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第11話 魔術(祈り)が殺しに変わる瞬間

last update publish date: 2026-08-17 17:55:33

「よし。じゃあまずは──お前の魔術の質を調べるぞ」

街の外に出て、レクスと俺はひたすらに『獲物』を探した。

しかし、レクスは純粋な戦闘者だからか、俺に比べて気配遮断能力……否、相手をただ殺すための下準備の力が、どう見ても及第点を与えられないほどお粗末なものだった。

そのため、俺がレクスから獲物の特徴を聞き出して探すことになった。

まずは獲物の能力。

嗅覚はそこそこあるが、絶対的な捕食者としての自信ゆえか、接近に警戒を抱くほどの鋭い嗅覚は持ち合わせていないらしい。ただ、目は前に付いているため、距離感を測るのは得意だそうだ。

典型的な肉食獣のものだな。

次に戦闘能力。

レクスの言う通りならば、そこら辺の魔術師の魔術はその剛毛を通らず、普通の武具も効かない。

だから、この生物には『ある感情』が強く表れる。

慢心。

自らが襲われるなんていう想像すらしない。

故にそこに付け入る隙がある。

だが、俺たちがそれを狩るには、魔術が使えることが大前提だ。

「その前に聞いていいですか?俺、魔術なんて無縁の世界にいたんですけど……使えるんですか?」

「ああ、人間である限り使える。条件はひとつ。··さえつかめばな」

「流れ……?」

(気功みたいなものか?)

そう思っているとレクスに腕を突きつけられた。

「ソル。俺の腕を、組んでみろ」

森の中。

レクスに促され、背の高い木々に囲まれて、むさ苦しいレクスと腕を組む。

分厚くて硬い筋肉に、俺は『尋常じゃない鍛え方をしている』と冷静に分析したが……。

それよりも……。

絵面だけ見れば──初デートのカップルじゃないか?

という、誤解を招きかねない状況を先に憂慮した。

(………勘弁してくれ。)

でも──

その感情もすぐさま消え去ることになる。

身体の内側に奇妙な“流れ”を感じたからだ。

まるでレクスの体から何か……特別な奔流が流れ込み……俺の骨、筋肉、血管、血が、その奔流に対して歓喜とも、拒絶ともつかない反応を示した。

今まで、一度も味わったことのない感覚。

それは、これから己の身に起こる未知への、畏怖すら抱かせるものだった。

「どうだ、ソル。今、俺が何をしていると思う?」

「……分かりません」

正直な感想を言う。

未知への恐怖。

それと共に……時間が経つにつれて。

それが俺の新たな感覚となって、身体に溶け込んでいく気がした。

「今、俺の体の中で魔力を循環させている。後は、心の中で祈りが出来れば魔術が行使できる」

「………………?」

「魔術は、創造主からの贈り物だ。強く祈ってイメージするほど、魔術は力になる。さあ、お前は何を願う?

「誰かに言われるでもなく──自分の“望み”を具現化してみろ。出来なければ、その魔術の素質が無いってことだ。……片っ端から、試してみろ。くれぐれも……『祈り』を忘れるなよ?」

俺自身の祈り──。

その願望を叶えてくれるという響きは甘美にも聞こえたが、今までの人生で見てきた『そんな都合のいいものなどない』という現実が、俺に冷や水を浴びせる。

まずは、あのアーコブが生成した“武器”をイメージしてみる。

同じ魔法は存在しないと聞いた。

射出は避ける。ただ、“作る”だけのイメージ。

……何も起きない。

次は、移動速度を上げるイメージ。

テレポートではなく、純粋に速さだけ。

……それでも、何も起きない。

「他人じゃなくて──お前自身の祈りを形にしろ」

俺の心の内を見透かしたようにレクスが言う。

(そうだ……)

(今の俺は、誰かの真似ばかりだった)

(もっと純粋な、“自分”にしか出来ない望みを)

……変わらないもの。

俺の中で、何も変わらずにずっと在り続けていたもの。

···········

そのとき。

心の奥で、“殺す”という動作が明確な輪郭を持ち始めた。

刃を持つ。

距離を計る。

肉の厚さを読む。

動きの先を想像する。

……ただ、純粋に『斬り裂く』ことを祈った。

それは、俺が元の世界で何万回も繰り返した動作であり、生きるために必要な行為だった。

それを強く……願う。

……願う。

…………願う。

そして、祈る。

その瞬間。

キィィィンと、殺気に満ちた鋭い音が森中へ響き渡った。

「…………初めてでこの威力か。やるな、クソガキ……」

レクスの悔しげな声が、意識を引き戻す。

目を開けると──

十数メートル先の木が、ゆっくりと傾き始めていた。

そして、

「──ドンッ」

木の幹が、真ん中で“綺麗に斬り裂かれて”倒れていた。

「お前の魔術が分かった……斬撃魔術だ。しかも、精度も威力も、かなり高い」

俺の“殺しの技術”が。

魔術という世界の言語に変換された瞬間だった。

これはただの力じゃない。

これは──“祈るように斬る”という、俺の呪いにも似た願いそのものだ。

この魔術が、誰を救い、誰に届くのか。

それはまだ分からない。

……でも、俺の中で“何か”が確かに始まった。

嗚呼、もし叶うのであれば……この祈りで誰かを守れたら。

あの時死なせてしまった幾《いくせん》千の魂に代わって、一体いくつの命を守り抜けば……俺は、己を赦《ゆる》せるのだろうか?

そんな疑問が浮かんだ。

己を赦すには、どれ程の徳《とく》を積めばいいのか?

それは誰にも分からない、未知の答えでもあった。

そもそも己を赦《ゆる》すとは、一体どういうことなのだろうか?

踏み出したばかりの未知なる世界の入り口で、そんな壮大な問いが頭をよぎった。

この魔術《いのり》が後《のち》に、俺をあらゆる意味で惑わすことなど露《つゆ》知らずに。

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