ANMELDEN「主婦のくせに片付けくらいしとけよ。俺がどれだけ稼いでると思ってんだ?」 自称年収一千万円のモラハラ夫・直樹に見下され続ける妻の真尋。怒るでもなく微笑んだ彼女が始めたのは、完璧で静かな「脱出計画」だった。 冷凍庫を空にし、押し入れから自分の私物を削り取っていく真尋。夫が「出張」という名の嘘で家を空けるその瞬間を、彼女は冷ややかに待っていた。 夫は何も知らない。乗っている車も住む家も、すべて妻の名義でその手の中にあったことを。 夫が出張から帰ってきた時、家から消えていたのは荷物だけではなく——。 「部屋を片付けろ」と言われた妻が仕掛ける、跡形もない完全脱出&大逆転劇!
Mehr anzeigenかつて掃除や洗濯を完璧にこなしていた私に向かって、「主婦は気楽でいいよな」「世の中の厳しさが分かっていない」とモラハラ発言を繰り返していた元夫の直樹。現在直樹とその母親が住んでいる家は、私が祖母から相続したものだ。そこに直樹が居座っていた。このままにしていたら当然のようにずっと住み続けてしまう。 私としても思い出ができてしまったので、取り返してももう住めない。建物も古くなっていたし、思い切って取り壊して売ってしまうことにした。 そして、取り壊し当日の朝。 元の我が家の前に到着した私は、思わず呆れ果ててしまった。 今日が家の解体日だというのに、直樹と義母は家の中から荷物の運び出しすらしていなかったのだ。 私が脱出した際、私名義の家具や家電はすべて引き揚げて売却したため、家の中は完全にもぬけの殻だったはずだ。けれど、そのままでは生活ができないからと、彼らは義母の乏しい老後の貯蓄を取り崩し、一人暮らし用の小さな冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどの最低限の家電を買い揃えていたらしい。 だが、勝てるはずもない案件で弁護士費用を無駄に使ってしまったため、義母の貯金はすでに底をついていた。引っ越し業者を頼むお金も、次に住む物件の契約資金すら残っていなかったのだ。 やがて、重々しいエンジン音を響かせて、大型の重機が現場に運び込まれてきた。 現場に立つ私の姿を見つけるやいなや、直樹と義母は「チャンスだ」とばかりに目を血走らせ、私の前に立ちはだかった。 「真尋! 頼むから工事を止めてくれ!」 何を言っているのか。もう、業者さんも来ているのに止まるわけがない。 「俺たちを笑いに来たのか! 家がなくなったら本当に住むところがなくなるんだぞ!」 私はある意味、笑いに来たのかもしれない。別に来なくても解体作業は業者さんがやってくれる。目の前で泣き言を言う直樹の言葉を浴びながら、私は口元が緩んでいかもしれない。
現在直樹とその母親が住んでいる家は、私が祖母から相続したものだ。そこに直樹が居座っていた。このままにしていたら当然のようにずっと住み続けてしまう。私としても思い出ができてしまったので、取り返してももう住めない。建物も古くなっていたし、思い切って取り壊して売ってしまうことにした。そして、取り壊し当日の朝。 元の我が家の前に到着した私は、思わず呆れ果ててしまった。 今日が家の解体日だというのに、直樹と義母は家の中から荷物の運び出しすらしていなかったのだ。 私が脱出した際、私名義の家具や家電はすべて引き揚げて売却したため、家の中は完全にもぬけの殻だったはずだ。けれど、そのままでは生活ができないからと、彼らは義母の乏しい老後の貯蓄を取り崩し、一人暮らし用の小さな冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどの最低限の家電を買い揃えていたらしい。 だが、勝てるはずもない案件で弁護士費用を無駄に使ってしまったため、義母の貯金はすでに底をついていた。引っ越し業者を頼むお金も、次に住む物件の契約資金すら残っていなかったのだ。 