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不妊治療を12回繰り返した後、夫が本性を現した

不妊治療を12回繰り返した後、夫が本性を現した

作家:  1キロの豚くん完了
言語: Japanese
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概要

切ない恋

スカッと

愛人

ひいき/自己中

妻を取り戻す修羅場

スカッと

後悔

森田グループの社長である夫の森田勲(もりた いさお)と、12回目の体外受精のために病院へ向かう途中、知らない番号から電話が入った。 スマホの画面をちらりと見た瞬間、勲の表情がこわばった。 「取締役会の緊急会議だ」 そう言って立ち上がると、勲は慣れた手つきでジャケットの袖を整えた。 「国際合併の件でトラブルが起きた。先に戻っていてくれ、会議が終わったらすぐ戻るから」 診察室のドアが閉まる。看護師がカルテを手に持ち、戸惑った顔で私を見た。 「森田さん、胚の解凍プロセスを開始しますが、このまま進めますか?」 私は握りしめてしわくちゃになった同意書を見下ろした。 緊急会議? 小林グループは森田グループにとって最大のスポンサーだ。そんな緊急の会議があるのなら、この小林家の令嬢である私が知らないはずがないのに。

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第1話

第1話

森田グループの社長である夫の森田勲(もりた いさお)と、12回目の体外受精のために病院へ向かう途中、知らない番号から電話が入った。

スマホの画面をちらりと見た瞬間、勲の表情がこわばった。

「取締役会の緊急会議だ」

そう言って立ち上がると、勲は慣れた手つきでジャケットの袖を整えた。

「国際合併の件でトラブルが起きた。先に戻っていてくれ、会議が終わったらすぐ戻るから」

診察室のドアが閉まるのを見届けてから、私は手にしていたしわくちゃの同意書を見下ろした。

緊急会議?

小林グループは森田グループにとって最大のスポンサーだ。そんな緊急の会議があるのなら、この小林家の令嬢である私が知らないはずがないのに。

……

病院を飛び出した勲を追いかけて、私はそのまま後を追った。

車が停まったのは、ある邸宅の前だった。あそこは、結婚した時に将来子供ができたらと買い求めた家だ。

でも、結局この数年、私たちの間に子供ができることはなかった。

私はお腹をそっと撫でた。体外受精の注射痕が、今もズキズキと痛む。

子供がほしくて、これまで12回もの体外受精を繰り返した。薬だって数え切れないほど飲んだ。

結局ここに来ることは二度となかった。この邸宅は私にとって痛みを象徴する場所だから。

きっと勲だって、私たちの子供を待ち望んでくれているはずだと思っていたのに。

主治医からも、今の体調なら次は高い確率で妊娠できるはずと言われたばかりだ。

そう思い、私は目の前の邸宅へ踏み込んだ。

恐る恐る扉を開けた瞬間、視界に飛び込んできた光景に、胸がえぐられるような思いがした。

かつて私たちが未来の子供のために用意した、この場所で。

勲は一人の若い女性を抱きしめていた。

二人の手は固く結ばれ、薬指にはお揃いのペアリングが光っている。

その女は見覚えがあった。夫の秘書、葛城蛍(かつらぎ ほたる)だ。

蛍は苦労人だと聞いたから、学費も支援したし、彼女の父親の治療費も出した。

勲に頼んで、秘書の仕事を紹介してあげたのも私。

ほんの数日前も、蛍は私の手を握って言っていた。

「紬(つむぎ)さんのおかげで、今の私がいる。紬さんは、私の本当の姉みたい」

自分を慕ってくれていたはずの人が、今私の目の前で、私の夫に甘えている。

胸の奥が、冷たい水に沈むように重くなっていった。

いつからだったのかしら?

