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第12話
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スウィートの電撃婚：謎の旦那様はなんと億万長者だった！ 第892話
その頃、車内にいた暗影者のリーダーアンソニーのもとに一通の情報が届いた。時也が之也の者に捕らえられ、この街の反対側にいるという内容だった。送り主は牧野白。時也の補佐役である彼からの情報に誤りがあるはずがない。つまり――ボスはあの倉庫にはいない。アンソニーは倉庫を一瞥すると、時也の救出こそ最優先だと判断し、下車せずに全員へ命令を下した。街のもう一方へ向かい、時也を救い出せ、と。その指示が坊主頭のいる車にも伝わると、車内の面々は凍りついた。「騙されたな。これはフェイントだ」敬吾さんが低く言う。「之也めは我々が南雲様を守っているのを知って、わざと彼女をこっちへ誘い出したのだ」「許せん！之也め、なんて卑劣なんだ！」「まったくだ！」皆が口々に罵る中、坊主頭だけは倉庫の方角を見つめ、口ごもった。「全員でボスを助けに行ったら、南雲様はどうなる？ここは人影のない場所だ。彼女を一人で戻らせる気か？」それを聞いた敬吾さんは、坊主頭の肩を軽く叩いて言った。「だからこそ安全なんだ。ここには誰も来ない。南雲様は必ず無事だ。それに、ボスが街の向こうで危険に晒されている以上、我々は一刻も早く駆けつけねばならん。南雲様は自分で稲葉家へ戻れるはずだ」坊主頭は視線を倉庫の扉に向けた。すでに闇に溶けて見えなくなったその影に、胸の奥がざわついて仕方なかった。一方その頃、監視映像で車列が立ち去ったのを確認した雪子の顔に、ついに勝ち誇った笑みが浮かぶ。「さすがね。華恋を偽の場所へ誘い出してくれたおかげで、あの女を始末する機会ができたわ」「最初から約束しただろう、手を貸すと」雪子の笑みを目にし、之也も仮面の下で口元を吊り上げた。「このプレゼント、気に入ってもらえたかな？」雪子が答える間もなく、すでに戻ったはずの車の一台が、急にハンドルを切り直し、倉庫へ向け突進していった。倉庫の中で華恋に手を下そうとしていた太った男も、その音に気づき振り返る。その一瞬の隙を逃さず、華恋は身を屈めて携帯の光を消した。倉庫はたちまち暗闇に包まれる。誰も、誰の姿も見えない。太った男は一瞬固まった。だが次の瞬間、銃声が響き、彼はその場に崩れ落ちた。華恋には何も見えなかったが、重い体が倒れる音に心臓が凍りつき、思わず唇を押さえて
スウィートの電撃婚：謎の旦那様はなんと億万長者だった！ 第891話
話を終えると、華恋は車を発進させ、闇の中へと消えていった。それを追ってきた暗影者たちは、その光景に一様に呆然とした。とくに坊主頭は、思わず口を開いた。「ちっ......あの女、何をするつもりだ！？」敬吾さんもまた華恋の行動に驚き、しばらく声を失っていたが、やっと絞り出す。「一体何を考えている？ボディガードを置き去りにして......死に行く気か」坊主頭は得意げに鼻を鳴らした。「だから言っただろ、あの女は化け狐みたいなものだ。ボスは惑わされただけさ」その時、前方でボディガードに話を聞きに行っていた仲間が戻ってきた。険しい表情を浮かべ、皆の視線を受けながら低い声で告げる。「......ボスがどうやら危ないらしい」「なに！？」車内は一瞬で騒然となった。坊主頭は思わず立ち上がった。「ボスが危ない？そんなはずがない！」「今は問いただしてる場合じゃない」戻ってきた者は車に飛び乗り、短く言い放った。「急いで南雲様を追うぞ」坊主頭は呆然としたが、数十秒の後にようやく気づいた。「つまり......彼女が出ていったのは、ボスの危機を知っていたから？」男は答えなかった。だが、その沈黙がすでに答えになっていた。車内に静けさが落ちる。やがて敬吾さんが口を開いた。「......だからボディガードを降ろしたのか。無関係の人間を巻き込みたくなかったのだろう」刃の上を歩んできた者たちからすれば、それはあまりにも甘い判断だった。だが今回ばかりは、誰一人としてそう感じる者はいなかった。むしろ、華恋の行動に微かな敬意を抱き始めていた。沈黙のまま、車列は前へ進んでいる。一方その頃、後ろの事情など露知らずの華恋は、ただひたすら目的地へと迫っていた。彼女の運転は荒く、心臓は飛び出しそうだったが、瞳の奥には揺るがぬ決意が宿っていた。そして制限時間ぎりぎり、ついに倉庫の前に辿り着く。漆黒の夜、二本のヘッドライトだけが周囲を照らす。車を降りた華恋は、数歩進んだ途端に完全な闇に飲み込まれた。それでも、彼女は一切怯まなかった。倉庫の扉に手をかけ、一気に押し開けた。中は静まり返り、何も見えない。息を吸い、華恋は携帯のライトを点けた。するとすぐに、隅に横たわる人影を見つける。男はボロ
