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第七話:準々決勝の激闘、限界の向こう側

last update Zuletzt aktualisiert: 08.02.2026 14:00:03

八月も中旬に差し掛かり、福岡大会はベスト8の準々決勝を迎えていた。福丘高校の対戦相手は、福岡県内でも近年急成長を遂げた強豪・青峰学園高校。公立ながらスカウトの目が光るチームで、特に3番から5番にかけてのクリーンナップは「青峰の破壊者」と恐れられ、打線全体の長打力が脅威だ。ピッチャーは3年生の左腕・霧島。球速は145キロ台だが、抜群の制球とスプリット・カーブ・チェンジアップの多彩な変化球で、福丘打線を翻弄するタイプとして知られている。

試合前日の夜、寮の部屋で球太はベッドに座り、グローブを膝に置いていた。健が隣のベッドから声をかける。

「明日、準々決勝だな。先発は涼だってよ」

球太は頷いた。

「知ってる。俺は中継ぎ待機。ピンチが来たら……絶対に抑える」

健は天井を見上げながら言った。

「涼の球、最近158キロ出てるって噂だぞ。お前も152キロ超えたけど、まだ差がある。でも……今日の練習で見たお前のフォーク、落ち幅がエグい。あれなら、霧島の打線だって抑えられる」

球太はグローブを握りしめた。

「抑えたい。夏のマウンドで、もっと長く投げたい」

窓の外では、遠くで蝉の声がまだ鳴いていた。夏の大会は、容赦なく選手を追い詰める。

試合当日。球場は観客で埋まり、両校の応援団が交互に声を張り上げる。気温は35度を超え、グラウンドの土は熱を帯びて蒸気を上げている。選手たちはすでに汗でユニフォームが重くなっていた。

1回表、福丘の攻撃。霧島の初球は外角低めのスプリット。福丘の1番が空振り三振。続く打者も三振。3番の大石がようやく四球を選び、続く4番がセンター前ヒット。1・三塁のチャンス。

打席は涼。涼のバットが、霧島のストレートを捉える。

カキーン!

打球はレフトスタンドへ……!

先制3ラン! スコア3-0!

スタンドが爆発する。涼はゆっくりとダイヤモンドを回り、ホームを踏んだ。ベンチに戻ると、球太が拳を突き出した。

「ナイスホームラン! お前、打ってもエースじゃん」

涼は息を整えながら言った。

「まだ序盤だ。霧島は粘る」

1回裏。福丘の守備。マウンドに立つ涼。

初球、ストレート。158キロ。ミットが爆音を立てる。

青峰学園の1番が空振り三振。2番も三振。3番のクリーンナップに四球を与えるが、4番をチェンジアップで三振。

1回無失点。ベンチに戻った涼の肩が、わずかに上下しているのが見えた。

2回、3回と試合は進む。涼の投球は圧巻だった。ストレートは157~158キロを維持。スライダーは鋭く曲がり、チェンジアップは打者のタイミングを完全に外す。青峰学園打線は手も足も出ない。

スコアは3-0のまま、5回裏まで続く。

5回表、福丘の攻撃。2アウトから翔がレフト前ヒット。続く打者が四球で1・二塁。

打席は球太。霧島の初球、外角スプリット。球太は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。

三球目、真ん中低めチェンジアップ。球太のバットが、渾身で振られる。

カキーン!

打球はライト線へ。フェンスまで……!

ライトがフェンスに激突しながらキャッチ! アウト!

だが、翔が生還! 追加点、4-0!

球太はベンチに戻りながら、悔しさを噛みしめた。

「また……あと少しだった」

6回裏。青峰学園の攻撃。涼の投球に、ようやく火がついた。

1アウトから連続安打。1アウト一・三塁のピンチ。

西田がマウンドへ向かい、涼に声をかける。

「涼、腕が少し落ちてる。ストレートのキレが……」

涼は首を振った。

「まだいけます」

次の打者、青峰学園の4番。フルカウントからの勝負球、ストレート。

打者が振り抜く。カキーン!

打球はレフトへ。高く、遠く……!

ホームラン! 4-2!

