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2-75.辻女へ(1/3)

last update Last Updated: 2025-09-21 06:00:02

 冬凪、豆蔵くん、定吉くん、あたしの4人で白漆喰の土蔵の中を探したけれど白まゆまゆさんの姿はなかった。他のものに隠れるようにまゆまゆさんが入れるくらいの長櫃があった。もしやと思って開けてみたけれど中は空っぽだった。どこかに連れさらわれたのだろうか? でもまゆまゆさんはここから出られないはずだった。冬凪が扉のところで、

「黒いほう見てみよう」

 ひとまず外に出てみた。黒漆喰の土蔵の扉は閉じたままだった。こっちは中からしか開かない。裏手に回って行くと、なまこ壁が一カ所ひどく破壊され穴が開いていた。側に近寄って中を覗こうとしたら誰かに腕を強く掴まれた。振り向くと豆蔵くんで、首を横に振っている。

「どうしたの?」

「うう」

 中をよく見ろと言っているようだった。それで覗いてみると、そこから見えたのは黒土蔵の内部ではなく、萬百の星々が散らばる宇宙空間だった。白市松人形から射出された時に見る景色と同じようだった。

「これって亜空間?」

 冬凪が定吉くんに腕を持って貰って中を覗いた。その顔がゆがんで中に吸い込まれそうになっている。少し離れたあたしでさえ吸い込まれるような感じがした。恐ろしくなって、

「あんまり近づくと中に落ちちゃうよ」

 言われて冬凪はすぐに体を穴から離してくれた。

「誰か分からないけれど中に入ろうとしたんだね」

 もういちど白漆喰の土蔵に戻って白市松人形を調べた。それは無残に打ち壊されていたけれど動作はしているようだった。微かに排気音がしていたからだ。

「白まゆまゆさんはもしかしたらまだこの中にいるのかも」

 冬凪とあたしが来るといつもこの中から現れていた。

「それで輩はこれを壊して中を調べた」

「でも見つからなかった。それで黒漆喰のほうを探しに行った」

 そういうことらしかった。あとに残る謎は誰がということだった。

「やっぱりトラギク?」

「人柱の邪魔をしたせい?」

「あたしたちを20年前に行けなくするため?」

「「それな」」(死語構文)

 それが分かったとしてもどうすればいいか見当も付かなかった。トリマ土
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  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-75.辻女へ(3/3)

     辻バスに乗って冷房に浸っていると変なアナウンスが流れた。 〈♪ゴリゴリーン 次は辻沢女子高等学校前です。問題をお抱えですか? 当校はそんな女子の味方です。いつでもお気軽にご訪問くださいね〉  しかもこの声は……。 「あたし学校寄ってくからここで降りる。冬凪はどうする?」 「夏波が行くならあたしも行く。図書館寄りたい」  ということで二人でバスを降りて辻女に向った。下駄箱で図書館に行く冬凪と別れて前園記念部活動棟に向った。入り口のカフェテラスを覗くと、おばさんが一人、厨房の奥で新聞を見ていたので、 「おばさん、アイスありますか?」  と声を掛けてみた。いきなりで少し驚いた様子だったけれど、カウンターに出てきてくれて、 「あるよ。何にする?」 「ガリガリーン! を20本ください」  あとで園芸部来るって言ってた冬凪の分も買っておく。おばさんは一旦奥に入ってアイスの小袋を持って出てきた。 「山椒嫌いかい?」 「嫌いでないけど、アイスに山椒は」  200円を渡してそれを受け取った。 「そうかい。山椒入りも舌がピリピリして美味しいんだけどね」 なんか既視感あるなと思いつつおばさんの顔を見ると、蓑笠連中の生首そっくりだった。気づくと周りの音が遠くに聞こえていた。色が褪せて見えていた。周囲が世界にズレ込み始めていた。カウンターから離れて後ろを振り向くと、カフェテラスのあちこちに蓑笠連中の姿があった。笠の破れから黄色い瞳を覗かせ、箕の中の暗闇で生首がこちらを睨め付けながら、 「ともがらのわざをまもらん」  と呟いていた。  罠だった? でもあのアナウンスの声はそういう類いの声ではない。あたしは逃げることにした。園芸部に行って態勢を、というより考えを整えようと思った。カフェテラスを出て廊下を走りながら後ろを振り返った。蓑笠連中はいつものヘソ天這いで追いかけてくる。あれまじキモい。廊下ばかりでなく壁だの天井だのにへばりついてザワザワと寄せてくる。なんかどっかで見たことあるなと思ったらあれ。 〈ここから虫系グロ注意〉  ずいぶん前、まだあたしは小学生だった。小学校の通学路に山道があっ

