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第337話

last update Veröffentlichungsdatum: 25.09.2026 13:59:05

暁家の長女静香と長男泰西の仲の悪さは昔から有名だった。

顔を合わせるたびに喧嘩ばかりをし、中高一貫校に通っていた頃は生徒たちの前でも堂々と罵詈雑言を浴びせ合うほどだった。そんなことが続き、周囲の人間は二人を会わせないように徹底するようになった。

(それでも、まだ昔はよかったと思うんだけど……)

元々性格が合わなかった二人は、泰西が大人になるにつれてどんどん険悪な雰囲気になっていった。父に反発していた静香は、父親に似た泰西までも嫌悪するようになったのだ。

瀬奈の言葉に、泰西は気まずそうに顔を背けた。

「仲直りって言っても、アイツは俺と仲良くするだなんて御免だろう?」

「そんなことないわ、兄さん。姉さんだってきっと兄さんとの仲を改善したいって思ってるはずよ」

「アイツが?あるわけないさ」

瀬奈はそんな泰西の言葉を聞くたびに辛くなった。昔は瀬奈も泰西のことが苦手だったが、今は違う。彼女が彼とわかり合えたように、きっと静香ともうまくやれるのではないか。

瀬奈は泰西との仲を改善してから、そのような思いを抱くようになった。大好きな二人だからこそ、仲良くしてほしいのだ。

「兄さん、兄さんも本当は私
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    暁家の長女静香と長男泰西の仲の悪さは昔から有名だった。顔を合わせるたびに喧嘩ばかりをし、中高一貫校に通っていた頃は生徒たちの前でも堂々と罵詈雑言を浴びせ合うほどだった。そんなことが続き、周囲の人間は二人を会わせないように徹底するようになった。(それでも、まだ昔はよかったと思うんだけど……)元々性格が合わなかった二人は、泰西が大人になるにつれてどんどん険悪な雰囲気になっていった。父に反発していた静香は、父親に似た泰西までも嫌悪するようになったのだ。瀬奈の言葉に、泰西は気まずそうに顔を背けた。「仲直りって言っても、アイツは俺と仲良くするだなんて御免だろう?」「そんなことないわ、兄さん。姉さんだってきっと兄さんとの仲を改善したいって思ってるはずよ」「アイツが?あるわけないさ」瀬奈はそんな泰西の言葉を聞くたびに辛くなった。昔は瀬奈も泰西のことが苦手だったが、今は違う。彼女が彼とわかり合えたように、きっと静香ともうまくやれるのではないか。瀬奈は泰西との仲を改善してから、そのような思いを抱くようになった。大好きな二人だからこそ、仲良くしてほしいのだ。「兄さん、兄さんも本当は私たち姉妹のことを大切に思っているんでしょう?」「瀬奈……」瀬奈は湊斗から、泰西が自身を長年気にかけていたことを聞いていた。それに加えて、先ほど抱きしめてくれた優しい手。父はともかく、泰西なら静香とわかり合えると瀬奈は確信していた。彼女の圧に押され、彼は渋々受け入れた。「……わかったよ。一度だけ、アイツに会ってみる」「兄さん……!」***それから瀬奈はすぐ、静香に電話をかけた。泰西は静香と連絡先を交換していないため、彼女の力を借りるほかなかった。瀬奈は泰西の名前を出すことなく、静香と会う近いうちに会う約束を取り付けた。突然会いたいと言った瀬奈を、静香はかなり心配した。湊斗と何かあったのではないか、それとも実家の暁家のほうか。静香は妹思いで、瀬奈が辛い目に遭っているのを黙っていられなかった。数日後、彼女は瀬奈から指定されたホテルの一室に訪れた。「瀬奈……!大丈夫……!?」しかし、そこに瀬奈の姿はなかった。代わりにいたのは―――「ア、アンタ……どうしてここにいるのよ……!」「………久しぶりだな、静香」室内に立っていたのは瀬奈ではなく、真っ黒なスーツに身を包んだ

