妊娠初期、極道の夫の愛人が私を挑発しに来た

「昨日、悠人（ゆうと）さんがどうしても子どもが欲しいって、ずっと私を離してくれなかったの。検査の結果が出たわよ、どうなったと思う？」

彼女――篠宮美月（しのみやみつき）の首筋に新たにつけられたキスマークと、差し出された検査結果を目の前にして、私はまるで背後から悠人にナイフを突き立てられたかのような痛みを覚えた。

彼女が私の前に現れたのはこれで二度目だ。

昨日が最初だった。

彼女は悠人との情事を収めた動画を私に見せつけると、傲慢にブラックカードをテーブルに投げ出した。

そして優雅にサングラスをずらして、冷ややかな目で私を一瞥し、「悠人さんがあなたに飽きるのも当然ね。ずいぶん老けてしまったじゃない。このカードには二億円入っているわ、受け取って悠人さんから離れてちょうだい」と言い放った。

さらに彼女は勝ち誇ったように続けた。「本当なら、悠人さんがあなたに愛想を尽かした時点で私があなたに会いに来る必要なんてないの。でも悠人さんが私と結婚式を挙げるって言うから、あなたたちには離婚してもらわなくちゃいけないのよ」

その言葉を聞いて私は思わず笑った。

離婚してもらわなくちゃいけない？悠人自身は、そのことを知っているのだろうか。

「悠人が、あなたがここに来たことを知っているの？」

私は気だるげに彼女に尋ねた。

すると彼女は誇らしげに顎を上げ、まるで自分が悠人にとって唯一無二であると確信しているかのような態度をとった。

次の瞬間、彼女は悠人に電話をかけた。「悠人さん～ちょっと来てくれる？ここに厄介な女がいるのよ」

悠人は本当に彼女の言うなりだった。間もなくして彼は姿を現したが、私を見た瞬間、彼の顔色が凍りついた。

しかし美月はそれに気づかず、自分が悠人を呼び寄せたことに得意気になり、テーブルに置いてあった熱いお茶を掴んで私に浴びせかけた。

私は冷たく笑った。「あなた、一体誰に対してそんなことをしているの？」

次の瞬間、悠人が大股でこちらに歩いてきた。美月は彼が自分を守ってくれるものだと思い、笑顔で迎えようとした。

だが悠人は彼女の髪を乱暴に掴み、何度も蹴りつけた。

美月は腰を上げられないほどに打ちのめされ、呆然としたまま悠人の部下たちに引きずられていった。

昨日まで――

神浜の裏社会では、悠人が美しい愛人を囲い、どこへでも連れて歩いているという噂が広まっていた。

その女は血を見ると倒れてしまうらしく、悠人は彼女を血なまぐさい場面には絶対近づけず、誰もが彼女を甘やかしていると言っていた。

私は信じていなかった。

かつて私が誘拐されたとき、悠人は命懸けで取引をし、全財産を投げ打って私を取り戻した。

私が神浜の外れで行方不明になったときも、彼は七日七晩山を捜索し、帰ってきたときには足が獣に噛まれ半ば動かなくなっていた。それでも私を抱きしめて、「淑乃（よしの）、大丈夫だ。俺がいる」と繰り返した。

何年も刀の上を歩き続け、多くの傷を負ってきた彼が、私の前でだけは誰よりも優しかった。そんな記憶がずっと胸に刻まれていた。

だから美月が私の前で騒ぎ立てた時、私は悠人との情事を収めた映像を見ながら涙声で尋ねた。「外での噂は、本当なの？」

彼は狼狽して私に懇願した。「ごめん、今すぐ彼女を始末させる。だから許してくれ……淑乃……」

目眩がして、そのまま病院に運び込まれた。

もともと身体が弱く、妊娠している私に医者は言った。ストレスは流産の危険がある、と。

悠人の力のもと、神浜の裏社会では誰一人私に手を出す者はいなかった。なのに、結局私を病院送りにしたのは悠人自身だった。

処置室に運ばれる前に、何度も考えた。

こんな悠人は汚れてしまった、もういらない。

だが処置室から出たとき、悠人は私の前に跪き、自分の右手の小指を目の前で切り落として言った。「淑乃、俺が悪かった。君を裏切った俺を許してくれ。今回だけでいい。頼む、淑乃」

十年間も愛し合った私たちにとって、心が痛まないわけがなかった。

私はもう一度だけ彼にチャンスを与えた。

だが今日、美月の首筋につけられた痕を見て、顔に投げつけられた妊娠検査書を見て、私は悟った。

昨日彼は美月を処理すると言ったが、結局は彼女と再びベッドを共にしたのだ。

現実の残酷さが私の心を完全に粉々にし、鋭い痛みが身体中を貫いた。

悲しみと絶望で腹痛が引き起こされ、身を引き裂くような痛みに耐えられず、そのまま大量の出血を感じた。

この子はもう、助からないのだと私は悟った。