思い出に佇み、君を仰ぐ
私・藤井凛香(ふじい りんか)は弟の親友である村上奏多(むらかみ かなた)と、三年間恋人として付き合っていた。
彼は耳元で何度も、家同士の政略結婚なんて大嫌いだと漏らしていた。
けれどまた一度の熱に身を委ねた夜の後、彼は甘えた声で、見たこともない婚約相手のために結婚指輪をデザインしてくれと頼んできた。
その瞬間、私の笑みは凍りついた。だが彼は当然のように言った。
「俺たちみたいな人間は、最終的に政略結婚するしかないんだろ?」
血の気が引いた私の顔を見て、彼は鼻で笑った。
「凛香、まさかまだ二十歳の小娘みたいに、本気で俺が君と結婚するなんて思ってたのか?
俺たちの関係なんて、せいぜいセフレだろ」
その後、私は家の決めた縁談を受け入れることにした。
すると惨めに涙で目を赤くした彼が、私の前に現れ、地に膝をついて必死に戻ってきてほしいとすがった。
私は新婚の夫の腕に手を添えて、かすかに笑みを浮かべた。
「最初に言ったのはあなたでしょ。私たちみたいな人間は、生まれた時から政略結婚する運命なんだって。今、あなたの願い通りになったんだから、喜ぶべきなんじゃない?」