自分の意志で浮かべた微笑みだった。その瞬間、胃の奥が激しく痙攣した。熱いものが込み上げてきて、喉の奥が焼けるように痛む。「っ……」私は慌ててベッドから起き上がり、トイレに駆け込んだ。冷たいタイルの床に両手をつき、便器に顔を突っ込んで何度も吐いた。酸っぱい胃液と、さっき食べた僅かな食事の残骸が、容赦なく出てくる。つわりが、本格的に始まっていた。吐き終わった後も、胃はまだ波打っていた。額に冷や汗が浮かび、膝が小さく震える。私は冷たい床に座り込み、壁に背を預けた。誰かが、優しく背中を摩ってくれる温かい手のひらは、どこにもない。陸斗は今頃、真希の特別個室で、彼女の細い体を抱きしめ、余命のカウントを嘆いているはずだ。母は真希の治療費のことで頭がいっぱいで、私の体調など気にも留めない。父はただ、家族の体面を守ることしか考えていない。私は一人で、冷たい床に手をついたまま、ゆっくりと息を整えた。「大丈夫……この子は、私が守る」声に出して呟くと、なぜか涙が込み上げてきた。でも、すぐにその涙を飲み込んだ。泣いている暇などない。この子は、ただの「アクシデント」ではない。陸斗の子供でありながら、陸斗に知られることなく、私の復讐の最も強力な武器になる存在だ。私は立ち上がり、洗面台の鏡に映る自分の顔を見た。青白い顔、唇の色が薄く、目には冷たい光が宿っている。つわりのせいで体重は少し落ち始めていたが、それでも私は微笑んだ。「真希……あなたは余命3年。私は、この子を産んで、生きていく。あなたが陸斗を独り占めしている間に、私は新しい人生を始めるわ」母子手帳を隠したチェストの方を、ちらりと見た。まだ誰にも祝われないこの命。けれど、私はこの子を、
last updateLast Updated : 2026-04-19
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離婚提出の日

役所の窓口は、意外と空いていた。私は離婚届をカウンターに差し出し、係員の女性に静かに言った。「離婚届の提出をお願いします」係員は書類に目を通し、軽く頷いた。「双方の署名と実印、問題ありませんね。受理します」カチリ、という小さな音が、離婚届に押された受理印とともに響いた。その瞬間、私の胸の奥で何かが、静かに、しかし確かに切れた。これで、正式に、私は陸斗の妻ではなくなった。私は役所の外に出て、春の風に吹かれた。桜の季節が、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。薄ピンクの花びらが、風に舞いながら私の足元に落ちてくる。私は近くの公園の桜の木の下に立ち、ゆっくりと息を吐いた。(これで……本当に、終わったのね)頭の中に、フラッシュバックが次々と蘇ってきた。──結婚が決まったばかりの頃、この同じ桜の木の下で陸斗と並んで歩いた日。彼は少し照れくさそうに私の手を握り、「これからは家族みんなで幸せになろう」と言った。私はその言葉を信じて、笑顔で頷いた。桜の花びらが二人の肩に優しく落ちてきたあの瞬間、私はまだ「愛されるかもしれない」と、ほんの少しだけ夢を見ていた。──真希の車椅子を押しながら、同じ桜の木の下を歩いた幼い日の記憶。「お姉ちゃん、桜きれい……」と真希が微笑む横で、私は「うん、きれいだね」と答えながら、心の中でいつも思っていた。「私は健康だから、我慢しなきゃ」「真希が可哀想だから、私が我慢すればいい」──結婚式の前日、再びこの桜の木の下で一人で立っていた夜。花びらが散る中、私は陸斗に「本当に私でいいの?」と聞いた。彼は曖昧に微笑んで「家族が喜ぶから」とだけ答えた。そのとき 、私は薄々気づいていたのかもしれない。この結婚が、真希の治療枠を守るための「鍵」であることに。今、桜の花びらが私の髪に落ちて、静かに肩を滑り落ちていく。私はゆっくりとお腹に手を当てた。まだ誰にも知られていない、三ヶ月の命。「あなたは……この桜の下で生まれるのね」私は独り言のように呟いた。声は風に溶け、すぐに消えた。離婚が成立した今、病院内の噂はさらに広がり始めているはずだ。陸斗が入浴介助まで行っていたこと、真希との過剰な親密さ、家族特別枠の裏事情——美咲が準備を進めている週刊誌の第一弾は、もうすぐ世に出る。私は桜の木に背を預け、目を閉じた
