domの王子はsubの皇子を雄にしたい

domの王子はsubの皇子を雄にしたい

last updateLast Updated : 2025-12-31
By:  fuuOngoing
Language: Japanese
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帝国のsub皇子ルシアンは、同盟のため王国のdom王子アルトリウスと条約婚を結ぶ。二人が交わしたのは、愛より先に合意契約――可・不可、合図、アフターケア、そして週に一度だけ主導権を入れ替えるスイッチ・デー。 公の壇上では皇子が前に、私室では王子が一歩引いて支える。権謀うずまく宮廷で、役割は枷ではなく翼へ。 “雄になる”夜の練習が、やがて帝国の未来を動かす力になる。

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Chapter 1

第1話:条約婚の口火

鐘が七つ。鳴り終える余韻までを合図に、王都の大聖堂に静けさが落ちた。彩色ガラスの青と赤が壇上の石肌を洗い、白い香煙が細くほどけて天井へ吸い込まれていく。中央で、アルトリウス王子は指先の汗を小さく拭った。視線の先、金糸で縁取られた外套の裾を整えながら、ルシアン皇子が肩で息を整える。二人とも成人。戦と商路、その重さをもう知っている年だ。

「条約婚は、盾ではなく橋である」

司教の低い声が石壁に柔らかく反響する。両国の紋章旗は高窓からの風にゆるくはためき、磨かれた石床は踏み込むたび、靴音を氷のように刺して返した。

呼吸を合わせる。ルシアンの瞳が一瞬、こちらを探す。頷く。——いける。視線でそう告げる。

——橋。壁よりも維持費がかかる。けれど、渡ってきた者の数だけ意味が増す。アルトリウスはそう教えられて育った。今日は、その一本目を架ける日だ。

小礼拝堂の壁には野花のステンドがある。青が多い。冷静であれ、という王家の戒めに似ていた。けれど、中央にだけ金の小さな果実が描かれている。実を結べ、だ。

「我らは国境関税を半減し、塩と布の双の路を開く。山間の水門は共同で守り、納骨堂の修復費を折半する」

宰相が巻紙を繰り、利得を一つずつ読み上げるたび、ざわめきが盛り上がっては沈む。商人は頷き、兵は腕を組み、修道士の何人かは組んだ指の結びを固くした。潜る者は潜る。大聖堂の影で黒いフードが一つ、香炉の鎖を短く鳴らす。地下街の顔役は回廊の柱の後ろで、笑わずに笑った。納骨堂の守り人は鍵束を音もなく懐へ消す。反対の火は消えない——ただ、表で燃やさない。

「アルトリウス王子」

取り決め通り、公では皇子が前に。ルシアンが一歩、石床に音を置いた。

「この婚約は、帝国の恥ではない。選択だ」

短い。だが芯に熱がある。アルトリウスはその背に立ち、視線で支えた。震えは膝ではなく喉に来ている。強くなる訓練は、筋ではない。声だ。視線だ。沈黙の使い方だ。

「……共に、雄になろう」

最後の一文に、アルトリウスの胸が熱を帯びる。雄——おずおずと礼だけを取る皇子ではなく、自ら条件を示し、頷きを引き出す者へ。あの言葉を、国民の前で言えた。今日の到達点としては、十分だ。

指輪交換は、少しだけ滑った。侍従が差し出した小さなクッションに、なぜか税目の目録が刺さっている。

「……これは」

「経理が、興奮して」

司教の咳払いで笑いは霧のように消え、代わりのクッションが駆けてきた。こういうぬるさは悪くない。場は柔らぎ、目録は後で役に立つ。

儀礼の締めくくり。「感応紋」の魔法陣が開き、薄い光が二人の足元に描かれた。蔦の紋が手首へ這い、肌の内側へ吸い込まれていく。痛みはない。ほんの少し、冷たい。二つの鼓動が重なる瞬間があった。縁結びの紋は見えない。見えないからこそ、言葉で重ねる。

「婚約を公に証す」

拍手は大きすぎず、小さすぎず、木壁にやわらかく返ってきた。

儀礼が終わるや、二人は小礼拝堂へ移される。公では前に。私室では——支える。扉が閉まる。香の匂いが薄れ、蜜蝋の甘さが残る。

「息、浅い」

囁くと、ルシアンは喉を撫でて見せた。頑張ったね、の代わりに、指で短く撫でる。抱き締めたい。だが先に、約束だ。

「契約を」

「うん」

書記官が二人に向けて巻紙を開く。言葉は政治と同じ、明文化する。体のことも政治の延長だ。交渉のために、合意がいる。

「合意契約。可、不可、合図、アフターケア、読み上げます」

ちょうどそのとき、合唱隊の準備の鐘が鳴った。扉の向こうで少年らが「合図」の cue を今だと勘違いし、一節を歌いかけて、祭壇裏がばたばたする。司教の苦い咳払いが二度。静かになった。

