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恋の撃鉄(ハンマー)2

Author: 相沢蒼依
last update publish date: 2025-10-20 19:38:42

「先輩、挨拶と一緒に、いろいろ教えていただきたいことがあるんですが」

 お触りをしていた先輩の手を両手で包み込み、親指を軽くちゅっと吸ってみる。

「おまえ、いきなり」

「いきなり僕に手を出てきたのは、先輩からじゃないですか」

 ソフトクリームを舐めるように舌先を使い、親指の腹を舐め上げた。

「ちょっ放せよ。エロい顔して誘ってくるなんて、卑怯だろ」

 感じたらしい先輩の掠れた声を聞いただけで、腰にきてしまった。

「だったら、ね。早く――」

 どうにも我慢できずに、空いてるであろう近くの会議室に視線を飛ばす。先輩は視線の先を追うやいなや、僕の手を掴んでそこに引っ張った。

「誘ったからには、サービスしろよな」

 つっけんどんな物言いをした先輩の顔と、目の前にいるリアルの先輩の顔が重なる。

(――そう、これは先輩がゲイだったらという話だ。ノンケだからこそ、こんな風にすんなりとはいかないのは定石なんだよな)

 しかし半年間という時間をかけたお蔭で、少しだけ先輩との距離が縮んだ気がする。その証拠に、返答される口数が確実に増えていた。

 嫌われない程度の接触――どれくらいの押しで、もっと距離を縮めるかを模索していたある日、ひょんなことから先輩の手首に触れてしまった。

 瞬間的に、体温が一気に上がるのが分かった。手のひらに感じる先輩の手首はがっしりしていて、その男らしさに鼻血が出るかと思ったくらいだった。

『おいおまえ、熱があるんじゃないのか?』

 僕の体温を感じてかけられた言葉が、すごく嬉しかった。それは先輩として後輩の体調を気遣ってだろうが、小躍りしたくなるくらいに嬉しくて堪らなかった。

 その結果、舞い上がって告白した挙句にキスした僕を、先輩は平手打ちした。

 一瞬で夢から覚めた気分だった。引っ叩かれた頬は赤みを通り越して、青くなっているんじゃないかと心配するくらいに痛かった。

 ショックなのはそれだけじゃなく、僕を見る先輩の目があきらかに変わった。汚いものを見るまなざしといったところだろう。

 もう徹底的に嫌われてもかまわないと腹をくくったら、これまで抑えていた願望がするする口から出てきた。それを聞いて、先輩は思いっきり錯乱した。

 怯えながらじりじり後退りする姿を見て、絶対に逃がさない策を思いつく。

 スーツのポケットに入れていたスマホを取り出し、昨日撮影した写真を画面に映し出した。それは先輩に平手打ちされた、哀れな自分の顔写真だった。

 朝の一服をするのに大体同じ時間帯に、僕のいる部署の前を通る先輩。偶然を装って捕まえ、傍にある空き会議室に連れ込む算段をしている。

「秋田生まれの我慢強い先輩を陥落させるべく、これで脅して流されてもらいますよ」

 先輩のハートに打ち込んだ恋の弾丸が命中していることを願って、躰からはじまる恋を仕掛けようと、胸を弾ませたのだった。

おしまい

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