スウィートの電撃婚：謎の旦那様はなんと億万長者だった！ 第890話
稲葉家前。華恋が車を要求していると知ったボディガードは慌てた。「南雲様、奥様が出かける前に何度も言い付けられました。あなたを絶対に外に出すなと。どうか私たちを困らせないでください」「Kさんが危ない目に遭ってるのに、ここでいられるわけないでしょ？」華恋は今にも跪きそうになりながら必死に訴えた。「お願い、車を用意して。二時間以内に辿り着けなければ、彼は本当に危ないの」華恋の言うKさんが、かの有名なSY社長であることは稲葉家の者なら皆知っていた。だからボディガードも時也に危機が迫っていると聞いて、顔色を変えた。「それなら......南雲様、まず若様か奥様に電話をして確認してください。許可なくしては、どうしてもお通しできません」「二人とも電話に出ないの。お願い、外に出して。たとえ死んでも構わない」「確認がなくては......」華恋はボディガードの手をぎゅっと掴んだ。「お願い、外に出して」涙で赤く染まった目を見て、ボディガードは胸が痛んだ。「分かりました。私が運転してお送りします」華恋はやっと力を取り戻し、深く頭を下げた。「ありがとう、本当にありがとう」ボディガードはすぐに車を回し、二人は雪子から送られた住所へ向かった。その頃、華恋を暗中で護衛していた暗影者の車も後を追っていた。一台の車内で、坊主頭の青年が武器を弄びながら不満げに言った。「ボスは彼女に外へ出るなと命じていたのに、真夜中にまた出かけるとは......」隣の年長者が肘で軽く小突いた。「命知らずか？そんな言葉がボスの耳に入ったら、お前はもう身辺に置いてもらえんぞ」青年は表情に恐れを見せなかったが、声は小さくなった。「敬吾さん、俺たちは暗影者の一員だぞ。命懸けの任務をこなしてきたってのに、毎日小娘の護衛なんて......もうボスの側を離れたくなる」「何を言う！」敬吾さんと呼ばれた老人は怒った。「ボスがおらねば、お前は今ここに生きていない」「それは分かってる。でも俺たちがついていくのは、ボスの力と器に惹かれたからだ。なのに今のボスは......まるであの女に惑わされているようじゃないか」「言葉が過ぎたぞ！」敬吾さんは鋭い眼差しを向けた。青年は口を噤んだが、心の不満は消えない。他の者たちも口には出さない
スウィートの電撃婚：謎の旦那様はなんと億万長者だった！ 第889話
医学会議の晩餐会場。水子はこうした学術色の強い場所にどうしても馴染めず、商治が洗面所に立った隙に、慌てて水を一口含み、気持ちを落ち着けようとした。ほんの一口飲んだところで、一つの影が水子の隣に腰を下ろした。そこは本来、商治の席だった。水子は不快げにその人物を見やる。ケイティだ。ケイティは熱心に手を差し出した。「こんにちは、まだ自己紹介していなかったわね。私はケイティ、シャーマン外交官の娘よ」水子は目の奥にある警戒を隠しながら言った。「こんにちは、小林水子です」「あなたのことは知ってるわ」ケイティはそう言って水子の返事を待った。だがいくら待っても返答はなく、水子はすでに別の方向へと視線を向けていた。「水子！」ケイティの声は突然厳しくなり、まるで罪人に向けるような調子だった。水子は居心地悪そうに眉をひそめた。「ケイティさん、何か御用ですか？」ケイティは怒りを露わにした。「あなた、本当に礼儀というものを知らないのね。稲葉先生はどうしてあなたみたいな女を好きになったのかしら」水子の眉が深く寄せられる。父に関する記憶が再び押し寄せ、思わず逃げ出したくなった。その時、耳元に温和だが力を帯びた声が届いた。「ケイティさん、俺がどんな人を好きになろうと、お前に口を出す権利はない。それに、人のことに口出しするような人間に、他人の品性を語る資格はないんじゃないか」水子が顔を上げると、怒りを浮かべた商治の姿があった。声は大きくはなかったが、彼自身がすでに人々の注目を集める存在であるため、周囲の視線が一斉にこちらへと集まった。外交官の娘であるケイティが、人前で叱責を受けるなど初めてのことだった。顔が一瞬で真っ赤になる。「私は彼女に話しかけただけなのに、返事をしなかったのよ。それって無礼じゃない？」水子が口を開こうとした瞬間、商治が言葉を被せた。「相手が返事をしないのは、お前のことが嫌いだからだ。それでもしつこく食い下がるなんて、それは下劣というものだろう」「下劣」という言葉に、ケイティは目を見開き、信じられないというように商治を見た。「稲葉先生、あなた......今、私を何て？」商治は水子を背にかばい、もう一度はっきりと言った。「お前は下劣だ」先ほどよりも大きな声だった