「皆さん、俺と蛍の婚約の証人になってくれてありがとうございます」

勲の声が、マイクを通じて室内に響き渡る。

「そして、ご報告があります。今、蛍のお腹には新しい命が宿っています。俺は、彼女とこれから生まれてくる子を、生涯愛し抜くと誓います」

祝福の拍手が起こる中、私は入り口で立ち尽くした。

見渡せば、そこにいるのは勲の会社の社員たちばかりだった。

勲が仕事で邪魔をされないよう、私は世間に二人の関係を公表しなかった。

私はただ勲の「追っかけ」として扱われるのにも納得していたのに。

毎日のようにお弁当を届けに行って、皆から表向きは慕われていたけど、まさか裏ではこんな風に勲と蛍の関係を知っていたなんて。

私は、裸で晒し者にされたピエロのような気分だった。

全世界が勲の愛する人が他にいることを知っていて、私だけが、甘い幻想の中に溺れていたなんて。

おまけに、蛍は妊娠までしている。

傍らには、私たちの簡単な食事会の時に、「紬さん、万が一勲が紬さんを裏切ったら、俺が最初に許さないから!」と酔っ払って騒いでいた小野誠(おの まこと)の姿がある。

誠は今、誇らしげな笑顔で、勲と蛍の隣に立っていた。

「森田グループを支えてきた勲が、これまでどれほど孤独に耐えてきたか、誰よりも近くで見てきました」

誠の声が会場全体のいたるところへ響く。

「ようやく勲は、真の幸せを見つけたんですね!」

真の幸せ?じゃあ、私たちが共に過ごしたこの5年間は一体何なの?最初からジョークだったのかしら?

