結局、櫂は魚を数匹しか釣れなかったが、日が西に傾く頃になって、琴葉は慈悲深く「本日の訓練は終了」と宣言してやった。帰り道、櫂はたまらず尋ねた。「琴葉さん、明日はどんな訓練をするんですか?」「明日からの3日間も、ここで釣りよ」「ええっ?」櫂は絶望したような顔になった。「まだ釣るんですか!?」「忍耐力なんて一朝一夕で身につくものじゃないわ。時間をかけて培っていくものよ」琴葉は真剣な面持ちで説明した。「修復作業そのものが、地道で気の遠くなるような作業の連続なの。外部のノイズに惑わされない精神力と、持続的な集中力が不可欠なのよ」彼女は櫂をちらりと見た。「今のうちに気を鎮めることを覚えておかないと、将来修復の現場に出たときに苦労するわよ」その声は穏やかで根気強く、不思議と心地よい説得力があり、櫂は深く感銘を受けたように何度も頷いた。……静まり返った夜。碧斗は寝室のソファに1人腰掛け、複雑な思いを抱いていた。以前なら、どんなに忙しくても、家に帰れば琴葉がいた。彼女はいつも目元を細めて彼に笑いかけ、他愛のない日常の出来事を飽きもせず話してくれた。そして数え切れないほどの夜、2人はこのベッドで肌を重ねてきた……今は違う。碧斗が部屋を見渡すと、ベッドボードの上の壁にぽっかりと空いた不自然な空間に視線が止まった。愛する妻どころか、ウェディング写真すらなくなってしまった。ガランとした部屋と同じように、彼の心にもぽっかりと穴が空いていた。碧斗はスマホを手に取り、うつむいたまま琴葉の連絡先を開き、無意識のうちに発信ボタンを押していた。自分が何をしたのかに気づき、慌てて切ろうとした時には、すでに電話は繋がっていた。「碧斗?」微かな戸惑いを帯びた、柔らかく落ち着いた女の声が聞こえ、碧斗は思わず背筋をこわばらせた。彼は気まずそうに軽く咳払いし、必死に声を平坦に保った。「俺だ」シャワーを浴びて出てきたばかりの琴葉は尋ねた。「何か用?」膝の上に置いた手をぐっと握りしめ、碧斗の頭は猛スピードで回転した。「その……ごほん。財産分与の現金化の手続きが済んだ。お前のサインが必要だから、明日時間を合わせて会えないか」なんだ、そんなことか。琴葉はベッドに腰を下ろした。「結城社長の貴重な時間を割くわけにはいかない
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