ベンチが静まり返る。涼の表情に、初めての動揺が見えた。

続く打者に四球。1アウト一塁。

監督が立ち上がった。

「早乙女! 準備しろ!」

球太は即座に立ち上がり、ブルペンへ向かう。心臓が激しく鳴っていた。

しかし、涼はマウンドで監督に視線を送り、首を振る。

「監督……あと1イニング、ください」

山田監督は一瞬迷ったが、頷いた。

「わかった。だが、次にランナーを進めたら即交代だ」

球太はベンチに戻り、グローブを握りしめて祈るように見つめた。

涼の次の投球。ストレート。159キロ!

打者が空振り三振!

続く打者も三振。最後の打者をショートゴロに打ち取る。

6回を2失点で締め、涼はベンチに戻った。息が荒く、肩が震えている。

球太が近づき、低く言った。

「よく抑えた……。すげえよ、涼」

涼は小さく笑った。

「ありがとう。でも……腕が重い。お前、準備しといてくれ」

7回表、福丘の攻撃。1点を追加し、5-2。

7回裏。涼が続投。

だが、疲労が明らかだった。初球から連続四球。ノーアウト一・二塁。

監督がマウンドへ向かう。

「篠原、降りろ」

涼は抵抗した。

「監督……まだ……」

山田監督の声が厳しくなる。

「無理はさせるな。お前の夏は、まだ終わってない。早乙女に任せろ」

涼は唇を噛み、ゆっくりとマウンドを降りた。ベンチに戻る背中が、いつもより小さく見えた。

球太は監督の視線を受け、立ち上がった。

「早乙女。ピンチを抑えろ。信じてるぞ」

球太はマウンドへ。土を踏みしめ、深呼吸。

キャッチャーは西田。西田がミットを構え、言った。

「球太。お前のフォークで終わらせろ。俺が全部受け止める」

球太は頷く。ノーアウト一・二塁。打者は青峰学園の7番。

初球、ストレート。152キロ。ストライク。

二球目、外角スライダー。ファウル。

三球目、内角フォーク。落ちる!

空振り三振!

続く打者。8番。フルカウントからの勝負球、ストレート。

バシュン! 153キロ。三振!

最後の打者。9番。球太は叫んだ。

「これで終わりだ!」

全力のフォーク。ボールが急降下。

打者が空振り!

「バッターアウト!」

7回無失点! ピンチを脱した!

ベンチが総立ち。翔が叫ぶ。

「球太! 最高だ!!」

8回表、福丘の攻撃。涼が代打で登場し、センター前ヒット。続く打者がタイムリーで追加点。6-2。

8回裏。球太が続投。

三者凡退に抑える。完璧なリリーフ。

9回表。福丘がさらに1点を追加。7-2。

9回裏。最終回、5点リード。球太がマウンドに立つ。

監督がベンチから声をかけた。

「早乙女。最後まで投げ切れ。夏のマウンドを、味わえ」

球太は頷き、グローブを叩いた。

初球、ストレート。154キロ。ストライク。

青峰学園の1番が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をフォークで三振!

試合終了! 福丘の勝利。7-2。

グラウンドに歓声が響く。球太はマウンドで膝をつき、土に額を押し当てた。汗と涙が混じり、土に染みる。

仲間たちが駆け寄ってくる。翔が背中を抱き上げる。

「球太! お前、3イニング無失点! 完璧だぞ!」

涼がゆっくり近づき、球太の肩に手を置いた。

「ありがとう、早乙女。お前がいてくれたから……俺は最後まで投げられた」

球太は顔を上げ、涼を見た。

「お前が作った流れだよ。ホームランも、先制も……全部」

二人は拳を合わせた。スタンドの歓声が、二人を包む。

試合後、部室で監督が二人を呼んだ。

「篠原、早乙女。今日の投球、最高だった。準決勝も、二人で切り開け」

涼は静かに頷いた。

「はい」

球太は声を張った。

「絶対に甲子園に行きます!」

監督は小さく笑った。

「そうだな。まだ道は長いが……お前たちなら、行ける」

夜、寮に戻った球太はベッドに横になり、今日のマウンドを思い出した。154キロの感触。ピンチを抑えた瞬間。涼の視線。

「まだ……エースじゃない。でも、俺たちは二人で、夏を戦ってる」

窓の外で、夜風が吹いていた。準決勝は、もうすぐ。甲子園への道は、二人で切り開いていく。

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