降りしきる雨に、君の心を問わず
椎名司(しいな つかさ)がこの世を去ってから三年、瀬戸汐梨(せと しおり)はまだ彼を心から消し去ることができずにいる。
再び、彼女は別荘の暗室に身を潜めた。ここは二人が初めて出会った場所であり、ここにいるときだけ、少しだけ息をつけるのだ。
「司くん、いつ帰ってくるの?来月には結婚式なのに……」
扉の隙間から嬌声が忍び込んできた。その声は、まるで毒を仕込んだ針のように、予期せぬ瞬間に耳を刺した。
汐梨は全身が硬直し、血の気が一瞬で凍りついたかのような感覚に襲われた。
彼女は壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。暗室の細い隙間から、外の様子を覗き込む。
家政婦の娘、青木美雪(あおき みゆき)がソファにもたれかかりながら電話をしている。指先で電話のコードをくるくると巻き取り、笑顔を隠そうとしても、楽しげな表情が自然と浮かんでしまう。
「結婚式、本当にCホテルでやるの?もし汐梨に知られたら、怒鳴り込まれたらどうしよう……」
電話の向こうが一瞬静まり返ったかと思うと、次の瞬間、十三年もの間、骨の髄まで刻み込まれたあの声が響いた。
「大丈夫、『記憶喪失になった』って言うから」