「……怖かったか」「……少し」「すまない」「でも」 リリアーナはゆっくりと目を開けた。「嫌じゃ、なかった」「……」「びっくりしただけ」「……そうか」 その声が、ひどく静かにほどけた。 安堵なのだろう。 でも、大きくは出さない。 嬉しいからといって、また前みたいにこちらの気持ちを置いていかない。 そういう配慮が、今の彼にはある。 リリアーナは思わず、指先で彼の袖を少しだけ掴んだ。 無意識だった。 自分で自分に驚く。 だがもう遅い。 掴んでしまった。 セドリックの目が、わずかに動く。「……離れると」「……」「今、少しだけ寒い」 それは、ほとんど自分でも言い訳だと分かっていた。 暖炉の火はついている。 部屋も寒くない。 でも、さっきのぬくもりが消えた直後の空気は、たしかに少しだけ寒かった。 セドリックは何も言わなかった。 代わりに、今度はもっとゆっくりと、もう一度近づく。 次の口づけは、最初よりほんの少しだけ長かった。 それでも、奪うものではない。 確かめるようで。 怯えるようで。 触れたあと、こちらが引けばいつでも止まると分かる口づけ。 だから、リリアーナは今度も逃げなかった。 胸の奥に残っていた前世の白い寝室の冷たさが、そのぬくもりの前で、ほんの少しだけ後ろへ押される。 消えるわけではない。 許したわけでもない。 でも、凍ったまま止まっていた時間の上へ、今、違う温度が落ちてきた。 唇が離れたあと、リリアーナはしばらく目を開けられなかった。 怖い。 でも、痛いだけではない。 苦しい。 でも、前より少しだけ息がしやすい。「……これ」「何だ」「前世には、なかったわね」「……ああ」「全然」「……ああ」 その返答の声が、今まで聞いたことのないくらい静かでやわらかかった。 リリアーナはようやく目を開ける。 セドリックの顔は、すぐ近くにあった。 冷徹侯爵と呼ばれる男の顔。 なのに今は、どこにも冷たさだけではない色がある。「……今さらすぎる」「知っている」「遅い」「……ああ」「でも」「……」「嫌じゃなかったの」 その言葉を、自分でちゃんと口にする。 嬉しいとはまだ言えない。 愛しいとも。 でも、嫌じゃなかった。 それだけで、たぶん今は十分だった。 セ
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