私は拳を強く握りしめ、爪が手のひらに食い込んだ。

「蛍ちゃんは我々管理部の看板娘ですよ!」

少し肥満気味の社員が騒ぎ立てる。「もし傷つけるようなことがあったら、管理部全員でボイコットしますから!」

場内に笑い声と冷やかしの声が漏れる。

蛍は恥ずかしそうに頬を赤らめ、その社員をたしなめると、うっとりと勲を見つめた。

そして勲は、招待客の視線が集まる中、蛍の前でゆっくりと膝をついた。

「蛍、俺は一生、あなただけを愛すると誓います」

優しく、力強い勲の声。「蛍、俺を選んでくれたことを、一生後悔させないと約束しよう」

天井が崩れそうなほどの歓声が上がった。

そう言って立ち上がった勲の視線が、人の隙間を縫って入り口の私を捉えた。

勲の笑顔が凍りつく。

蛍が勲の視線を追って私を見つけた瞬間、顔を青ざめ、とっさにお腹を両手で守った。

私は足早に距離を詰め、渾身の力で勲の頬を叩いた。
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第1話
森田グループの社長である夫の森田勲(もりた いさお)と、12回目の体外受精のために病院へ向かう途中、知らない番号から電話が入った。スマホの画面をちらりと見た瞬間、勲の表情がこわばった。「取締役会の緊急会議だ」そう言って立ち上がると、勲は慣れた手つきでジャケットの袖を整えた。「国際合併の件でトラブルが起きた。先に戻っていてくれ、会議が終わったらすぐ戻るから」診察室のドアが閉まるのを見届けてから、私は手にしていたしわくちゃの同意書を見下ろした。緊急会議?小林グループは森田グループにとって最大のスポンサーだ。そんな緊急の会議があるのなら、この小林家の令嬢である私が知らないはずがないのに。……病院を飛び出した勲を追いかけて、私はそのまま後を追った。車が停まったのは、ある邸宅の前だった。あそこは、結婚した時に将来子供ができたらと買い求めた家だ。でも、結局この数年、私たちの間に子供ができることはなかった。私はお腹をそっと撫でた。体外受精の注射痕が、今もズキズキと痛む。子供がほしくて、これまで12回もの体外受精を繰り返した。薬だって数え切れないほど飲んだ。結局ここに来ることは二度となかった。この邸宅は私にとって痛みを象徴する場所だから。きっと勲だって、私たちの子供を待ち望んでくれているはずだと思っていたのに。主治医からも、今の体調なら次は高い確率で妊娠できるはずと言われたばかりだ。そう思い、私は目の前の邸宅へ踏み込んだ。恐る恐る扉を開けた瞬間、視界に飛び込んできた光景に、胸がえぐられるような思いがした。かつて私たちが未来の子供のために用意した、この場所で。勲は一人の若い女性を抱きしめていた。二人の手は固く結ばれ、薬指にはお揃いのペアリングが光っている。その女は見覚えがあった。夫の秘書、葛城蛍(かつらぎ ほたる)だ。蛍は苦労人だと聞いたから、学費も支援したし、彼女の父親の治療費も出した。勲に頼んで、秘書の仕事を紹介してあげたのも私。ほんの数日前も、蛍は私の手を握って言っていた。「紬(つむぎ)さんのおかげで、今の私がいる。紬さんは、私の本当の姉みたい」自分を慕ってくれていたはずの人が、今私の目の前で、私の夫に甘えている。胸の奥が、冷たい水に沈むように重くなっていった。い
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第2話
会場全体は水を打ったように静まりかえり、誰もが言葉を失っていた。私がもう一度手を振り上げた瞬間、蛍が飛び出してきて勲をかばった。「紬さん、やめて!」ビンタは蛍の顔にしっかりと決まった。彼女がよろめくと、白い頬がすぐに赤く腫れあがった。「紬、いい加減にしろ!」勲は慌てて蛍を抱き寄せ、私に向かって怒鳴りつけた。私は二人のそのわざとらしい様子を冷ややかに見つめていた。「いい加減にしろ?私はただ婚約祝いを持って来ただけよ」蛍は勲の胸の中で泣きじゃくった。「紬さん、ごめんなさい。怒る気持ちは分かるけど、私たち二人は心から愛し合っていて……」「馴れ馴れしくしないで」私は蛍の言葉を遮った。その声は氷のように冷たかった。「あなたはただの秘書でしょ。友達になった覚えはないわ」すると、眼鏡をかけた一人の同僚が前に出てきて、私を指さした。「もうやめろよ!ここ数年、あなたが社長にしつこくつきまとって困らせていたのはみんな知っているんだ。社長が交際を公表できなかったのはあなたが絡んでくるのを恐れたからだぞ。