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第2話

作者: 影森知佳
悠真の最新のSNSに残っていた位置情報を頼りに、私はその海辺のホテルへ向かった。

タクシーに乗ると、私と悠真との共用口座から引き落としの通知が届いた。

悠真が数十万円を使っていた。

利用先はあるジュエリーショップだった。

数分後、悠真のSNSが更新された。

写真には、細い手首にダイヤのブレスレットをつけた女の子が写っていた。

添えられていた言葉は、【女の子は、お姫様みたいに大事にしてあげないと】だった。

私は自分の手首へ目を落とした。

そこには、薄い傷跡が残っている。

去年の冬、悠真が胃の痛みで寝込んだ夜、私は夜中に起きてお粥を作った。

そのとき、うっかり鍋の縁で手首をやけどした。

悠真はひどく心配し、私の手を両手で包んで、赤くなったところに何度も息を吹きかけてくれた。

「なっちゃん、もういい。これからは俺にやらせて」

けれど少し前、悠真がお粥の作り方を覚えていたことを知った。

ただし、それは私のためではなかった。

SNSに上がっていた写真には、熱を出したあの子のベッドのそばに座り、自分の手でお粥を食べさせている悠真が写っていたものがあった。

私が失ったと思っていた彼の優しさは、消えたわけではなかった。

ただ、その優しさを向ける相手が、私ではなくなっただけだった。

タクシーを降りたところで、悠真から写真が届いた。

写っていたのは、大きなカンガルーのぬいぐるみだった。

【なっちゃん、これ、かわいくない?買って帰るね】

私は写真を開いた。

ショーケースの中のぬいぐるみを写した写真だった。ガラスには、女の子の顔が半分だけ映り込んでいた。

彼女は悠真の肩に寄りかかり、髪を耳にかけながら、甘えるように笑っていた。

私はスマホをしまい、ホテルの中へ入った。

ロビーでは貸し切りのパーティーが開かれていた。

入口には白いバラとシャンパンタワーが並んでいる。

横断幕には、こう書かれていた。

【江坂悠真さん、水瀬莉奈さん 3周年おめでとう】

水瀬莉奈(みなせ りな)。彼女の名前だった。

ロビー中央のスクリーンには、悠真とその女の子の写真が繰り返し映し出されていた。

どの写真の中でも、悠真は心から楽しそうに笑っていた。

自分だけが場違いな場所に迷い込んだような気がして、私は入口に立ち尽くした。

ふと、先月のことを思い出した。

私が悠真に、カップルの写真を撮りに行きたいと言ったとき、彼はこう言った。

「なっちゃん、俺、写真撮られるの嫌いなんだ」

けれど今、スクリーンに映るどの写真も、悠真はカメラを見て笑っていた。

白いスカートをはいた女の子が、エレベーターから駆け出してきた。手には、押しつぶされて少し曲がった誕生日の冠。

後ろから悠真が笑いながら追いかけてくる。

「もう、来ないで!」

彼女は頬を赤らめ、乱れた髪を押さえながら振り返った。

「せっかくのメイクが崩れちゃったじゃない」

悠真は追いつくと、慣れた手つきで冠を直してやった。

「悠真」

かすかに震えた私の声が、海風に乗って会場の中へ流れた。

悠真は私を見るなり、顔色を変えた。

反射的に、莉奈の肩を抱いていた手を離す。

莉奈が私を見た。

「悠真、この人は?」

彼女の声は小さく、おびえた小鹿のようだった。

悠真はすぐに彼女の方へ顔を寄せ、なだめるように言った。

「ただの友達だよ」

7年付き合ってきた日々。

3000日近い時間。

数えきれない喧嘩と仲直り。

それらは最後に、彼の口の中で「ただの友達」になった。

きっと泣くと思っていた。

けれど不思議なことに、涙は一滴も出なかった。

人は本当に限界まで傷つくと、声すら出なくなるのかもしれない。

私はスマホを取り出し、アルバムを開いた。

「私は、江坂悠真の彼女です。付き合ってからもう7年です」

私はスマホを掲げた。

最初の写真は、大学の新歓ライブだった。

悠真がステージでギターを弾き、歌い終えたあと、全校生徒の前で私に告白した。

2枚目は、私たちが卒業した年。

悠真は初めての給料を全部使ってネックレスを買い、不器用な手つきで私につけながら、いつか必ず幸せにすると言った。

3枚目は、私が40度の高熱を出した夜。彼は私を背負って病院へ駆けつけ、目を真っ赤にしていた。

4枚目は、去年の大みそか。私の実家の台所で、悠真は粉だらけの手でそばを打ち、両親に向かって言った。

「ご安心ください。夏海さんのことは、僕が一生大切にします」

動画も一つずつ再生して見せた。

悠真の顔は、段々と血の気が引いた。

莉奈も呆然としていた。

画面の中の若い頃の悠真を見つめながら、彼女は涙をぽろぽろこぼしている。

「とっくに別れたって言ってたよね?」

悠真は喉を動かしただけで、何も言えなかった。

周りにいた人たちが、ようやく状況をのみ込んだように、気まずそうに口を開いた。

「先に付き合っていたからって、その愛が本物とは限らないでしょう」

「そうだよ。悠真と莉奈ちゃんの3年だって大変だった。本当に愛し合ってるんだし」

「悠真を本当に愛してるなら、譲ってあげてもいいんじゃない?」

「7年だから何?公にされていないほうが、むしろ浮気相手みたいなものじゃない?」

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