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第六話:3回戦のピンチ、涼のマウンドと球太の叫び

last update Zuletzt aktualisiert: 07.02.2026 14:00:35

八月上旬。福岡大会はベスト16に突入していた。福丘高校は順調に勝ち上がり、3回戦の相手は強豪・東福岡高校。昨年ベスト8のチームで、ピッチャーは2年生の右腕・高木がエース。球速148キロ、鋭いスライダーとチェンジアップを武器に、福丘打線を苦しめる存在だ。

試合前日、部室で山田監督がメンバー表を貼り出した。

先発ピッチャー:篠原涼(1年・背番号11)

中継ぎ:早乙女球太(1年・背番号18)

球太はリストを見て、静かに息を吐いた。初戦・2回戦ではベンチのままだったが、今回は中継ぎ待機。ピンチが来れば、マウンドに立つ可能性がある。

「篠原が先発か……。涼の初の公式戦先発だな」

球太は涼の背中を見つめた。涼はいつも通り無表情で、グローブを磨いている。

試合当日、球場は熱気で満ちていた。スタンドは両校の応援団で割れんばかりの歓声。太鼓の音が響き、夏の陽射しがグラウンドを白く焼く。

1回表、福丘の攻撃。東福岡の高木が立ちはだかる。初球から148キロのストレート。福丘の1番が空振り三振。続く打者も凡打。3番の大石がようやくセンター前ヒットで出塁するが、後続が倒れ、無得点。

1回裏。福丘の守備。マウンドに立つ涼。

キャッチャーは西田。西田がミットを構え、低く言った。

「涼、いつも通りだ。俺が全部受け止める」

涼は頷き、セットポジション。

初球、ストレート。

バシュン!!

球速表示板:157キロ。

スタンドがどよめく。東福岡の1番打者が、タイミングを完全に外され、空振り三振。

続く2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をチェンジアップで三振。

1回無失点。ベンチに戻った涼に、球太が声をかけた。

「すげえスタートだな。157キロ……新記録じゃねえか」

涼は小さく息を吐いた。

「まだ序盤だ。東福岡は粘るぞ」

試合は2回、3回と進む。涼の投球は圧巻だった。ストレートは156~157キロを連発。スライダーは鋭く曲がり、チェンジアップは打者の膝を抉る。東福岡打線は手も足も出ない。

スコアは0-0のまま、5回裏まで続く。

5回表、福丘の攻撃。ついに涼が打席に立つ。涼は打者としても抜群。初球を捉え、レフト前ヒット! 続く打者が送りバントを決め、1アウト二塁。

打席は球太。ベンチの端で待機していたが、今日は打順が回ってきた。

高木の初球、外角スライダー。球太は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。

三球目、真ん中低めストレート。球太のバットが、渾身で振られる。

カキーン!

打球はライト線へ。フェンスまで……!

ライトがダイビングキャッチ! アウト!

だが、涼が生還! 福丘が先制、1-0!

ベンチが沸く。球太はベンチに戻りながら、悔しさを噛みしめた。

「あと少しだった……」

6回裏。東福岡の攻撃。涼の投球に、ようやく火がついた。1アウトから連続安打。1アウト一・三塁のピンチ。

西田がマウンドへ向かい、涼に声をかける。

「涼、落ち着け。次はフォアボールだけは避けろ」

涼は頷くが、表情にわずかな焦りが見える。

次の打者。東福岡の4番。フルカウントからの勝負球、ストレート。

打者が振り抜く。カキーン!

打球はセンターへ。翔がジャンプするが、届かない……!

タイムリー二塁打! 同点、1-1。さらに続く打者にタイムリー三塁打! 逆転、1-2。

ベンチが静まり返る。監督が立ち上がった。

「早乙女! 準備しろ!」

球太の心臓が激しく鳴った。ピンチの場面で、ついに自分の出番だ。

マウンドに立つ涼の背中が、わずかに震えているように見えた。涼は監督に視線を送り、首を振る。

「まだ……いけます」

監督は一瞬迷ったが、頷いた。

「わかった。だが、次にランナーを進めたら交代だ」

球太はベンチでグローブを握りしめ、祈るように見つめた。

涼の次の投球。ストレート。158キロ!

打者が空振り三振!

続く打者も三振。最後の打者をショートゴロに打ち取る。

6回を2失点で締め、涼はベンチに戻った。息が荒く、肩が上下している。

球太が近づき、声を低くした。

「よく抑えたな。すげえよ」

涼は小さく笑った。

「まだ……終わってねえ」

7回表、福丘の攻撃。2アウトから大石が四球。続く打者がヒットで1・三塁。

打席は涼。涼のバットが、高木のストレートを捉える。

カキーン!!

打球はレフトスタンドへ……!

同点ホームラン! 3-3!

スタンドが爆発する。涼はゆっくりとダイヤモンドを回り、ホームベースを踏んだ。ベンチの仲間たちが飛び出してくる。

球太も駆け寄り、涼の肩を叩いた。

「お前……打ってもすげえな!」

涼は息を切らしながら言った。

「今度は……お前の番だ」

8回裏。スコア3-3。涼が続投。

だが、疲れが見え始めた。初球から連続四球。1アウト一・二塁。

監督がマウンドへ向かう。

「篠原、よくやった。降りろ」

涼は一瞬抵抗したが、監督の視線に頷いた。

ベンチに戻る涼。球太が立ち上がる。

「監督! 俺に任せてください!」

山田監督は球太を見て、静かに言った。

「早乙女。ピンチを抑えろ。信じてるぞ」

球太はマウンドへ。土を踏みしめ、深呼吸。

キャッチャーは西田。西田がミットを構え、言った。

「球太。お前のフォークで終わらせろ」

球太は頷く。1アウト一・二塁。打者は東福岡の6番。

初球、ストレート。150キロ。ストライク。

二球目、外角スライダー。ファウル。

三球目、内角フォーク。落ちる!

空振り三振!

続く打者。7番。フルカウントからの勝負球、ストレート。

バシュン! 三振!

最後の打者。8番。球太は叫んだ。

「これで終わりだ!」

全力のフォーク。ボールが急降下。

打者が空振り!

「バッターアウト!」

8回無失点! ピンチを脱した!

ベンチが総立ち。翔が叫ぶ。

「球太! 最高だ!!」

9回表、福丘の攻撃。1点を追加し、4-3。

9回裏。球太が続投。最終回、1点リード。

三者凡退に抑え、試合終了!

福丘の勝利。4-3。

グラウンドに歓声が響く。球太はマウンドでグローブを天に掲げた。涼が駆け寄り、拳を合わせた。

「ありがとう、早乙女。お前のおかげだ」

球太は笑った。

「お前が作った流れだよ。次は……準々決勝だな」

二人は肩を並べ、スタンドの歓声を受け止めた。

夏の大会は、まだ続く。甲子園への道は、二人で切り開いていく。

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