結婚する今になってもまだそんな身勝手な振る舞いをするのか!」蛍は顔を覆い、見事なタイミングで涙を流した。彼女は勲の袖を軽く掴み、声を詰まらせて言った。「紬さん、怒らないで。責めるなら私を責めて」蛍は招待客の方を向き、悲しげな笑みを浮かべた。「感情は誰にも止められません。私が紬さんに申し訳ないことをしたんです。もう彼女を責めるのはやめてあげてください」その「あえて自分を下げる」発言により、蛍への同情がさらに広がった。その様子を見た勲は、隙を突いて私の耳元に寄ると、警告するような極めて低い声でささやいた。「紬、もう騒ぐな。用事があるなら家で話せ。こんな場所で恥をさらすな」目の前にいる勲の顔を見て、急にどこの誰なのか分からないほど冷めた気分になった。少し前まで私のおでこにキスをしていた人が、今は他の女を抱きしめて、私に恥をさらすなと言っている。「恥?」私は声を張り上げた。言葉の一つひとつが会場の隅々に響くように。「勲、不倫しておいて、自分が恥をかかされるのが怖いの?」「不倫」という言葉に雷が落ちたような衝撃が走り、列席者は顔を見合わせてひそひそと囁き合った。さきほどの同僚が再びしゃしゃり出
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第3話
会場は一瞬にして静まり返り、すぐにそれ以上の騒ぎが爆発した。すべての視線が、私が手に持っていた戸籍謄本に突き刺さった。「どういうこと?紬さんって、一方的に言い寄ってるだけじゃないの?」「本人は籍が入っている妻だなんて言ってるけど、まさか葛城さんのほうが略奪愛なの?」「まさか。社長は、今日は婚約パーティーだって言ってたぞ?」周囲の噂話する中、蛍の顔色は白から青ざめ、やがて怒りに紅潮した。彼女は急に勲の腕を掴み、泣き声をまじえて、招待客全員に聞こえるように訴えた。「勲!もういい加減に紬さんに本当のことを話してよ!私と赤ちゃんのことをこんな風に悪者にするなんて!」勲は、蛍の涙ながらの訴えと、探るような人々の視線を受け、大きく深呼吸した。再び私を見たとき、その目にあった最後のためらいは消え、代わりに決意のようなものが宿っていた。「紬」勲の声はマイクを通し、会場の隅々まではっきりと伝わった。「最後まで体面を守ってやりたかったが、どうしてもここで騒ぐというなら……」勲は一息つくと、私が持つ戸籍謄本を指さし、一語一句はっきりと口にした。「それは、偽物だ」私の瞳孔は収縮し、信じられない思いで勲を見つめた。「お前は長い間俺につきまとっていたせいで、強い心理的ストレスから自分で勝手な幻想の中に生きているんだ」勲の声は、あからさまな、うんざりした響だった。「お前を憐れんで、偽のやつを作ってあげただけだ。それなのにお前はここまでしつこくつきまとって、俺たち陥れようとするなんて」「ありえない、籍を入れるときは一緒に役所へ行ったでしょ!」私は言葉を跳ね返すように言い返した。勲は溜息をつき、会場全体を冷ややかな目で見回した。「金を少し出せば偽物なんてすぐに作れる。紬、ここはお前が騒ぎ立てていい場所じゃない」一瞬にして、周囲のすべての視線が私に向けられた。驚きは、すぐに蔑みと哀れみへと変わっていった。「やっぱり偽物か」「社長がずっと認めてなかったのは、恥をかかせないためだったのか!」「狂ってるよ。こんなところまで乗り込んできて暴れるなんて」蛍は勲の腕の中で、口元だけ満足げに笑ったかと思うと、すぐさまか弱い表情を装った。私の心は深海のように沈み込み、全身から体温が奪われていくようだった。
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第4話
勲にもう期待するのはやめた。「身に覚えなんてないわ!」私は誠の手を振り払い、ドアを指差した。「出て行くのはそっちよ!今すぐ、私の家から消えて!」「何言ってるんだ、田舎娘のくせにこの邸宅が自分のものだとでも?」すると、蛍が弱々しい声で割り込んできた。「紬さん、勘違いしてるよ。この家は、勲が私に名義変更してくれたんだから。見て、ここに登記の書類があるわ」蛍はバッグから権利書を取り出した。それを開くと、所有者の欄には彼女の名前と明記されていた。「だから」蛍は微笑んだ。その声は甘く、残酷だった。「ここは私の家なの。出ていくべきは、招かれざる客のあなたよ」巨大な衝撃が、刃物のように私の胸に突き刺さった。勲に裏切られていたのは感情だけじゃない。将来の子どもために私が用意していた贈り物まで、全て蛍に奪われていたなんて。