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    瀬奈は心臓が激しく鼓動を打つ中で、ゆっくりと日記のページをめくった。泰西と静香のページは落ち着いて読むことができたのに、自分のこととなると何だか妙にソワソワしてしまう。母に愛されているという自信がないからだろうか。日記を持つ彼女の手は、小刻みに震えていた。(……もし、傷付くようなことが書いてあったらどうしよう)しかし、そんな彼女の心配は杞憂だった。「……………母さん」ページをめくった瀬奈の目に飛び込んできたのは、文字だけでも伝わるほどの溢れる愛。私の可愛い娘――というタイトルで始まり、彼女への愛の言葉が綴られていた。瀬奈はそのとき初めて、ほとんど記憶にない母親の本当の気持ちを知った。泰西だけを溺愛しているように見えて、実はきちんと瀬奈を愛していたのだ。『――上手く言葉では伝えられないけれど、あなたをこの世界の誰よりも愛してる』愛に満ちた柔らかい文字が、彼女の心を揺さぶった。誰かが見ることのない日記で、わざわざ嘘を書く必要はない。つまり、その言葉は紛れもない母の本心だというわけで。「……ッ」日記を読み進めていくと、瀬奈の目に涙が滲んだ。いつも遠い存在だと感じていた母だが、彼女が思っていたよりもずっと身近な人だったのだ。母が亡くなってから数十年の年月が経ち、瀬奈はようやくそのことを悟った。両親から愛されていないという事実は、いつも彼女の心の中で重荷となっていた。「…………瀬奈」彼女が泣いていることに気付いた泰西が、その手をそっと伸ばした。彼は慣れない手つきで瀬奈の後頭部を掴むと、そのまま引き寄せた。兄の泰西に抱きしめられるのは、生まれて初めてだった。「兄さん、母さんは私をきちんと見ていたんだわ」「ああ……そうだな」瀬奈はその状態のまま、泰西の胸で泣き続けた。彼は瀬奈の頭を撫でながら、口を開いた。「瀬奈、近いうちに……母さんのお墓参りに行かないか」兄の言葉に、瀬奈は咄嗟にある条件を突き付けた。「――もし行くなら、姉さんも一緒によ」「……………アイツも?」泰西は驚いたように目を見開いた。彼は瀬奈と二人で行くつもりだったため、ここでもう一人の兄弟である静香の名前が出てくることは想定外だった。もちろん、瀬奈自身もとんでもない提案をしているという自覚がないわけではなかった。しかし、彼女はそう簡単には退かない。瀬奈は言葉を詰まらせ

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    瀬奈は泰西からの誘いを受け、里亜が眠っているのを確認して部屋を出た。そのまま二人は、泰西の自室まで移動する。「母さんの日記って……そんなもの、一体どこから?」「母さんが暮らしていた部屋の押し入れの奥に入ってたんだ。俺も全く気付かなかったんだがな……」泰西は机の上に置いた日記を開いた。今は亡き、母親がつけていた日記。当然、瀬奈も泰西も見たことはない。泰西はともかく、瀬奈は母親のことをほとんど覚えていない。そもそも母が亡くなったのは瀬奈がかなり幼い頃だったし、泰西を溺愛していた彼女は瀬奈や静香を気にかけることが少なかった。(何だか、ドキドキするわね……見たいような見たくないような……)母の日記は、静香が生まれた頃から始まった。主に育児のことを綴っている日記のようだった。「あら、姉さんのことが書いてあるわ」「そうだな……」静香は瀬奈よりも五つ年上だった。当然、瀬奈は彼女の幼い頃の様子なんて知らない。母の日記を読んで、初めて静香の幼少期を知った。「姉さんも昔は大人しかったのね、驚いたわ」「アイツが大人しいだと?想像つかないな」眉をひそめる泰西に、瀬奈はアハハッと声を上げて笑った。大好きな姉の隠された一面を知り、何だか嬉しくなった。静香のページが終わると、次は泰西について書かれていた。「姉さんと兄さんが遊んだですって?そんなことあるのね」「俺は記憶にないぞ、アイツと遊んだなんて」「そりゃあこんな昔のこと、普通覚えてなんていないわよ」泰西と静香は犬猿の仲で今は一切連絡を取っていないが、お互いを心から嫌い合っているわけではないと瀬奈は信じている。(いつか、姉さんと兄さんと……三人でお酒でも飲みたいな……)その願いが叶うかはわからないけれど、二人が和解するまで気長に待とう。瀬奈は口元に笑みを浮かべながら、すぐ正面にいる泰西を見つめた。彼女の視線に込められた意味を感じ取ったのか、彼が気まずそうに目を逸らした。「次は……お前のことが書かれているぞ」「…………私のことが?」瀬奈は思わず身を乗り出した。自分を産んだとき母親が何を考えていたのか、彼女は知りたかった。瀬奈はずっと、母親は女として生まれた自分を好いていないのだと、心のどこかで感じていた。(……今になって、母さんの本心を知れるだなんて)瀬奈は意を決して、ページをめくった。

