春の花と冬の雪
江崎愛乃(えざき あいの)は人混みの中に立ち、手には二つの書類を握りしめていた。
一つはアレキシサイミアの診断書、もう一つは戸籍謄本だった。
三時間前、病院のシステムに登録された婚姻状況が「離婚」と表示されていることを不審に思い、わざわざ市役所まで足を運んだのだった。
職員が顔を上げた。
「江崎さん、確かに相川さんとは三年前に離婚されています」
愛乃の表情が一瞬固まった。
「そんなはずはありません。三年前、私たちはちょうど結婚したばかりです」
職員はもう一度確認し、少し困惑した様子で言った。
「申し訳ありませんが、システム上、確かに離婚の記録は三年前となっており……ご結婚から七秒後に登録されています」