月明かりだけが、あの日の二人の愛を知っている
丸山孝之(まるやま たかゆき)の初恋の人、上野美月(うえの みつき)が離婚した。
離婚の裁判は、すべて孝之の手配によるものだ。
その後、孝之は美月を、私たちの新居に連れ込んだ。そして美月が猫アレルギーだという理由で、私の飼い猫を捨てさせた。
挙句の果てに、妊娠中の私を凍りつくような冷水プールに突き飛ばし、美月のネックレスを拾わせたのだ。
私が流産して入院している間に、孝之は美月の妊娠検査結果を持って、今年初めてのインスタを更新した。
【桜が咲いた。君が春を連れてきてくれた】
心身ともにボロボロだった私は、ただ静かにその投稿に「いいね」を押した。
孝之はそんな私を嫌悪感たっぷりに一瞥し、唇の端を歪めて卑劣な笑みを浮かべた。
「里香(りか)、君みたいな人間は、子供がいなくなっても当然だよ。
そんなに子供が好きなら、君も一緒にあの世へ行けばいいんだ」
だが孝之は知らない。私の命があとわずかだということを。