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    電話の向こうから聞こえた女性の声。推定三十代くらいの、おそらく湊斗や瀬奈と同年代の女性のものだろう。当然、瀬奈はその声に聞き覚えがなかった。(……どうして、湊斗は私の知らない女性と一緒にいるの?)瀬奈はスマートフォンを手に、固まった。暁家にいる彼女には、今湊斗がどのような状況かわからない。しかし、彼女の知らない女性と一緒にいるのはたしかなわけで。しかも下の名前で呼び捨てにするほど、親しくしている。しばらくすると、湊斗の声が電話から聞こえた。「……瀬奈、どうかしたのか?」「………ううん、何でもないの」瀬奈は一緒にいる女性のことを問い詰めたかったが、結局何も言わなかった。ここで聞いてしまったら、彼に迷惑をかけてしまうのではないかと不安だった。喉がつっかえたかのように、しばらくの間言葉が出てこなかった。夫を前に、瀬奈は何を話せばいいのか悩んでいた。少し前まではこんな気まずい感情を抱くなんてことなかったのに、一体何が二人の間に壁を作ってしまったのだろうか。瀬奈は迷いながらも、何とか言葉を紡いだ。「……ただ、ちょっとあなたの声が聞きたくなっちゃっただけよ」「……そうか」湊斗は短く返事をするだけだった。いつもなら俺も聞きたかったなんてことを言うはずの彼だが、今日に限ってやたらと冷たく感じる。彼女は声が震えるのを誤魔化すように、笑った。「夜遅くに電話しちゃってごめんなさい」「いや、気にするな」「そろそろ切るわね、あなたと話せて嬉しかったわ」瀬奈はそのまま一方的に湊斗との電話を切った。どうせもっと話したいと引き留めることもないんだから、わざわざ返事を聞くこともしなかった。「ママ、パパ元気だった?」「ええ、心配しなくても……元気にやっているわよ」里亜は相変わらず湊斗が大好きなようだった。純粋無垢な瞳を輝かせながら父親の話をする娘を見ていると、瀬奈の胸が締め付けられた。「里亜、そろそろ寝ましょうか」夜も遅くなり、瀬奈は里亜を寝かしつけた。いつもと違う環境で寝れるか心配していたが、日中遊んだことで疲れが溜まっていたのか、里亜はぐっすりと眠りについた。彼女が寝たあと、部屋で休んでいた瀬奈の元に予期せぬ来訪者があった。「――瀬奈、中にいるか?」「…………兄さん?」部屋の扉を開けると、立っていたのは泰西だった。「兄さん、どうかしたの?

