春の約束は、まだ果たされず
婚約者の藤原蓮(ふじわら れん)には、18年間も大切にしている女の子・藤原光希(ふじわら みつき)がいた。
私たちの婚約を知った途端、光希は私にちょっかいを出すようになった。
彼女は庭のバラを引っこ抜いて菜の花に植え替えたり、新居のオートロックの暗証番号を勝手に自分の誕生日に変えたりした。
でも、私はいつも笑って許してあげていた。
だって、蓮がいつもこう言っていたから。
「光希はまだ若い。君に俺の愛情を全部取られちゃうんじゃないかって、不安なだけなんだよ」
そして、月日は流れて、光希は大人になった。
彼女のせいで、蓮は私たちの結婚式を100回もドタキャンした。しかも、その理由はいつも信じられないようなものばかりだった。
1回目は、光希とディズニーランドの花火を見に行かなくちゃいけないって。
33回目は、光希とS国へ海を見に行く約束をしたからって。
そして99回目。バージンロードを歩き始めたまさにその時、病院から電話がかかってきた。光希が急性盲腸炎で倒れた、と。
……
ついに、100回目。光希がポップアップストアに行きたいと言い出して結婚式をすっぽかしたせいで、蓮はまたしても式を延期した。
彼は去る際に、本当に申し訳なさそうな顔でこう言った。
「次は、次は絶対に光希に時間通りに来るように言い聞かせるから。だから、怒らないでくれ」
私は静かに微笑むだけで、何も答えなかった。
もう次はない。100回目の結婚式は、これでおしまい。
蓮との関係も、もうこれ以上続ける意味なんてない。