ANMELDEN清子は綾羽を訪ね、計画を途中で勝手に変更したのか尋ねることにした。まずはタクシーを拾い、家へ戻ってシャワーを浴び、着替えてから綾羽に会うつもりだった。極度の緊張と寝不足が祟ったのか、乗車して間もなく、清子は深い眠りに落ちた。どれほど眠ったのか分からない。冷たい水を頭から浴びせられ、清子は悲鳴を上げて飛び起きた。目を開けると、目の前に体格のいい黒服の男が何人も立っている。「あなたたちは誰!?ここはどこなの!?」清子はようやく、自分の手足が椅子に固く縛りつけられていることに気づいた。周囲は暗く、廃倉庫のようだった。その男たちの中央で、不気味な閻魔の面をつけた男が椅子に座っている。彼らの頭目らしい。ボイスチェンジャーを通した声が、背筋が凍るほど異様に響いた。「小林さん、自分の過ちが分かったか?」清子は面を見て怯えた。「あなたは一体誰なの!?」「私か?お前を裁く者だ」男は感情のない声で、同じ言葉を繰り返す。「小林さん、自分の過ちが分かったか?」「お願い、傷つけないで!言うことなら何でも聞くから!そうだ、私の恋人は神谷雅臣よ。金が欲しいなら、彼に言って。いくらでも払えるから!だから、お願い……」閻魔の面の男は、清子の必死の懇願にまったく動じなかった。「小林さんが自分の過ちに気づいていないなら、刑を始めよう」男が顎を上げると、黒服の二人が前へ出た。彼らが運んできたまな板のような木の台には、太さの違う鋭い針が何本も突き立てられている。その針を見た瞬間、清子の瞳孔が収縮し、顔からすっと血の気が引いた。「な、何をするつもりなの?」閻魔の面の男は答えず、顎をわずかに動かした。黒服の一人が、台から太い針を一本抜く。薄暗い光を受け、針先が冷たく光った。「嫌!お願い、私が悪かった!本当に反省してるから!」清子は泣き叫び、手足を懸命に動かした。だが縄は手首に深く食い込み、赤い痕を残すだけで、少しもほどけない。男の声は変わらず、平坦で残酷だった。「では、どこが悪かったのか言ってみろ」極限の恐怖で頭が真っ白になった清子には、答えが出てこない。黒服の男が清子の手首を力任せにつかみ、指を一本ずつ無理やり開いて、冷たい台の上へ押しつけた。「やめて!お願い、やめて……っ!
清子はかつて、雅臣の親友である勇の命を救ったことがある。勇にとって、彼女は命の恩人なのだ。だからこそ雅臣には、清子が命を落とすのを黙って見過ごすことなどできなかった。最悪の事態は免れるとしても、残りの人生を刑務所で過ごす程度は覚悟していた。雅臣は信じられないという顔をした。「……清子を、解放するのか?」星は雅臣をまっすぐに見つめた。「航平と神谷さんの顔を立てて、今回はそうするわ。ただし、次があったら……」雅臣はすぐに答えた。「安心してくれ。次に清子が何かしたら、君が言わなくても、俺が自分で納得できる形にする」星は軽くうなずいた。「少ししたら、彩香から航平に連絡させるわ。神谷さんは帰る前に、清子を迎えに行ってあげて」雅臣は星を見つめた。その目には、暗く複雑な色があった。「今回は、俺が君に大きな借りを作った。いつか俺の力が必要になったら、必ず力になる」星は断らなかった。「分かったわ。神谷さんは先に清子を迎えに行って。私はもう休むから」「ああ、そうする。じゃあ、俺は行く」雅臣は彩香へ軽く会釈し、病室を出ていった。雅臣が去ると、彩香は星へ親指を立てて笑った。「やるじゃない、星。もともと清子を泳がせて黒幕を釣り上げるつもりだったのに、神谷さんからも一つ大きな貸しを作れたじゃない。今回は得したね」星は笑い、否定しなかった。どうせ清子は仁志の案で解放するつもりだった。それなら、雅臣に恩を売っておくのも悪くない。今すぐ使う予定はなくても、いつか役に立つかもしれない。……彩香から電話を受けた航平の顔が、見る間に険しくなった。結局、星は自分ではなく仁志の案を採用し、清子を解放することにしたのだ。清子のような役立たずを泳がせても、大物を釣れるとは到底思えない。しかも今日、清子を無傷で解放すれば、星を害しても代償はないと相手に思い込ませるだけだ。明日になれば、さらに図に乗ってエスカレートするだろう。清子を許すわけにはいかなかった。だが星から彩香を通じて、解放するよう頼まれている。雅臣からも清子について尋ねられていた。星の選択も、親友である雅臣の顔も、航平は無視できない。それでも、航平の目には冷酷な光が宿った。表立って動けないなら、裏で動けばいい。抜け道などいく