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     冬凪とあたしは、お昼ご飯のおにぎりを食べながら、土山があったところをユンボがならしているのを眺めていた。 「あそこに土山を築くって普通のことなの?」  爆心地は広くいくらでも場所はあった。現に今だって竹林の際の所に土山を移動して十分な余裕があった。土木工事のことは全然分からないけれど、素人目にもど真ん中に土を盛る必要を感じなかった?  「赤さんがわざとやったと思うの?」  冬凪はあたしの言いたいことを分かったようだった。 「ありえないかな?」 「そうだとすると土山をどけさせた辻川ひまわりと敵対関係ってなるけど」  赤さんはここの遺跡調査会社に元からいた人ではなく臨時雇いなのだそうだ。冬凪が知っていたのは、辻沢の他の現場で一度だけ一緒になったことがあったからで、それまでは見たことがなかったのだそう。誰かが爆心地の遺跡調査を知って赤さんを派遣したとも考えられる。 「でも、調査が進めばいずれあそこも掘削入るし」  人柱防衛対策としては抜けている。現にさっさと退かされてしまっているのだし。冬凪とあたしは、少し注意しながら赤さんの様子を観察することにしたのだった。  赤さんは昼礼で、 「午後からは朝の作業の続きをします。幸い水溜まりの水はなくなって深掘りしたところだけがのこっていますが排水はポンプにまかせて掘削していきます。ユンボくんたちが中に入って、他の皆さんは土上げした泥を遠くになった土山に捨てに行ってください」 赤さんは「遠くになった」を強調して言った。たしかに真ん中にあったときよりも少し離れてはいる。 冬凪とあたしは豆蔵くんと定吉くんが掻き出したヘドロを箕に受けて土山に捨てに行く作業にあたった。朝に江本さんが言ったように水を含んだ土はすごく重かったし足場が悪くて歩きづらかった。豆蔵くんや定吉くんたち掘り手は土木作業のスターだ。ものすごい体力を必要とする分、掘れば掘っただけ、土量を稼げば稼ぐだけ賞賛を受ける。今だって一掻き毎に、 「ユンボくんさすが」 「力強いね、小ユンボくんは」  とかって年配の方たちから声が掛かる。でも炎天下で重たい箕を何往復も運ぶ土揚げだって、誰も言葉

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  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-74.釜を掘る(3/3)

     冬凪とあたしは待機時間を使ってまゆまゆさんに会いに行くことにした。辻川ひまわりの行動についてまゆまゆさんたちが何か知っているかもと思ったからだった。呼ばれもしないのに行っていいのかと冬凪に聞くと、「別にいいんだよ。あたしもフィールドワークのためだけに何度かジャンプをお願いしたことあるし」爆心地を出て竹林の小道を歩いていると後ろから誰かが付いてくる足音がした。振り返ると豆蔵くんと定吉くんだった。冬凪が、「どうしたの?」と聞くと、「ううう」と豆蔵くんは唸って手にしたカバンの中から真っ赤な入れ物を取りだして見せた。それに会わせて定吉くんも袈裟懸けバッグから同じものを出した。血液袋のようだった。「そうなんだ。ありがとう」冬凪の通訳によると、前回一回の浄血で貧血になってしまい惑星スイングバイについて行かれなかったから事前にこうして用意してきてくれたのだそう。鬼子である冬凪もあたしも浄血に耐性があったけれど、生身の人間? である豆蔵くんと定吉くんには連続ジャンプは無理だったのだ。「でも、これから飛ぶわけじゃないから付いてこなくていいよ」と言っても豆蔵くんも定吉くんも聞かなかった。その先に何が待ち構えているか分からないのに、向こう見ずというか従順というか。夕霧物語でアラビア人の3人と別れ話をした時の伊左衛門もこんな気持ちだったのかもしれないと思った。白漆喰の土蔵の扉の前に立ったらすでに少し開いていた。中に入ると異常が起きたことがすぐに分かった。いつも正面奥に鎮座している白市松人形の姿が無かったから。豆蔵くんと定吉くんがシャムシールの鞘を払って冬凪とあたしの前に出る。豆蔵くんの背中に力が入りビシッと音をたてた。さらに奥に進むと白市松人形はあったにはあったけれど上半身が破壊されて、中の空間がむき出しになっていたのだった。「「まゆまゆさん!」」冬凪とあたしは大声で二人を呼んだ。でも返事