last updateLast Updated : 2026-04-19
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余命宣告の夜

真希はベッドに横たわり、陸斗の顔をじっと見つめていた。陸斗の声は低く、かすれていた。「真希……今日の検査結果を、正直に伝える。進行が予想以上に速い。呼吸筋と心筋の衰弱が止まらない。現行の治療を続けても……余命は3年以内。最長で5年だと思う」一瞬、世界が音を失った。「……え?」真希の唇から、呆けたような声が漏れた。頭の中が真っ白になり、耳の奥で高く細い音が鳴り続けていた。余命3年。その数字が、繰り返し、繰り返し、脳内に叩きつけられる。(嘘……嘘よ。私、まだ20歳なのに……3年で死ぬなんて、そんなのありえない)体が震え始めた。細い指先が、シーツをぎゅっと掴むが、力が入らない。足はすでに自分のものではなく、ただの冷たい飾り物。息を吸うたび、肺が締め付けられるような痛みが走る。「陸斗くん……間違いじゃない?もう一度、検査して……お願い……」声が震え、涙が勝手に溢れてきた。陸斗はベッドの横に膝をつき、真希の手を両手で包み込んだ。その手の温もりが、今はただ残酷に感じられた。「ごめん……俺がもっと早く、もっと良い治療を見つけてれば……真希、お前をこんな体にさせてしまった……」陸斗の声が詰まるのを見て、真希の胸の奥で何かが、ゆっくりと崩れ落ちた。(どうして私だけ……?お姉ちゃんは健康で、自由で、陸斗くんと結婚して、普通の人生を歩いているのに。私はこのベッドから出られず、毎日痛みと戦って、息をするだけで精一杯なのに……あと3年で終わり?この冷たい体で、苦しい息で、3年だけ生きて、死ぬの?)恐怖が、波のように押し寄せてきた。死のイメージが、次々と頭に浮かぶ。酸素マスクを付け、痰を吸引されながらベッドに横たわる自分。家族が悲しむ顔。陸斗が泣きながら見送る姿。そして、その恐怖はすぐに、激しい怒りと嫉妬に変わった。(お姉ちゃんのせいだ……お姉ちゃんが健康に生まれたから、私がこの体をもらった。双子なのに、どうして私だけがこんな目に遭うの?お姉ちゃんは陸斗くんと結婚して、子供だって産めるのに……私は、陸斗くんを抱きしめることすら、こんな弱い腕でしかできない)真希の目が、ゆっくりと細められた。涙で濡れた視界の中で、姉への憎しみが、静かに、しかし確実に形を成していく。(陸斗くんは私のもの……幼い頃から、私を守る
last updateLast Updated : 2026-04-19
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歪んだ愛情

陸斗が病室を出て行った。真希はベッドに横たわり、天井の白い照明を見つめていた。体が重い。足はもう完全に自分のものではなく、ただの冷たい肉塊。腕を少し上げるだけで指先が震え、息を吸うだけで肺が痛む。余命3年——陸斗が宣告したその言葉が、頭の中で何度も繰り返される。(3年……あと3年で、私は死ぬの?)宣告を受けた夜、最初は頭が真っ白になった。「そんなはずがない」「間違いだ」と何度も否定した。でも、現実は容赦なく体を蝕み続けていた。夜中に突然の呼吸困難で目が覚め、酸素マスクを必死で探す自分。鏡に映る、骨と皮膚だけのような細い腕。すべてが「死に近づいている」証拠だった。恐怖が、ゆっくりと怒りに変わっていった。(どうして私だけ……?お姉ちゃんは健康で、強く、美しくて、何でもできるのに。