流れる時に沈む月
一ノ瀬明咲(いちのせ あき)と芦屋時也(あしや ときや)は、三度も結婚式を挙げたけど、そのたびに、みんなの笑い者になった。
一度目の式。誓いの言葉を交わしている途中で、朝比奈若菜(あさひな わかな)が鉄のハンマーを持って乱入してきた。
二度目の式。司会が「新郎新婦、ご入場です」と明るく宣言した直後、会場のスクリーン一面に、時也と若菜のツーショットが次々と映し出された。
三度目の式。バージンロードを歩き出す寸前、時也のスマホに若菜からビデオ通話が入る。
「時也、私ここから飛び降りる。これで借りをチャラにしてよ?」
時也は鼻で笑う。「飛びたいなら早くしろ。俺の結婚の邪魔をするな」
でもその直後、会場の誰かが叫ぶ。「若菜さんが本当に飛び込んだ!」
時也は「誓います」と言いかけたけれど、そのまま明咲を見つめて「どうあれ、一人の命だ。明咲、式は延期しよう」と静かに告げた。
それきり、彼は会場から消えた。
明咲は崩れ落ちた。「時也、もう延期なんてしなくていい……私、結婚やめる!」