アルトリウスは笑いを呑み込み、ルシアンへ視線で問う。続けよう。そう言う。

「可:手首への軽い拘束、頸への口付け、指示に従う訓練。不可:痛みを目的とする行為、跡の残る強い拘束、呼吸に影響する行為」

ルシアンの喉が小さく上下する。アルトリウスは続ける。

「合図。口頭のセーフワードは『アマランス』。発声できない場合は左手を三度叩く」

「三度?」

「二度は癖で出るって、前に言ってた」

「……覚えてたんだ」

短いやり取りで、安心が流れるのがわかる。近い。けれど触れない。順序がある。

書記官が羽根ペンを止める。

「アフターケア。温かい飲み物。抱擁と体温の共有。魔紋の冷却処置。入浴の介助。翌朝の体調確認。加えて、感情の確認を言葉でする」

「言葉で」

壇上のときより少しだけ、素で柔らかい声。

「週一回のスイッチ・デーを設ける。火の曜日。公務後に時間を確保する」

「公では、私が前に。私室では、君が支える」

「うん。火の曜日だけ、交代」

短い文を積み上げる。政治と同じ。曖昧は流血を呼ぶ。体でも同じだ。

巻紙に二人の名が並ぶ。アルトリウスは筆を置き、ルシアンの手の甲を親指で軽く押して、「ありがとう」と言った。おめでとう、ではない。ありがとう、だ。

扉がこんこんと叩かれ、宰相が顔をのぞかせる。

「地下街の顔役が、挨拶を望んでおります。大聖堂の外階段にて」

「今?」

「はい。大通りは祝祭で塞がっておりますので、納骨堂の回廊を」

納骨堂。冷える場所だ。反対派が潜るには都合がいい。アルトリウスはルシアンを見る。誰が前に立つか。ここは公。皇子の名が先に出る場だ。

「……私が行く」

「隣に立つ」

決めごとは、支えるためにある。

納骨堂の階段は薄暗く、蝋燭の灯が骨壺の白さを鈍く照らす。香はない。石の匂い。水の冷たさ。足音は響きやすい。つまり、逃げる音も追う音も知らせてしまう。

射し口に、男が一人。地下街の顔役——金の歯を見せない笑い。背後に影、三。武器は持っていない。ここで抜く者は愚かだ。

「おめでとうございます」

低く頭を下げる。礼は深い。だが目は笑わない。

「祝宴の露店、税を少し軽くしていただけると、下の者が泣いて喜びますが」

「半減の通達は出してある」

ルシアンは即答した。声は壇上より自然で、芯は残る。

「当日分だけ免除しよう。屋台一つに一枚銀——従来の徴収法は見直す。次の市までに詳細を詰めたい」

顔役の目がわずかに動く。驚き。押し返された、と理解した表情。

「……話が早い」

「時間がないから」

ルシアンの指が、ほんのわずかにアルトリウスの袖を探す。アルトリウスは袖越しに指先を返す。視線は崩さない。雄になる訓練は、唇より先に足裏から始まる。ここで一歩も退かない。退くときは、二人で合図して退く。

「納骨堂への寄進は、変わらず続けます」

顔役が付け加える。階段上には司教の影。力の線は三つ——大聖堂、地下街、王族。今日から、四つ目が生まれる。二人の線だ。二重統治は常に揺れる。揺れを揺れとして受け取るのも、また訓練。

祝祭は夜まで続いた。やっと自室に戻る。扉が閉まる。廊下のざわめきが薄まる。

「……どうだった」

「怖かった。でも、逃げなかった」

「よくやった」

アルトリウスはようやく胸に引き寄せた。重さを預ける練習は、抱擁から始める。ルシアンの肩が小さく落ちる。力を抜く、という技術。

「火の曜日、忘れないで」

「忘れない。合図は?」

「『アマランス』」

「うん。君の声で、言ってほしい」

赤くなる。視線を逸らす。可愛い。けれど、可愛いだけでは終わらない。彼は今日、地下の影に向かって「今は免除」と言えた。短く、効果的に。雄の声だった。

「明日は出立だ。森を抜けて、帝都へ——橋の、もう一方の岸へ」

「森で、何が待つかな」

「狼煙か、歌か。どちらでも対応できるように」

「ああ」

灯りを落とす。二人は手を繋いだ。指の蔓紋がほんのり温かい。言葉にしたから、触れられる。触れられるから、次がある。

次回、第2話:合意契約、可と不可

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