連日の検査で衰弱し、次々と押し寄せるショックのせいで、目の前が真っ暗になる。ふらりと身体が揺れ、立っているのもやっとだった。それを見た蛍は駆け寄り、気遣うフリをして私の身体を支えた。蛍の指が私の二の腕を強くつねる。耳元に顔を寄せ、二人だけに聞こえる声で囁いた。「諦めなよ、紬さん。勲の妻の座は私のもの。彼はずっと前から、私のものなんだから」私は目眩と吐き気をこらえた。「そんな言葉で挑発しないで。ゴミみたいな男、欲しいならくれてあげるわ」蛍はふっと笑った。その口調には隠しきれない勝ち誇りがにじんでいた。「そうそう。ねえ、なんであなたがずっと妊娠できないか、知ってる?」全身が凍りついた。私は顔を向け、蛍を見つめた。「あのアロマキャンドル、心を落ち着かせる効果があるって言ったじゃない?全部、紬さんのために心を込めて手作りしたものだよ」あのキャンドル。蛍は毎月、手作りのアロマキャンドルを届けてくれていた。枕元に置いて眠るようにと、何度も言われていたのだ。私を不妊にさせたのは、日々嗅いでいたあの香りが正体だったのか。「殺してやる!」叫び声を上げ、私は蛍に飛びかかろうとした。その汚らわしい顔を引き裂いてやりたかった。しかし、それを待ち構えていたかのように、触れた瞬間に蛍は大きな悲鳴を上げ、後ろに倒れ込んだ。「蛍!」勲が形相を変え、私を力任せに突き飛ばした。防ぐ間もな
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第5話
大きな玄関の扉が勢いよく開き、父の小林翼(こばやし つばさ)が数人の黒服のボディーガードを引き連れてロビーに入ってきた。鷹のような鋭い眼光が会場をさっと見回し、床にうずくまって血を流している私の上で止まった。その瞬間、父の瞳に、信じられないという苦痛と激しい怒りが渦巻いた。さっきまで大声で威張り散らしていた男社員は、顔色を瞬時に変えて、へらへらとした笑いを浮かべた。「こ、小林社長!これはどういった風の吹き回しで?ちょうどよかったです。ここで娘さんに嫌がらせをする人がおりましてね」彼の言葉は途切れた。殺気すら感じる父の視線の先に、無様に倒れる私を見たからだ。男社員はあわてて私を指さして弁解した。「こ、こいつのせいです!蛍さんを押して騒ぎを起こしたんですよ。蛍さんは妊娠されているのに、こいつがこんなことをして……」「救急車を呼べ!」父はそんな言葉を無視し、怒りで震える声で叫ぶと、背後の秘書に激しく命じた。「今すぐだ!」父は大股で私に近づき、大切そうに私を抱き上げると、自身の腕の中にそっと引き寄せた。「紬、お父さんが来たぞ。もう大丈夫だ、心配ない」父は私を優しくなだめてから、視線を勲へと戻した。その瞳は氷のように冷え切っていた。「勲!うちの娘を大切にすると言っただろ!?血を流させて、こんな腰抜けどもに屈辱を受けさせるために娘を任せたんじゃないぞ!」勲は青ざめ、必死で釈明しようとした。「お父さん、聞いてください。誤解なんです」「社長のせいじゃありません!」蛍を擁護していた男社員は状況を読み違えたのか、首を固くして反論した。「悪いのはこの女です!社長につきまとい、蛍さんに嫌がらせをして、あろうことか蛍さんに手をあげようとしたんです」「何が『蛍さん』だ!?」父が激しく振り向くと、怒りの混じった威圧的な声が響いた。「俺の娘の名は紬だ!小林家唯一の令嬢が紬なんだ!お前たちは目が節穴か?良心も捨てたのか!?」凍りついた会場を見回し、父は一言ずつ、絞り出すように告げた。「勲、小林グループはお前を支えてやったのは、紬を蔑ろにさせるためじゃない!それに、お前たちもだ」父の冷徹な視線が、さっきまで騒ぎ立てていた社員たちを捉える。「一人残らず、今日の騒ぎに参加したやつは全員覚えておこう!」父
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第6話