私はこの体で、毎日痛みと戦って、息をするだけで精一杯なのに……)瑞希への嫉妬は、幼い頃からずっと心の底にあった。双子なのに、姉だけが健康に生まれ、自分だけがこの壊れた体を与えられた。「お姉ちゃんだから我慢して」「真希ちゃんが可哀想だから」と周囲が言うたび、胸の奥で黒い炎が燃えた。今はもっと深い憎しみになっている。(お姉ちゃんは陸斗くんと結婚して、自由に生きられる。子供だって産める。私は……このベッドから出られないまま、3年で終わり。どうして私だけが、こんな目に遭うの?お姉ちゃんが健康だから、私が犠牲になるなんて……ずるい。本当に、ずるいわ)真希の唇が、静かに歪んだ。弱々しい笑顔の裏側で、姉に対する純粋な憎悪が渦巻いていた。そして、陸斗への想い——それは嫉妬や憎しみとは別の、激しい独占欲だった。(陸斗くんは私のもの。幼い頃からずっと、私を守ると誓ってくれた人。お姉ちゃんが現れても、陸斗くんの目はいつも私に向いていた。余命3年と言われた今、なおさら……陸斗くんは私から離れられない。私を抱きしめ、キスをして、涙を流してくれる。あの温もりは、私だけのもの)真希は目を閉じ、陸斗が先ほどまで自分の唇に重ねていた感触を思い出した。彼の大きな手が自分の細い腰を抱き寄せる感触。あの熱い抱擁の中で、真希は確信していた。(お姉ちゃんがドアの隙間から見ていたこと、気づいていたわ。あの勝ち誇った微笑み……お姉ちゃんの顔が歪むのを見るのが
last updateLast Updated : 2026-04-19
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家族の非難

余命宣告。その瞬間、真希の心の中で恐怖が怒りに変わった。(どうして私だけ……?お姉ちゃんは健康で、何も苦しまずに生きてるのに……私はこの壊れた体で、毎日痛みと戦って、息をするだけで精一杯なのに……あと3年で終わり? この冷たい足と、震える手で……死ぬの?)真希の視線が、部屋の隅に立つ瑞希に向けられた。そこには、はっきりとした嫉妬と憎しみが宿っていた。母が真希のベッドにすがりつき、声を震わせた。「そんな……真希ちゃんが死ぬなんて……絶対に嫌よ!陸斗くん、何とかしてあげて! もっと良い治療を……」父は顔を青ざめさせ、陸斗に向かって低く言った。「理事長の息子である君が言うんだから、間違いはないんだろうな……。だが、真希の治療を続けられる枠はどうなる?家族特別枠がなければ、月150万円以上かかるんだぞ!」母が瑞希の方を振り返り、目が血走っていた。「瑞希……あなた、聞いてたでしょう?真希が3年しか生きられないかもしれないのよ!あなたが陸斗くんと結婚を続けていれば、特別枠で無料で治療が続けられるのに……離婚なんて、絶対に許さないわ!健康で強いあなたが、少し我慢すれば済む話じゃないの!」父も声を荒げた。「そうだ。真希の余命が短い今こそ、お前が支えろ。お前は健康なんだから、真希の代わりに我慢して、結婚を継続しろ。家族みんなが破綻するんだぞ!」瑞希は静かに立ったまま、家族の視線を受け止めていた。胸の奥で冷たいものが固まっていくのを感じながら、ゆっくりと口を開いた。「家族特別枠……つまり、私が陸斗の妻でいる限り、真希は無料で新薬と治療を受け続けられる。私が離婚したら、即座に枠から外されて、月150万円以上の負担が実家にかかる……そういうことね」母の声がさらにヒステリックになった。「そうよ! 真希が死ぬかもしれないのに、あなたは自分の幸せばかり考えてるの?お姉ちゃんなんだから、真希のために我慢しなさい!あなたが健康で強いからこそ、真希を支えられるんじゃないの!」真希がベッドから弱々しく、しかしはっきりとした声で言った。「お姉ちゃん……私、怖いよ……3年しか生きられないかもしれないのに……お姉ちゃんが離婚したら、私、どうなるの?陸斗くんも……私から離れちゃうの?」真希の目には、恐怖と同時に、瑞希への深い嫉妬と憎し