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-74.釜を掘る(2/3)

     釜場を掘り終わり、冬凪とあたしが担当した水溜まりの水が捌けて最初の休憩になった。冬凪とハウスに戻りながら、「なんか疲れた」「あたしも」 江本さんとの作業は別の意味でエネルギーを吸い取られるので倍疲れるのだった。エネルギーヴァンパイアとはこういう人のことをいうのだろう。冬凪とあたしはハウスの日陰に座って排水作業があらかた終わった爆心地を眺めていた。すると赤さん初め調査員の人たちがワタワタと白い防護シートの外に出て行くのが見えた。なんだろうと見ていると、「お客さんが来たみたいね」江本さんがそちらを眺めながら教えてくれた。それからすぐ、赤さんに誘導されてマットブラックのゲレンデが爆心地に浸入してきた。ゲレンデがハウスの前まで来ると停車して、中から黒い日傘を差した黒服サングラスの一団が出てきた。その中に守られている赤い服の女性は、「帰ってきた」辻川町長だ。黒服サングラスのSPたちは辻女の時より人数が二人多かった。この真夏の太陽の下、日光を避けるのは相当大変だろうと思われた。「辻川町長が何の用かな」「ここの元請けは辻沢町だから町長が来てもおかしくはないけれど、今までこんなことはなかった」辻川町長を中心に置いた黒い亀甲陣形は、赤さんと少しやりとりすると一緒ににユンボが置いてある土山の所へ向った。そして何か指示を出しているらしく赤さんはしきりに頭を下げていた。亀甲陣形は再びゲレンデに戻ってくると、そのまま中に収まって爆心地を出て行ったのだった。赤さんが不機嫌そうな顔をしてハウスの所に戻ってくると、「皆さん。午後まで待機してください。土山をどかして地面を晒すことになりましたので」赤さんは調査員の佐々木さんと曽根さんに土山をどかす先を指示してハウスの中に閉じこもってしまったのだった。「辻川町長は人柱をブッコ抜くつもりだ」冬凪に言うと、「きっとそうだね」

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-74.釜を掘る(1/3)

     遺跡調査の現場で板床とかタイルとかじゃない土の上の雨水をスポンジで拭き取る作業を皆さんと一緒にした。最初のうちは爆心地の至る所に水溜まりがあるからこれが永遠に続くかと思ったけれど、案外すぐに片づいた。深か掘った遺構の中に溜まった水をポンプで抜く作業とスポンジでは無理な穴の排水が残った。ポンプはブクロ親方の指示の元、ユンボくん改め豆蔵くんと小ユンボくん改め定吉くんが担当した。豆蔵くんは泥水の中に浸かってポンプが詰らないように素手で纏わり付いた泥を拭っている。定吉くんは底に溜まったヘドロをエンピで掬い上げて遺構の外に出しているけれどそれはいくらやっても終わりそうになかった。もともと日本庭園で池水があったということは水はけが悪い場所な上、雨水だけでなくどこからともなく水が湧き出すため、なかなか減っていかないようだった。その間、冬凪とあたしは小ぶりの遺構の水を排水する作業に当たった。スポンジで掻き出すには水量が多すぎるけれどポンプを使うほどでも無いものだ。そこから水道と言って即席の側溝を作り低所に流し排水する。真夏の太陽が照りつけ流れる水がギラギラ輝いてやたら眩しい。最初のうちはうまくいっていたけれど、方々から水が低所に集まっていっぱいになり流れなくなってしまった。気温も上昇して汗が噴き出し体力が奪われていく。全体の水はけ状態を見ていた赤さんが江本さんに、「ティリ姉、あそこをカマバにしようか」とあたしたちの遺構の、さらに下流あたりを指して言った。「カマバ?」冬凪に聞くと、「深めに掘って水を流し込む場所のこと」「釜場」と書くのだそう。冬凪とあたしも一旦排水の作業を止めて江本さんのお手伝いをすることにした。 江本さんは水浸しになって釜場を掘りながら、「ナギちゃんやナミちゃんはBLとかって好き?」江本さんいきなりなんですか? 読んだことはあるけど腐女子って言えるほどではないので、「「よくは知らない

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