星は何も答えなかった。彩香は深くため息をついた。「一人でそんなに抱え込むくらいなら、機会を見つけて、仁志本人に直接聞いてみたら?」星はかすかな声で言った。「……聞いたところで、何が変わるの?仁志に婚約者がいるのは事実よ。私が尋ねて、何になるというの?今の私には、彼を問い質す資格も立場もないわ」彩香は言葉に詰まった。確かに、ただの友人という関係なら、相手の婚約者についてあれこれ尋ねるのは失礼になりかねない。しかも今まで、仁志の方から星へ明確な好意を示したり、期待を持たせるような言葉を口にしたことは一度もなかった。そんな中で星が急に踏み込めば、相手に気持ちを明らかにしろと無理に迫るようなものだ。もし仁志にきっぱりと拒絶されてしまえば、これからは友人としてそばにいることさえできなくなるかもしれない。彩香も星も、仁志がいずれ自分の世界へ帰り、ここを去っていくことを分かっていた。そのうえ婚約者までいるのなら、星のこの気持ちは実らない可能性が高い。星は昔から優しく、何をするにも自分のことより相手のことを先に考える性格だ。仁志がこの地に残るつもりがあるのか、婚約を解消しているのかどうかも分からない以上、自分の気持ちを押し付けて彼を困らせることなど、星には到底できなかった。その時、病室のドアが軽くノックされた。彩香は仁志が戻ってきたのだと思い、急いでドアを開けた。だが、そこに立っていた人物を見て、一瞬、ピタリと動きが止まる。すぐに不快そうに眉をひそめた。「……雅臣。何しに来たの?」神谷雅臣は顔立ちこそ見事に整っているが、彩香は彼をまったく好いていなかった。星が今回こんなひどい目に遭ったのは、元をたどればすべてこの雅臣が原因だったからだ。星自身は何もしていないのに、雅臣のあの頭のおかしい恋人に勝手に目をつけられた。小林清子は一方的に星を憎み、あれほど陰湿で悪辣な犯罪計画まで立てたのだ。「……星野さんの様子を見に来たんだ」雅臣の声は低く、沈んでいた。彩香は彼を少しも歓迎していなかったが、星の意思を無視して勝手に追い返すつもりもなかった。結局、無言で身を横へずらして雅臣を中へ通した。雅臣の姿を見た星の目にも、わずかな驚きが浮かぶ。「神谷さん、どうしてここへ?」星は、自分が昨
仁志が出ていく背中を見送り、星の目に、ふとかすかな陰りが落ちた。仁志が携帯電話を手にした時、星はすぐそばにいた。画面に表示された発信者の名前が、偶然目に入ってしまったのだ。【美咲】仁志の婚約者だ。美咲のことを思い出すと、星は急に息苦しくなり、胸が詰まるようだった。ほどなくして、仁志が廊下から戻ってきた。「星野さん、少し用事が入ったから、先に出ることになる。彩香には戻ってきてもらうよう連絡した」星は静かに目を伏せた。「……そう。用事なら早く行って。足止めしちゃ悪いから」「急がなくていい。彩香が戻るまで、ここにいるよ」星はそれ以上、何も言わなかった。数分後、彩香が病室へ戻ってきた。仁志は二人に短く声をかけてから、病室を出ていった。仁志が去ると、彩香は星の気分が明らかに沈んでいることに気づいた。「星、どうしたの?仁志に何か嫌なことでも言われた?」星は首を横に振った。「ううん、何でもないわ」彩香はしみじみとした口調で言った。「それにしても、今回のことは本当に仁志に助けられたわね。あれほど早く判断して動けるとは思わなかった。もし仁志がいなかったら、今頃取り返しのつかないことになっていたわ」彩香はもともと、仁志に対して航平ほど好意的ではなかった。知り合ってからまだ日が浅く、しかも仁志には事情のよく分からない婚約者までいる。だが今回の件を経て、彩香は心から仁志を認めるようになった。彼が素早く動かなければ、絶対に無事では済まなかった。事が起きた後で、いくら犯人の竜也を八つ裂きにしたところで、星が受けた心身の傷が消えるわけではないのだから。星は上の空で、小さく曖昧な返事をした。彩香はふと思い出したように続ける。「そういえば、さっき鈴木さんを送った時、清子をどうするつもりか星に聞いてほしいと言われたの」清子の計画は結果的に成功しなかったが、星を害そうとした事実に変わりはない。航平は、清子を簡単に許すつもりがなかったのだ。星は眉を寄せた。「仁志はさっき、まずは清子を泳がせて黒幕を釣り出すと言っていたでしょう?」「でも鈴木さんは、あいつをそう簡単に許す気はないみたい。少なくとも、少しは痛い目を見せるべきだって」彩香は星の表情をうかがった。「星を傷つけておい