私の心は氷のように冷え切った。最初からこの時を狙って、蛍はずっとあざとい罠を仕掛けていたのだ。しかも勲は、そのすべてを知っていたはずだ。蛍が貧しい家庭の生まれで、私の支援で成り上がったことも全部把握していた。それなのに真実を暴くどころか、蛍の嘘に加担していたなんて。さっきまで蛍を応援していた社員たちの顔色は一気に悪くなり、皆、息を飲み込んだ。あちこちから漏れる囁き声には、騙されたことへの怒りと、事の重大さに気づき始めた困惑が入り混じっていた。「ねえ、私たち、全員まんまと騙されてたってこと?」「あの写真の時、葛城さんは『家族です』としか言ってなくて、私たちは勝手に解釈しただけよ」「でも否定もしなかったわ!いつも小林社長に厳しく教育されてるって思わせぶりな態度をとっていたじゃない!」蛍は露骨に泣き真似をしながら、さらに被害者を演じ始めた。「ごめんなさい、私には何の力も後ろ盾もなくて、これまでずっとひどい扱いを受けてきたから……皆さんに勘違いをさせてしまいました。それでも私に友達ができて、本当に嬉しかったんです。もう嫌なら付き合わなくてもいいです。私が悪かったんですから」その言葉に、さっきまで蛍を非難していた人たちが今度は逆に罪悪感を覚え始めていた。「そんな、気にしないでよ蛍さん、こっちが悪かったわ」「そうよ、森田グループにいる限り、誰にも何も言わせないわ。安心しなさい」蛍が頷くと、勲も特に反対する様子は見せなかった。「蛍、これからは俺がついている。誰にも傷つけさせない」病院の中は消毒液の鼻をつくような臭いが漂っていた。結局、お腹の子を失ってしまった。何度も体外受精を繰り返した影響で子宮が弱っていたため、激しい衝撃と精神的なダメージには耐えられなかったと医師は丁寧に告げた。病院のベッドで真っ白な天井を見上げながら、私は考えた。父が事実を突きつければ、勲たちは大人しくなり、少しは反省すると思っていたのだ。しかし、私はあの二人の厚顔無恥ぶりを甘く見すぎていた。スマホがブブッと震え続け、親友からの連絡が大量のニュースリンクと共に届いた。目を通した瞬間、心臓が目に見えない力でギュッと掴まれたような感覚に襲われた。急上昇ワード。【#小林グループ令嬢、支援対象へのパワハラ】その横に
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第7話
記者会見当日、会場はありとあらゆるメディアの人間で溢れかえっていた。私は黒のシンプルなスーツに身を包んだ。勲と蛍が、まるで勝者のように手を繋いで登場し、真っ直ぐに私のもとへ歩いてきた。勲は私を見下ろすと、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。彼は施しでも与えるような口調で言った。「紬、大人しくしてればいいものを。そうすれば、小林グループとお前自身が恥をかかずに済んだのに」蛍はすぐさま前に出ると、私の腕をわざとらしく支えるフリをして、二人だけに聞こえる声で囁いた。「結局ね、紬さんの立場も、男も、小林グループの栄華も、全部すぐに私のものになるの」私はゆっくりと腕を引き抜くと、テーブルにあったウェットティッシュで、触れられた場所を念入りに拭いた。顔を上げ、冷めた目で蛍を見つめる。「そんなに私が捨てたゴミが好き?」すると、蛍の表情が凍りついた。「強がるのも大概にしなよ!自分と小林グループの今の状況を忘れたわけじゃないわよね!」私は二人を無視して、演壇に向かった。フラッシュが一斉に焚かれ、記者からの質問が堰を切ったように殺到した。「葛城さんに対する長年のいじめを認めますか?」「小林グループの株価急落は、あなた個人の行動が原因なのですか?」「ネット上の告発にどう答えますか?今日は謝罪するのでしょうか?」私はマイクの前に立つと、会場全体を静かに見回してから言った。「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。今日、どうしても皆様にお伝えしたいことがあります」一呼吸置いて、言葉を続ける。「まず最初に、あるものを見ていただきたいのです」そばにいたスタッフに小さく合図を送った。次の瞬間、背後の巨大モニターが一斉に輝き出した。勲の笑みが消え、その顔にわずかな焦りが浮かぶ。蛍も思わず勲にしがみついた。モニターには、入念に用意した証拠資料が映し出された。「嘘、これ本当なの……」勲は立ち上がり、「紬!証拠を捏造したな!」と叫ぶ。私は無視してマウスを操作し、ページを切り替える。モニターには、病院のカルテと領収書の束、そして12回にわたる体外受精の詳細な医療記録が大きく映し出された。日付、投薬内容、採卵、移植の履歴が生々しく刻まれている。会場からは息を呑む音が聞こえ、多くの女
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第8話