last updateLast Updated : 2026-04-19
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復讐へのカウントダウン

瑞希は美咲を自分のマンションに招いた。温かみのないリビングに、美咲が入ってきた瞬間、彼女の表情がわずかに曇った。気の毒そうな、しかし記者らしい鋭い目で部屋を見回す。「本当に……陸斗先生、ほとんど帰ってきてないのね」美咲はソファに腰を下ろしながら、小さく息を吐いた。「新婚のマンションなのに、こんなに冷たい空気……」瑞希は静かに微笑んだ。「何のためのマンションだったのか、それも、もうすぐ財産分与で売り払われちゃうけどね」キッチンでティーポットを温め、アールグレイの茶葉を淹れる。白い湯気が立ち上り、ほのかに甘い香りが部屋を包んだ。その温かさが、逆にこの空間の虚しさを際立たせている気がした。二人はソファに向かい合って座った。美咲はティーカップを両手で包み込み、瑞希の顔をじっと見つめた。「じゃあ、離婚届は出したのね?」「……ええ。晴れて独り身よ。両親と真希には、まだ伝えてない」瑞希はティーカップの縁を指でゆっくりとなぞりながら、大きなため息をついた。胸の奥に、冷たい塊のようなものが残っている。つわりでまだ胃がむかむかするが、それを顔には出さない。美咲は真剣な目で頷いた。「週刊誌、明後日発売になるわ。第一弾は『新婚初夜、夫は義妹のベッドに…大学病院医師の家族特別枠不正』でいく。結婚式の暴力映像と、特別個室の録画データ(真希が勝ち誇った微笑みを浮かべる部分も含めて)をしっかり使った。第二弾で妊娠事実を匂わせ、第三弾で親権争いと倫理崩壊まで持っていく予定よ」瑞希は静かにカップを置いた。「ありがとう、美咲。本当に……助かる」美咲は少し声を落とし、瑞希の手をそっと握った。「瑞希……正直、心配してる。陸斗先生も、真希さんも、社会的にかなり厳しいことになる。病院内の噂も、もうかなり広がってるみたい。入浴介助までしてるって話、職員の間で結構話題になってるよ。あなたは大丈夫? 一人で全部抱え込んで……」瑞希は美咲の目を見て、ゆっくりと首を振った。冷たい、しかし確かな微笑みが唇に浮かんだ。「大丈夫。もう、私は被害者じゃないから。新婚初夜から、私はただの『配偶者枠』だった。真希の余命3年を盾に、家族みんなが私を縛ってきた。今度は、私の番よ」アールグレイの香りが、二人を静かに包む。美咲は少し間を置いてから、プロの記者らしい冷静さ
last updateLast Updated : 2026-04-19
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スクープ掲載の日

その朝、コンビニの雑誌コーナーで、私はその見出しを目にした。『新婚初夜、夫は義妹のベッドに…大学病院医師の家族特別枠不正』大きなゴシック体で踊る文字が、週刊誌の表紙を埋め尽くしていた。巻頭見開きページを開くと、まず目に入ったのは——結婚披露パーティーのプールサイドで、ウェディングドレス姿の私が床に倒れ込む瞬間だった。頰を腫らした私の顔が、はっきりと写っている。そして、次のページ。病室のドアの隙間から撮影された、決定的な写真。真希の細い腕が陸斗の首に絡みつき、二人が熱く唇を重ね、抱擁し合う姿。真希がドアの方を向いて浮かべた、あの勝ち誇った微笑みまで、鮮明に捉えられていた。私は息を詰め、ページをめくった。新聞の社会欄にも、大きく取り上げられていた。『希少運動機能障害臨床研究プログラムの実態医師本人の配偶者家族限定でしか無料治療を受けられない「家族特別枠」製薬会社からの巨額研究費を確保するための裏条件か?』義父から入手した契約書のコピーが、大きく掲載されていた。