やがて、重々しいエンジン音を響かせて、大型の重機が現場に運び込まれてきた。 現場に立つ私の姿を見つけるやいなや、直樹と義母は「チャンスだ」とばかりに目を血走らせ、私の前に立ちはだかった。 「真尋! 頼むから工事を止めてくれ!」 何を言っているのか。もう、業者さんも来ているのに止まるわけがない。「俺たちを笑いに来たのか! 家がなくなったら本当に住むところがなくなるんだぞ!」私はある意味、笑いに来たのかもしれない。別に来なくても解体作業は業者さんがやってくれる。目の前で泣き言を言う直樹の言葉を浴びながら、私は口元が緩んでいかもしれない。 開口一番、自分たちの身勝手な都合と一方的な希望だけをまくし立てる元夫。 隣に立つ義母も、これまでの嫁いびりやモラハラをなかったことにしようと、必死に醜い言い訳を並べ立てる。 「そうよ真尋さん! 私はね、あなたが可愛かったからこそ佐伯家のやり方を教
数日後、直樹はあろうことか自前の弁護士を引き連れて、再びこちらの弁護士事務所へと乗り込んできた。前回あんなに惨敗したというのに、隣に味方の弁護士を従えているせいか、その表情には隠しきれないドヤ顔が浮かんでいる。(弁護士を連れて相手の事務所に乗り込むなんて、着手金だけでも二〇万から三〇万……こんな勝てる見込みのない無謀な案件なら、下手したら五〇万近く請求されているはずだけど……どこからそんなお金を?)不審に思ってスマートフォンを確認すると、ブロックを解除していた義母から頭の痛くなるような長文メッセージが届いていた。『弁護士先生にたっぷりお金を払ったわ! あなたから「慰謝料」と「養育費」と「遺産分配」を根こそぎぶんどってもらうんだから! 覚悟しなさい!』メッセージを読みながら、私は思わず天を仰いだ。 私が何をしたから「慰謝料」が発生するというのか。子どももいないのに「養育費」とは一体誰を育てる費用なのか。直樹の「養育費」とでも言いたいのだろうか。「遺産分配」に至っては冗談としか思えない。誰が死んだというのだ。まさか私? 勝手に殺さないでほしいのだが、仮に今私が死んだとしても、すでに他人である直樹の手には一円だって渡らない。こんな常識も言葉の意味も知らない連中に「佐伯家の味を覚えていない」「掃除の仕方が間違っている」と威張り散らされていたのかと思うと、怒りを通り越して惨めさと哀れみが込み上げてくる。対面に座った相手の弁護士が、咳払いを一つして高圧的に書類を叩いた。「朝比奈真尋様。我が依頼人は、あなたが小説執筆で得た多額の収益につ
弁護士事務所の重厚な応接室。 対面に座る直樹は、怒りと焦りで顔を真っ赤にし、テーブルを叩く勢いで身を乗り出してきた。「俺には金がないんだよ! お前が通帳も金も全部持って行ったからだ! これは違法だろ! 生活費を返せ!」まじめな顔をして叫ぶ元夫を前に、私はピクリとも動かず、ただ冷ややかな視線を向ける。弁護士さんからの事前の指示通り、私は一言も発しない。私が直接言葉を交わす価値など、この男にはないのだ。私のかたわらに座る担当弁護士が、静かに眼鏡の奥の目を光らせ、書類に目を落としたまま淡々と口を開いた。「佐伯直樹様。生活費とおっしゃいますが、あなたの給料はずっと手取り十万円ほどですね。保険会社に入社された初年度だけ、月給三十五万円という時期が一年間ほどあったようですが……直樹様がご覧になった通帳は、すべて朝比奈真尋様の口座となります」「は……? じゃあ、俺の年収は百二十万円くらいしかないってことかよ!?」「そうなりますね」「おかしいだろ! 真尋はただの主婦だぞ! 家事だってやってたのに、そんなに収入があるはずがない!」直樹の支離滅裂な叫びに、弁護士はフッと小さく口角を上げた。「朝比奈様は書籍を何冊も出版されているプロの小説家です。佐伯様の『労働収入』とは違い、著作権に伴う『権利収入』ですので、労働時間と収益は比例しません。朝比奈様ご個人の年収は、年間で一千万円を超えております」「む、難しいこ