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夢の先は空回り

夢の先は空回り

By:  空Completed
Language: Japanese
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99回も婚約者を誘惑したのに、彼はそれでも彼女の妹が好きだった。 結婚式当日、彼は来なかった。それどころか、妹と先に婚姻届を提出して、彼女を街中の笑いものにしたのだ。 痛みと絶望の淵で、婚約者の兄が彼女を抱きしめ、ずっと前から想っていたと告白し、振り返って自分を見てほしいと言った。 彼女はその一途な想いに心を打たれ、黒木鄞(くろき きん)と結婚した。 結婚して5年、鄞は彼女を甘やかし放題に可愛がった。しかし、ある海難事故で、彼は亡くなった。 葬儀の日、彼女は悲しみのあまり、棺に頭を打ち付けて死のうとした。 妊娠していることが判明し、ようやく彼女は死を思いとどまり、泣き暮らす日々を送った。 このまま一生を終えると思っていた矢先、元婚約者と彼の友達の会話を偶然耳にしてしまった。 「鄞、あの海難事故で遭難したのは、本当はお前の弟なのに、弟の嫁と一緒になるために身分を偽って自分の弟として生きていて、いつか本当のことが暴かれても怖くないのか?」 「もう知るか。俺は最初から明里を愛していた。静音が明里を邪魔するといけないから、仕方なく彼女と結婚したんだ。一度譲ったんだ。今度こそ、神様がくれたチャンスなんだ、もう二度と譲りたくない!」

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Chapter 1

第1話

99回も婚約者を誘惑したのに、彼はそれでも彼女の妹が好きだった。

結婚式当日、彼は来なかった。それどころか、妹と先に婚姻届を提出して、彼女を街中の笑いものにしたのだ。

痛みと絶望の淵で、婚約者の兄が彼女を抱きしめ、ずっと前から想っていたと告白し、振り返って自分を見てほしいと言った。

彼女はその一途な想いに心を打たれ、黒木鄞(くろき きん)と結婚した。

結婚して5年、鄞は彼女を甘やかし放題に可愛がった。しかし、ある海難事故で、彼は亡くなった。

葬儀の日、彼女は悲しみのあまり、棺に頭を打ち付けて死のうとした。

妊娠していることが判明し、ようやく彼女は死を思いとどまり、泣き暮らす日々を送った。

このまま一生を終えると思っていた矢先、元婚約者と彼の友達の会話を偶然耳にしてしまった。

「鄞、あの海難事故で遭難したのは、本当はお前の弟なのに、弟の嫁と一緒になるために身分を偽って自分の弟として生きていて、いつか本当のことが暴かれても怖くないのか?」

「もう知るか。俺は最初から明里を愛していた。静音が明里を邪魔するといけないから、仕方なく彼女と結婚したんだ。一度譲ったんだ。今度こそ、神様がくれたチャンスなんだ、もう二度と譲りたくない!」

その瞬間、安藤静音(あんどう しずね)の心は凍りついた。

本当のところ、誰からも好かれているのは、妹の安藤明里(あんどう あかり)だったんだな。

鄞は黒木礼(くろき れい)よりもずっと深く明里を愛していたのだ。

当時、明里を幸せにするために、彼は「仕方なく」自分と結婚したのだ。

今となっては、彼女と一緒になるために、遭難を偽り、礼の身分を詐称することさえ厭わなくなっている!

事実を受け止められず、彼女は一人土砂降りの雨の中へ飛び出し、泣き叫んだ。

夜が明け、ずぶ濡れで疲れ果てた彼女は、よろよろと病院に入った。

「先生、中絶手術をお願いします!」

「安藤さん、妊娠4ヶ月で、双子ですよ。順調に育っていますよ。本当に中絶しますか?」

医師の言葉を聞き、静音の心は張り裂けそうだった。本当に絶望していなければ、母親が赤ちゃんを堕ろすことなどできるだろうか。

「鄞」の死後、黒木家は悲しみに暮れていたため、彼女は妊娠の事実を誰にも告げなかった。

だから、彼が明里の夫として振る舞っている間、彼女のお腹の中にはすでに二人の子供が宿っていたことを、鄞は知らなかった。

彼が愛する人を追いかけるのなら、彼女もこの事実を伝える必要はない。

「決意は変わりません。先生、手術の手配をお願いします」

3時間にも及ぶ手術を終え、手術台から降りた静音の顔色は、恐ろしいほど白かった。

壁に手を添え、廊下の長椅子に座り、下腹部の鈍い痛みを感じていると、突然、前方で騒ぎが起こった。

見覚えのある人影が誰かを抱えて走り去り、しばらくして、再び慌ただしく戻ってきた。そして、その視線が静音に留まった。

今度は、はっきりと彼の顔がわかった。

鄞だった。

「早く、こっちへ!」

彼はそう言うと、静音の手を引いて来た方へ走り出した。手術直後なのに、急に走らされたことで、彼女は吐き気がするほど気分が悪くなり、顔色はさらに青白くなった。しかし、鄞は明らかに彼女の異変に気づいていなかった。

ようやく献血室に着くと、彼は足を止めた。

「彼女の血液型は明里と同じだ、彼女から採血しろ!」

静音は眉をひそめ、断ろうとしたが、彼は構わず彼女を椅子に座らせ、看護師たちに採血を指示した。

彼は最初から最後まで、彼女に説明しようともせず、針が彼女の腕に刺さるのを確認すると、慌てて明里のもとへ駆け戻っていった。

看護師たちは採血しながら、彼の後ろ姿を見てヒソヒソと話していた。

「どうしたのかしら、黒木社長、あんなに慌ててなんて」

「理由なんて一つしかないでしょ。奥さんが黄体破裂で大量出血、今、ベッドから運ばれてきたのよ。どんだけ激しいのよ」

「奥さん大好きなんだね。結婚3年目なのに、まだ新婚みたい」

看護師たちの意味ありげな表情を見て、静音はようやく何が起こっているのか理解した。

つまり......

彼と明里が激しい性行為の末、黄体破裂を起こしたのだ!

病院の血液が足りず、慌てた鄞は廊下で休んでいた自分を見つけて、採血のために連れてきたのだ。

その事実に気づいた瞬間、静音の心臓はまるで引き裂かれるような激痛に襲われた。

たった今、自分が愛する女性と激しく交わっていたその時、彼女が二人の子供を堕ろしてしまったということを、彼はきっと知る由もないだろう。

もし、鄞が少しでも彼女のことを気にかけていれば、彼女の異変に気づいたはずだ。

しかし、彼は気づかなかった。

彼の心は明里で満たされていた。

彼女は涙を流しながら笑った。鄞、そんなに明里が好きなら、どこまでも一緒にいさせてあげるわ。

あなたとはこれで終わり。二度と会うことはない!

病院を出た後、静音は化粧直しをし、普段と変わらないようにしてから、黒木家に戻った。

今までの彼女のように、部屋に閉じこもり、鄞の写真を見ながら涙を流すことはしなかった。

彼女はまっすぐ書斎に入り、黒木お爺様の前にひざまずいた。

「お爺様、やっと吹っ切れました。鄞のことは諦めます。黒木家を出て行きます」
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