「配偶者およびその直系家族に限定する」という一文が赤線で強調され、名前の欄はすべて黒く塗りつぶされていたが、誰が書類を提供したのかは、読者には容易に想像がつくはずだった。私はコンビニの袋を提げ、マンションに戻るタクシーの中で、静かにページを眺め続けた。心臓の音が、大きく響いている。(ついに……始まったわ)この瞬間から、陸斗と真希の世界は、音を立てて崩れ始める。病院内の噂は、もう止まらない。ネットも、きっと今頃、大炎上しているだろう。私はスマホを開き、ネットの反応をちらりと確認した。すでにトレンド入りしていた。「新婚なのに義妹のベッドにいた医師キモすぎ」「家族特別枠って何? 治療費タダにするために結婚したって本当?」「車椅子の妹が姉の夫を奪う計算女って最悪……弱者を武器にするなよ」「余命3年の患者を抱きしめてキスとか、医師としてどうなの?」私はティーカップを手に、ソファに深く腰を下ろした。アールグレイの香りが、静かな部屋に広がる。まだ誰にも知られていないお腹に、そっと手を当てた。三ヶ月の命。この子は、まだ誰も祝っていない。けれど、私はこの子と共に、静かに勝利を味わっていた。(真希……見てて。あなたの勝ち誇った微笑みは、もう通用しないわ。陸斗……あなたが真希
last updateLast Updated : 2026-04-19
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ワイドショーディレクター

夜のテレビ局近くのバーで、美咲は知人のワイドショーディレクター・高橋と向かい合っていた。美咲はUSBメモリをテーブルに滑らせながら、静かに言った。「大スクープだよ、高橋さん。今、ネットでも少しずつ燃え始めてる大学病院の不倫・医療不正案件。これをワイドショーでやったら、かなりインパクトあると思う」高橋はグラスを傾けながら、興味深そうにUSBを受け取った。「へえ……美咲がわざわざ持ってくるってことは、相当ヤバいんだろうな」美咲は自分のタブレットで動画を再生した。画面に映ったのは、結婚披露パーティーの夜のプールサイド。煌めくライトが水面に美しく揺れ、白い薔薇の装花が円卓のテーブルを優雅に飾っていた。立食形式のパーティーの中で、車椅子の真希だけが座っている姿が印象的だった。突然、陸斗が瑞希の頬を激しく平手打ちした。ウェディングドレスの花嫁が、バランスを崩してプールサイドの床に倒れ込む。周囲のゲストが一瞬凍りつき、誰もが息を飲んだ。瑞希の両親さえも、助けの手を差し伸べなかった。高橋の眉が上がった。「……これは可哀想だな」「でしょ? DV夫として取り上げられない?」高橋は動画をもう一度巻き戻し、じっくりと見つめた。「面白そうだな……新婚初夜に義妹の病室に駆けつけたって話と合わせたら、かなり強烈だ。家族特別枠の不正も絡めて、医療倫理問題として深掘りできるかも」美咲は小さく頷き、もう一つの動画ファイルを再生した。今度は、大学病院の特別個室。ドアの隙間から撮影された映像で、陸斗と真希が熱く抱擁を交わし、唇を重ねている。真希の細い腕が陸斗の首に絡みつき、キスを深めながら——彼女はカメラ(ドアの隙間)の方を向いて、はっきりと不敵な笑みを浮かべていた。勝ち誇った、甘く、残酷な微笑み。高橋の表情が一瞬で変わった。「何なんだ、これは……」美咲は冷静に答えた。「撮影したのは、この女性の双子の姉。つまり、被害者である瑞希さん本人が撮ったものよ。これは、ただの不倫動画じゃない。『挑戦状』ね。姉に対する勝利宣言であり、姉への宣戦布告でもある」高橋は動画を停止し、腕を組んだ。「双子の姉が、自分が倒される瞬間と、夫が義妹を抱きしめる瞬間を、わざわざ録画して……相当な覚悟だな。これは、ただのスキャンダルじゃ済まないぞ。DV、医療
last updateLast Updated : 2026-04-20
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