手放した愛は、二度と還らない
誕生日の夜、同僚の代わりに夜勤を引き受けた雪平澪(ゆきひら みお)は、黄体破裂を起こした若い女性の診察に当たっていた。
「激しい行為が原因ですね。パートナーの方は?」
澪が顔を上げると、そこには動揺を隠せない夫、帝都の有力一族の跡取りである九条颯太(くじょう そうた)の姿があった。
数分前、彼は電話で「お前の誕生日を一緒に祝えなくて残念だ」と惜しんでいたはずだった。それが次の瞬間には、別の女の黄体を破裂させて目の前に現れるとは。
これ以上皮肉な誕生日プレゼントがあるだろうか。
廊下では、颯太の友人たちが顔を見合わせ、ひそひそと騒ぎ立てていた。
「おい、まさか奥さんが夜勤だったなんてな」
「終わったな。颯太のやつ、今回はやりすぎだ」
「雪平先生」
看護師が憤慨した様子で言った。
「主任に連絡しましょうか。先生は他のシフトもありますし、この患者は別の医師に任せればいいですよ」
澪は手袋を脱ぎ、その動作は驚くほど落ち着いていた。
「いいえ、手術室の準備を。私が執刀するわ」