仁さんとのあの甘く濃密な夜から、二ヶ月の時が流れた。 季節はすっかり移り変わり、街路樹を揺らす風にも夏の名残ではなく、秋の気配が混じり始めていた。 この二ヶ月の間、私たちの会社『Blue Code Studio』を取り巻く環境は、それまでとは全く違う方向へと激変していた。 あの世紀の記者会見、そして社交界での西園寺グループの告発。あの日を境に、私たちの名前は一気に世間へ広まり、今では社会現象とまで呼ばれる存在になっていた。 「代表! また新しい依頼です!」 「企業コラボのお問い合わせが三件追加です!」 「採用応募、午前中だけで百二十件を超えました!」 「法学部主席だって! この子すごい!」 オフィス中を飛び交う明るい声。 電話は鳴り止まず、メールの通知音もひっきりなしに響く。社員たちは慌ただしく動き回っているのに、その表情は疲労よりも充実感に満ちていた。 ネットを開けば、 『最高の復讐劇!』 『Blue Code Studio、本当にかっこいい!』 そんな称賛が並ぶ一方で、 『どうせ山城グループの力だろ』 『裏で何かやってるに違いない』 といった心ない書き込みも少なくない。 もっとも、それ以上に採用ページには全国から履歴書が押し寄せていた。 法学生、元警察関係者、天才ハッカーに調査会社勤務経験者。 『ここで働きたい』そんな言葉が、毎日のように届く。 会社が大きくなるということは、多くの期待を背負うということでもあった。そんな忙しいオフィスの空気とは対照的に、一人だけ深刻そうな顔をしている人物がいた。 山城グループ代表でもあり、璃子の夫。 仁さんは、 「……CMなど認めない!」 そう言ってオフィスのソファへ腰かけ、資料を穴が開くほど一点を見る。 そう思えば、 「密着取材も却下だ」 周りのスタッフは、何としても仁さんを納得させたいと意気込んで口々に伝える。 「代表、大手飲料メーカーからのCMですよ?」 「これ以上ない、世界に誇れるほどの会社に成長していけますよ!」 「却下」 「ゴールデン帯の特番ですが……」 「却下」 「雑誌の表紙は……」 「却下」 「インタビューだけでも……」 「却下だ。却下!」 一切の迷いがない。
اقرأ المزيد