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4話

작가: Amy
last update 게시일: 2026-08-05 20:49:40

投稿するまでに、3時間かかった。

書いては消し、書いては消し、最後に残ったのは、短い文と1枚の写真だった。

写真の端に住所や書類名が映り込んでいないか、何度も確認した。元画像は撮影時刻が残ったまま、私しか開けない保管先へ移した。

【韓国出張中の夫のパスポートが、家にあります】

写真は、濃紺の表紙だけ。名前のページは写さなかった。

送信して、陽翔と風呂に入って、寝かしつけて、恐るおそるスマホを開いた。

拡散の数字が、4桁になっていた。

【は? どういうこと?】

【パスポートなしで海外……行けるわけない】

【偽装出張だ。うちの元夫と同じ手口】

【奥さん、落ち着いて。まず証拠の保全を】

【いや待って、更新で古いのが家にあるだけかも。冷静に】

コメント欄は、燃えているというより、沸騰しながら整列していた。責める声を、たしなめる声が抑える。憶測を、経験談が裏づける。夜中の3時に、知らない人たちが、私のために本気で議論していた。

その中に、ひときわ具体的なコメントがあった。

【元調査業界の者です。パスポートだけでは「行っていない」と断定できません。古い旅券ではないか、有効期限も確認してください。

出入国記録は本人以外が簡単に取れるものではないので、離婚を視野に入れるなら、まず弁護士に相談して、必要な手続きや照会方法を確認してください。最初は自治体の無料法律相談でもいいと思います】

アイコンは虫眼鏡のマーク。まる子さんがすかさず【調査員さんだ。この人の言うことは確か】と返していた。

弁護士。

その言葉が、画面の中で急に現実になった。

愚痴のはずだった。吐き出すだけの場所のはずだった。それがいま、「離婚を視野に」という言葉と一緒に、私の手の中にある。

……

朝になって、私はひとつの投稿をした。

【たくさんの反応、ありがとうございます。ひとつだけお願いです。夫の名前や勤務先を探すのは、やめてください。私は事実を確かめたいだけで、誰かを晒したいわけじゃありません。名前も顔も、これからも出しません】

【了解です】

【それでこそ奥さん】

【俺たちは証拠集めのお手伝いだけな、みんな】

ルールが、できた。私と、顔も知らないこの人たちの間に。

私は投稿を閉じ、スマホのメモを開いた。

【出発2日前 崇が韓国出張と説明】

【出発前日 香織が荷造りを手伝う】

【出発当日 崇が出発。韓国到着とLINE】

【出発3日目 自宅で有効なパスポートを発見】

見たことと、推測を分けて書いた。「浮気」とは、まだ入力しなかった。崇が韓国にいない可能性は高い。でも、どこにいて、誰といるのかは知らない。

知らないことまで事実にすれば、私も崇と同じになる。

そう書いても、頭の中では答えを作りたがる自分がいた。パスポートが家にある。なら、崇は国内にいる。国内にいるのに10日も帰らない。なら、女がいる。

推測は、階段のようにつながっていた。1段目が事実なら、最後まで正しいように見える。けれど、途中にはまだ、私が見ていない段がある。

私はメモの文字色を変えた。自分の目で見たものは黒。崇が話したことは青。推測は赤。

画面には、赤い文字ばかりが増えた。

【国内にいる】

【誰かと会っている】

【会社にも嘘をついている】

【浮気している】

いちばん知りたいことほど、まだ赤かった。私はその4行を消さず、先頭に【未確認】と付けた。

信じたい気持ちで白に戻すことも、怒りで黒へ塗り替えることもしない。赤いまま残して、確かめる。

陽翔が昼寝から起き、私の膝へよじ登ってきた。私はすぐに画面を閉じた。

「パパ、いつかえる?」

「もう少しだって」

それは崇から聞いた事実だった。帰ってきたあと、どんな父親の顔をするのかは分からない。

「おみやげ、ある?」

「あるといいね」

私は陽翔の髪を撫でた。子どもの期待まで、私の推測で先に壊さない。その代わり、崇が帰ったとき、言葉ではなく行動を見る。

赤い文字の画面を閉じたまま、私は陽翔と積み木を積んだ。崩れた塔を、この子は何度でも最初から作り直した。

スクリーンショット、パスポートの写真、崇からのLINE。日付ごとにフォルダを分ける。SNSの人たちが教えてくれた「証拠の保全」は、私にもできた。

昼すぎ、市役所に電話をかけて、無料法律相談の予約を取った。いちばん早い枠は、およそ2週間後の月曜日だった。長い。でも、進んでいる。

相談までに聞きたいことも書き出した。夫が本当に出国したかを確認する方法。夫婦のお金を守るために、いま何をしてよいか。子どもを連れて家を出る場合、先に準備するもの。

離婚すると決めたわけではない。

ただ、崇の説明ひとつで、私と陽翔の生活が消えないようにしたかった。

電話を切ったあと、通帳と印鑑の場所を確認した。勝手にお金を動かすつもりはない。口座の残高と、毎月いくらあれば陽翔と暮らせるのかを、家計簿の余白へ書き出した。

数字にすると、怖さに輪郭ができた。

育休中でも、私は何もできない人間ではない。復職する会社があり、わずかでも自分名義の貯金がある。母親である前に、夫の言葉を信じるだけではない自分がいた。

夕方、崇からLINEが来た。

【ごめん、出張延長かもしれない。あと2、3日】

台所に立ったまま、その画面をしばらく見ていた。

不思議なくらい、心が動かなかった。

3日前の私なら、「大変だね」と返して、信じようとして、夜中にひとりで苦しかったはずだ。

いまは違う。この14文字は、嘘だ。嘘だと知っている。そして嘘には、証拠という反対語がある。

【わかった。体に気をつけてね】

完璧な妻の返信を打ちながら、私は生まれて初めて、自分の中に静かな戦意が灯るのを感じていた。

スマホの向こうでは、まだコメントが増え続けている。

【奥さん、それ絶対に何かあります】

知らない誰かが、本気で怒ってくれていた。

私は証拠フォルダへ、崇の「延長」のLINEを追加した。

画面の保存時刻も、メモへ残す。崇が帰宅したら、出張先の話を自分からするはずだ。どの街にいたのか。誰と会ったのか。何を食べたのか。

私は答えを知りたいのではない。

崇が、どんな嘘を選ぶのかを知りたかった。

帰ってきたら、問い詰めない。

崇が自分から何を話し、何を隠すのかを見る。嘘をひとつずつ、本人の言葉で残してもらう。

そのために私は、何も知らない妻の顔で待つことにした。

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