散りゆく華に夢は醒めず
結婚して五年目。深村直樹(ふかむら なおき)に愛人ができ、その女は妊娠した。
「智美はつわりが辛くて、酸っぱいものが食べたいんだ」
それ以来、立花青子(たちばな あおこ)は朝六時に起き、出来立ての梅のシロップ煮を作るようになった。
「智美(ともみ)は妊娠線が怖いから、新鮮なバラの入浴剤で毎日入浴したいって」
そうして、プライベートローズガーデンのバラは、青子の指先に刻まれた無数の傷と引き換えに摘まれた。
「智美は最近情緒が不安定で、お前のことをやきもち焼いてばかりいる。まずは偽装の離婚協議書にサインしてくれないか?彼女をなだめるためだ」
青子はカバンの中の検診結果を奥へ押し込み、顔色ひとつ変えずに署名した。
だが今回は、偽の書類を本物とすり替えたのだ。