「嘘!全部デタラメよ!」勲は目を真っ赤にさせ、モニターを指さしながら叫び声を上げた。「紬!こんな捏造をして、小林グループが終わったからって俺を道連れにする気か?脅しをかけて家を助けさせようなんて、夢でも見ているのか!」捨て身のあがきを見せる勲の無様な姿を見て、私は逆に笑いが込み上げた。「勲、追い詰められているのは本当はどっち?」私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、会場の側口が蹴破られ、勲の秘書が転げ込んできた。「社長!大変です!社内の重要技術に関する研究データや顧客情報がすべて漏洩しました!大口の投資家たちも一斉に撤退を表明し、会社の運転資金も一夜にして消えてしまいました!」「なんだと!?」勲は雷に打たれたように後ずさりし、信じられないものを見る目で秘書を睨んだ。「あり得ない!そんなはずはないだろう!?誰がやったんだ!?」会場は騒然となった。立て続けに起きた事態の急転に、記者たちは言葉を失っていた。「誰がやったのかって?」私はゆっくりと視線を動かし、勲の傍らで顔色を失い、震えている蛍へと向けた。「その質問、愛を語り、子供を宿していると言い張る、その大切な人に聞いてみればいいんじゃない?」勲は勢いよく振り返り、蛍を鋭く見据えた。「どういうことだ!?」私はスタッフに合図を送り、薄い封筒を一通、勲に手渡した。「違うの、勲。聞いて……」蛍は恐怖に駆られ、勲の腕にすがろうとした。「この売女が!」勲は蛍を突き放し、その首元に両手をかけ、額に青筋を浮かべて絞り上げた。「てめえ!俺を裏切りやがったのか!?お前と誠が結託して俺をハメたんだな!勝手に金を動かしやがって!」首を絞められ目を白黒させながら、蛍は足をばたつかせ、苦しそうに声を絞り出した。「放して、勲……私たちの、お腹の子供が……」「子供」という言葉を聞き、勲の乱れた意識がわずかに正気を取り戻したように見えた。その時、私の冷ややかな声が再び響いた。「子供?勲、その子が本当に自分の子だなんて、確証があるの?」私は軽くうなずき、スタッフに最後の資料を出すよう合図した。資料には蛍と誠の不倫の証拠が並んでいる。そもそも勲は子供を作れない体質だ。それを私は彼にずっと隠してきたのだ。可哀想だからと真実を告げずに、
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第9話
嵐が過ぎ去れば、後には清算が待っている。勲は、会社法違反や資産の不正流出、不倫など複数の罪に問われ、これらを併合した結果、懲役20年の実刑判決を受けた。勲が苦心して育て上げた森田グループは、中核技術の流出や出資者による撤退、資金の枯渇という追い打ちを受け、あっけなく崩壊して破産宣告に至った。蛍もまた、法の手から逃れることはできなかった。ただ、妊娠していたことから、執行猶予付きの判決を受けた。誠もまた関わっていたことから起訴され、獄中で長い時を過ごすことになるだろう。かつて邸宅で加担し、ネット上で扇動していた森田グループの従業員たちは、突然職を失っただけでなく、今回の事件の社会的な影響もあり、業界から追放され再就職もままならない。まさに自業自得というほかはない。ある日、警察から電話があった。獄中の勲が何度も面会を願い出ているという。直接私に謝罪し、鬼に魅入られていたのだと悔い改めたいらしい。私はスマホを耳にしながら、窓の外で絶え間なく行き交う小林グループの社屋前の車の列を穏やかな眼差しで見つめていた。「会うつもりはありません」そう短く答えると、私は電話を切った。謝罪だって?遅すぎる。癒やせない傷もあれば、許す価値のない裏切りもある。勲はあの高い壁の中で、残された人生をかけて、自身の悔恨と向き合えばいい。蛍の実家については、娘が大都会で「立派になった」、金持ちと付き合っていると聞きつけ、一攫千金を夢見た親が田舎から出てきていた。身を寄せ合っていた安アパートで、ギャンブル中毒の父親は、蛍が金を出せなくなったと知ると逆上した。彼女が顔を潰し何の役にも立たないとわめき、暴力を振るい始めたのだ。蛍は争いと悲鳴の中、父親に激しく殴られ、血の海に倒れた。初めから生まれて来てはいけなかった命は、そこで潰えてしまった。蛍は唯一の「切り札」を失っただけでなく、体にも重い後遺症を負い、希望の持てない未来だけが残された。これこそが、因果応報ということだろう。他人を陥れた蛍が、最後に愛すべきはずの肉親から地獄を味わわされたのだ。私は正式に家業を引き継ぎ、代表取締役に就任した。過去の傷は私にとっての勲章であり、未来への道筋はどこまでも広く輝いている。
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