スウィートの電撃婚：謎の旦那様はなんと億万長者だった！ 第888話
之也は雪子の髪を放し、数歩後ろへ下がった。「彼のために、本当に俺と一緒になるつもりか？」雪子は迷わず言った。「彼のためなら、何だってできる」彼女の揺るぎない視線を見て、之也は目を細めた。「そんなことをして、意味があるのか？彼は気づきもしない。たとえ気づいたとしても心は動かない。なぜなら、彼は南雲華恋だけが好きだから」雪子の体が一瞬揺らいだが、すぐに落ち着きを取り戻した。「関係ないわ。彼に好きになってもらえたことは、一度もない」之也は、そこが雪子のすごいところだと感心した。彼女は身の程をわきまえている。だからこそ、好きになってもらえなくても、せめて彼という存在そのものを手に入れると言えるのだ。彼は机へ戻り、少し頭を下げながらも、目はずっと雪子を見据えていた。「惜しいな。さっきの会話を録音できなかったのは。でも安心しろ、俺はお前とは違う。好きになってもらえないなら、身体すら欲しくない。俺は、お前に本気で俺を愛させる！」そう言って、彼はパチンと音を立ててパソコンを開いた。「来い。今回の行動の狙いはお前じゃない、南雲だ」雪子は怪訝に思い、彼のそばに歩み寄った。画面には、血の海に倒れて顔が判別できない時也の姿が映っていた。雪子の心臓が一気に締めつけられた。「あなた……一体……」「安心しろ、気を失ってるだけだ。彼は簡単には死なない」之也は雪子に視線を向けた。「だが、俺の時間もそう長くはない。さて、華恋が先に稲葉家から飛び出して時也を探すか、それとも時也の部下が彼の失踪に気づくか……どっちが早いと思う？」雪子は尋ねた。「あなたは時也を利用して、南雲をおびき出すつもりね？」之也は大笑いした。「どうだ、俺ってお前に優しいだろ？」雪子は聞いた。「あなた、本気で南雲が出てこないと思ってるの？」「過去を忘れた女が、別の男のために命を懸けると思うか？しかも、彼女はこの場所にまったく土地勘がないんだ」そう言いながら、之也はキーボードを叩いた。画面の映像は謎の倉庫から、稲葉家の門前に切り替わった。雪子は目を見開いた。「まさか、稲葉家の敷地に監視カメラを仕掛けたの？！」之也は淡々と答えた。「稲葉家の中には無理だが、外なら可能だ」閉ざされた大門を見ながら、ふいに彼は楽し
スウィートの電撃婚：謎の旦那様はなんと億万長者だった！ 第887話
華恋は二階へ向かって歩き出したが、数歩進んだところで思わず足を止め、入口の方を振り返った。何度も見返してから、ようやく部屋へ戻った。パソコンの前に座ったものの、華恋は時折窓の方へと視線を向けてしまった。そこにもう車がいないとわかっていても、期待せずにはいられなかった。彼女は苛立ちながらパソコンを閉じると、立ち上がり、バルコニーへ出た。目に入ったのはたくさんの車だったが、彼女が見たい車は一台もなかった。そんなふうにしばらく眺めていると、部屋の中でスマホのベルが鳴り、彼女はようやく我に返った。華恋は部屋に戻り、画面を見るとまた知らない番号だった。考える間もなく切ってしまった。だが切った直後、その番号からメッセージが届いた。【Kさんが危険に遭った】華恋は不安になった。だが前にも、同じように「水子が怪我をした」と騙され、外に呼び出されたことを思い出した。そのときは誰かが裏で仕組んでいたのだ。犯人は捕まったが、同じ手口を使う者がいないとは限らない。無視しようとしたところに、二通目のメッセージが届いた。血の海に倒れた男の写真だった。顔は血で覆われて判別できなかったが、その真紅の瞳を華恋は一目で認識した。それはKさんだった！写真には時刻が表示されており、一時間前に撮られたものだと示されていた。華恋は慌てた。すぐに商治に電話をかけたが、誰も出なかった。次に水子へかけても、やはり繋がらない。さらに千代にも試したが、出なかった。途方に暮れていると、再びスマホが鳴った。今度は考える間もなく出てしまった。「あなたは誰？Kさんをどうしたの？」華恋がKさんを口にするのを聞き、すっかり時也のことを忘れているのだと、雪子の胸には複雑な感情が渦巻いた。「私の身分はどうでもいい。今、彼を救えるのはあなただけよ。これから場所を送る。二時間以内に来なければ、彼の死体を引き取ることになるわよ」そう言うと、雪子は震える手で電話を切った。切ったあと、彼女の額には冷たい汗が滲んでいた。顔を上げると、憎しみを帯びた目で之也を見た。「これで満足？」「そんな顔をするな。これはお前が望んだことだろう？俺はお前を助けるためにやったんだ」雪子は鋭く息を吸い込み、しばらく黙ったあと爆発した。「助ける？自分の野
