意外に思うかもしれないが、
フィッシュマンという概念の起源を追いかけると、思ったよりずっと古い話にたどり着く。僕は伝承や神話を掘るのが好きで、最初に出会った“
魚人”の記述は古代メソポタミアの文献にさかのぼることが多い。バビロニアやシュメールの資料には、人間の形をしていて魚のような外套や鱗を持つ存在が登場する。これらは単に怪物扱いされるだけでなく、知識や文明を人間に授ける役回りとして描かれることもあって、単純な恐怖の象徴ではなかった。
近代の物語に目を移すと、イメージの変異が面白い。ギリシャ神話のトリトンやヨーロッパ各地の人魚伝説が民話として広まっていき、それが文学や絵画に取り込まれていく。20世紀になると、海の異形を恐怖として描く幻想文学が現れ、特に『The Shadow over Innsmouth』のような作品では人間と魚のあいだにあるグロテスクな境界が主題になる。一方で、コミックやヒーロー文化では海洋の文明や亜種としてもっとポップに描かれてきた。例えば『Aquaman』は海底に住む人々や王国の設定を通じて魚と人間の関係を語るタイプの表現だ。
こうした流れを踏まえると、「フィッシュマンが最初にどの作品で登場したか」と問われても単純には答えられない。ファンの多くは自分が親しんだ作品を起源として認識しがちだが、実際には神話・民話・近代文学・大衆文化それぞれが互いに影響し合って今日の“フィッシュマン像”を形作っている。僕はこの多層性こそが面白いと思っているし、どの作品を入口にしても海にまつわる物語の深さに驚かされる。