夜は青白い娘の顔を痛ましそうに見つめ、瞳の奥に一瞬だけ胸を痛める色を滲ませた。だが、すぐにその感情を押し隠し、靖たち三人の息子へ向き直る。「私たちは先に帰りましょう。星をゆっくり休ませてあげないと」靖がうなずき、先にドアへ向かった。翔と忠も後に続き、仁志の脇を通り過ぎる際、翔がその肩を軽く叩いた。「時間がある時に、雲井家の屋敷へ遊びに来てくれ」仁志は小さく頭を下げた。忠は仁志をもう一度、興味深そうにじろじろと見た。この男は、見れば見るほど面白い。雲井家の一行は、ぞろぞろと病室を出ていった。奏と澄玲も邪魔にならないよう、すぐに続いて退室した。航平は仁志を追い詰められず、これ以上ここに居続ける理由を完全に失っていた。星に小さく声をかけると、悔しげに病室を出ていく。彩香は残された二人を見て言った。「私、鈴木さんを送ってくるね」彩香が気を利かせて出ていくと、病室には星と仁志だけが残った。静かになった病室で、星はベッドの背に寄りかかり、仁志を見た。仁志は窓辺に立っていた。午後の光が彼の整った横顔を淡い金色に縁取り、その表情からは何も読み取れない。「……仁志」仁志が振り返った。「うん?」「ありがとう」仁志は二秒ほど星を見つめ、ふっと笑った。淡く、すぐに消える笑みだったが、その一瞬だけ、いつもの完璧に作られた無害な表情ではない、素の何かが覗いた気がした。星の鼓動が、また速くなる。仁志は尋ねた。「傷は痛む?」星は一瞬きょとんとし、竜也にベルトで打たれた傷のことだと気づいた。「……もうそれほどでもないわ」本当はまだ、火で焼かれているように痛かった。それでも仁志の前では、弱々しい惨めな姿を見せたくなかった。仁志の視線が、星の顔から包帯の巻かれた腕へと移る。漆黒の深い目を向けられると、見られた場所まで熱を持つように感じられた。仁志はしばらく黙って星を見た後、ベッド脇のコップを取り、温かい水を注いだ。「鈴木さんとあれだけ長く話したんだ。喉が渇いただろう。飲んで」「……」星は差し出された手を見た。節のはっきりした長い指、きれいに整えられた爪、少しめくれた袖口から覗く白い肌。コップを受け取る時、星の指先が偶然、仁志の指に触れた。ひやりと
彩香が話し終えると、病室は完全に静まり返った。航平の顔は屈辱で青ざめていた。まさか彩香が、雲井家の人々がいるこの場で仁志の側に立ち、自分に不利な証言をするとは思っていなかった。かつて彩香も自分と一緒に仁志を疑っていたのだ。それなら、当然自分の味方をしてくれるものだと思い込んでいたのだ。それでも航平は諦めきれず、必死に食い下がった。「そ、その時は、星の安全を考えて慎重になっていただけだ。だが今になってみれば、溝口さんはもっと早く見つける方法を知っていたのに、自分が捜索から外されたというだけの理由で黙っていた!星の命より、自分のくだらない感情を優先したんじゃないのか!?」航平が執拗に食い下がり、星も見かねて冷たい声で口を開いた。「もういいわ、航平。私は仁志を完全に信じてる。この話はここまでにして」翔と忠は無言で目を見合わせた。二人はこれまで裏表のある多くの人間を見てきた。航平の言葉が表向きは星を心配しているように見えても、言葉の端々で矛先を仁志に向けようとしていることなど、正直なところ、二人には見飽きた手口だった。航平がここまで異常に仁志へ執着する理由も、二人には何となく分かっていた。容姿、頭脳、人との接し方や度胸。そのどれを取っても、航平は仁志の足元にも及ばない。しかも星は、他の男には見せないような特別な信頼を、仁志に対してだけはっきりと見せている。星が決定的な言葉で航平の口を塞いだのを見て、三兄の翔が先に言った。「星がそう言うなら、この話はここまでにしよう」翔は航平へ向き直り、釘を刺すような言った。「鈴木さんも、星をひどく心配しているからこそ、少し感情的になったんだろう。その気持ちは皆、よく分かっている。ただ、溝口さんが自分の命を懸けて星を助けたことも、紛れもない事実だ。雲井家は、この重い恩を決して忘れない」次兄の忠も同調して続けた。「翔の言う通りだ。どんな理由があろうと、溝口さんが最初に星を見つけ出し、無事に連れ帰ってくれたことだけは、誰にも否定できない事実だからな」二人の態度は明確だった。航平は悔しげに唇を動かしたが、もう反論の言葉が一つも出てこない。当事者である星もすでに「仁志を信じる」と言い切り、親友の彩香も仁志の側に立った。ここでこれ以上粘れば、仁志を倒せないど