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    泰西一家と夕食を摂り終えた瀬奈は、里亜と一緒にお風呂に入っていた。瀬奈は里亜の頭をシャンプーで洗いながら、話しかけた。「伯父さんと伯母さん、優しい人でよかったわね」「うん、お姉ちゃんもとっても優しい!」お姉ちゃんとは、泰西と千郷の間に生まれた一人娘のことである。瀬奈はまだ深く関わったことがないものの、里亜はすぐに彼女と打ち解けたようだった。(……まぁ、千郷さんに育てられたんだったらきっと優しい子よね)まだ子供ではあるが、既に千郷と泰西の美貌を受け継いだ綺麗な子になっていた。成長したらとんでもない美人になるんだろうな、と瀬奈は彼女の未来をある程度予想することができた。「お姉ちゃんにね、小学校の勉強教えてもらったんだ」「あら、そうだったのね。難しかった?」「ううん、簡単だったよ」「そ、そう……」両親どちらにも似ているところのある里亜だが、頭のほうは湊斗に似ているようだ。瀬奈は昔から勉強が苦手だったため、テストもいつも平均点だった。一方の湊斗は常に一位を死守するほどの天才で、瀬奈は彼と比べられることが多かった。しかしだからといって、湊斗を憎く思うなんてことはない。むしろそんな彼と結婚できることに瀬奈は誇りを感じていたし、憧れてもいた。「早く小学校行きたい!もっとお勉強したい!」「お勉強したい……?」幼稚園児で勉強がしたいと言うだなんて、一体誰に似たのだろうか。(私、幼稚園の頃何してたっけ……泥団子作って遊んでたわ……)瀬奈の脳裏に、泥で服を汚しまくってメイドに怒られた若き日の記憶が蘇る。「あともう少しだから……小学校に入ったらたくさんお勉強しましょうね」瀬奈はそう言いながら、里亜の頭を洗った。風呂から上がった彼女は、服を着替え、部屋へ戻った。「特に連絡はナシ……か」瀬奈は真っ先にスマートフォンを確認するが、湊斗からの連絡は入っていなかった。自分から彼に送ろうかなとも思ったが、結局迷惑をかけたくなくてやめた。(そうよね……久々に一人になれたんだから、彼もきっとゆっくりしたいはず……)それでも瀬奈は心配になってしまって、湊斗に電話をかけることにした。通話ボタンをタップし、スマートフォンを耳に当てる。「――どうした?」五コールを超えたあたりから不安になったものの、湊斗は瀬奈からの電話に応じた。声を聞いてようやく瀬奈は安心する

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第332話

    泰西や瀬奈が家族揃って夕食を食べていたちょうどその頃、父親は一人書斎にいた。彼は特に仕事をするわけでもなく、部屋にある椅子に座ってボーッとしていた。「……なぜか、落ち着かないな」一人の部屋で、彼はポツリと呟いた。当然、その呟きを聞いた者は誰もいないため、返事はない。何とも虚しい空間だと、彼は心の中で自身を嘲笑った。妻が亡くなってからというもの、彼は寂しい日々を過ごすこととなった。以前まですぐ横にいた存在が、急にいなくなってしまうことの寂しさ。彼女が亡くなる前は、そんなこと想像すらしていなかった。耐えられなくて新しい女を作ったが、結局全員長続きはしなかった。元々傲慢な性格であるせいか、女性たちは半年ももたずに彼に別れを切り出すのだ。『あなたとはやっていけないわ!もう終わりよ!』『私は暁社長に相応しい女ではないようです。どうか関係を終わらせてください』『ごめんなさい。あなたにはついて行けません。もう二度と私と関わらないでください』今まで彼が関係を持った女性たちに言われた言葉だった。ある程度好感を持っていたから交際をスタートさせたが、結局は全て振られてしまったのである。そのときになって彼はようやく自分は結婚に向いていないのだと理解し、新しく女性を作ることをやめた。結局、彼の横暴に何も言わずに耐えていたのは、前の妻だけだったということに気が付いた。「泰西たちは今頃、食事を摂っているのか……」今は亡き、唯一の妻との間に生まれた三人の子供。そのうちの二人がすぐ近くの別邸にいるのだと思うと、何だか複雑な気持ちだった。泰西はともかく、瀬奈は愛情を注いだ記憶がない。そんな娘に、今さらどう接しろと言うのか。ちょうど今行われている晩餐も、彼だけが招待されていなかった。その事実に悲しくはなるが、彼が何か言えるような立場ではなかった。「そういえば、里亜って言ったか……」彼はついさっき会ったばかりの孫娘を思い浮かべた。瀬奈が遅くに夫の神宮司湊斗と作った一人の娘。顔は子供の頃に湊斗に似ているけれど、瀬奈の面影を色濃く感じさせた。真っ先に浮かぶのは、足を噛まれたこと。彼は未だに歯形の残るふくらはぎをじっと見つめた。『じいじ、ママをいじめないで』幼いながらに力強い、覚悟の決まったような眼差し。まだ五歳だというのに、あんな目ができることに彼は驚いた。しかし、

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