廊下の壁に掛けられた古い鏡に、自分の横顔が映っている。表情は崩れていない。義母の声を受けても、いつものように返せた。だが、胸の奥では一つずつ札が貼られていくようだった。 義母対応。 予定管理。 手土産選定。 親族間の金額調整。 夫の状態報告を求められる役割。 それらをすべて、妻という一語に押し込められてきた。 澄乃は台所へ戻らず、廊下の小机に置いてある便箋箱を開けた。中には礼状用の便箋、季節ごとの一筆箋、封筒、筆ペン、古い住所録が入っている。義母が「こういうものは嫁の字で出す方が収まりがいい」と言ったため、澄乃が管理してきたものだ。 収まりがいい。 つまり、誰の手間か分からなくなる。 澄乃は箱を閉じた。 そのまま二階の小部屋へ向かう。 そこは、名目上は澄乃の裁縫部屋だった。実際には、久世家の細々とした記録を置く場所になっている。季節外の座布団カバー、来客用の膝掛け、古い贈答品の控え、親族写真、会社関係の祝儀袋の予備。陽当たりはよくないが、湿気は少ない。 部屋へ入ると、紙と布の匂いがした。 澄乃は文机の前に座った。 引き出しを開ける。中には、何冊ものノートとファイルが並んでいる。背表紙に小さく貼った紙には、澄乃の字で分類が書かれていた。 食事。 義父母。 親族。 贈答。 会社関係。 来客。 慶弔。 家計。 修繕。 季節のしつらえ。 澄乃は、それらを一冊ずつ机へ出した。 どれも、彼女が少しずつ作ってきたものだった。誰かに命じられたわけではない。だが、作らなければ回らなかった。回らなければ責められる。だから作った。 最初は、本当に小さなメモだった。 義母が好きな花。義父が避ける食材。昌親が朝に探しがちなもの。親戚の子の名前。誰に何を贈ったか。 それが七年で、机に積み上がるほどになった。 澄乃は、一番上の「会社関係」のファイルを開いた。 取引先ごとの項目がある。代表者名、配偶者名、子どもの有無、祝い事、弔事、会食時の注意、贈答品の履歴、相手側からもらったもの、返礼の時期。さらに、過去に失礼になりかけた出来事と、その回避方法まで記してある。 これは、秘書業務ではないのか。 澄乃は、初めてそう思った。 会社員として誰かが担当すれば、給料が発生する。引き継ぎが必要になる。評価もされる。だが、澄乃が家で行う限
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