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101.祭祀後の宴③

Auteur: 霞花怜
last update Dernière mise à jour: 2025-08-10 19:40:22

「さて、そんじゃ、大蛇の一族は討伐かねぇ」

 火産霊が大変物騒な話を始めた。

「神殺しを企てた一族だからな。皆殺しが妥当だろう」

 志那津が更に物騒な言葉を吐いた。

(神様が殺しって……。いやでも、神様って案外、そういうこと、するよね)

 理研にあった神話シリーズを蒼愛は読破しているが、どの国のどんな神様もビックリするくらいアグレッシブだったりする。

(子供向けの神話シリーズだったのに、ショッキングな内容、多かった気がする)

 そう考えると、志那津や火産霊の発言も不思議ではないのかもしれない。

「ちょっと早計かなぁ。あの時点では紅優も蒼愛も神様じゃなかった。色彩の宝石と均衡を守る妖狐だ。言い逃れされたら厳しいね」

 月詠見の意見に、蒼愛はほっとした。

「須勢理の証言を虚偽と言い張る姿勢も容易に想像できるね」

 淤加美が考察を付け足した。

「大蛇の話なんざ、聞かなくっていいんじゃねぇか? それこそ、現行犯で捕まえでもしねぇ限り、素直に吐いたりしねぇだろうぜ」

 火産霊の言葉を待っていましたとばかりに月詠見が飛びついた。

「そう、現行犯なんだよね、やっぱり。本当は色彩の宝石を盗んでもらおうと思っていたんだけど。あの宝石はもう盗める代物じゃなくなっちゃったからね」

 月詠見に言われて、蒼愛は思い出した。

(そうだった。盗んでもらうために、わざと不完全な宝石を奉る予定だったのに)

 うっかり完璧な本物を作ってしまった。

 紅優も同じことを思ったのか、あんぐりと口を開いている。

「あれだけの神力を込めた宝石を盗めるのは、紅優か蒼愛しかいないからね」

 淤加美にダメ押しされて、二人は小さくなった。

「あぁ、別にいいんだよ。最初は須勢理に盗んでもらって拷問でもするつもりだったんだから。蛇々も八俣も自分たちで盗みになんか来ないだろうし、偽物でも盗めなかっただろうからね」

 月詠見がニコニコと須勢理に笑顔を向ける。

 須勢理が怯えて
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