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親友だと思っていた

Penulis: 影畑凛星
last update Tanggal publikasi: 2026-07-25 00:28:13

「綾香!」

白瀬美月は花が咲いたような笑顔で駆け寄ってきた。

ふわりと揺れる白いワンピース。

大きな瞳。

守ってあげたくなるような儚い雰囲気。

前世の綾香は、その姿を疑ったことなど一度もなかった。

「最近、元気ないって聞いて心配してたの!」

美月はそう言いながら、自然な動作で理央の隣へ立った。

距離が近い。

いや、“近すぎる”。

理央もそれを拒まない。

まるで最初からそこが、美月の居場所だったかのように。

「顔色悪いよ? 大丈夫?」

美月が綾香の顔を覗き込む。

その瞬間。

綾香の脳裏に、前世の光景が蘇った。

◇◆◇

「逃げようとしたから、こうなったんだよ」

理央が笑いながら綾香の髪を掴む。

頬に焼けるような痛みが走った。

割れたガラス片。

床へ飛び散る血。

歪む視界。

「やめて……!」

綾香が泣きながら抵抗しても、理央は止まらなかった。

「少し顔が傷つくくらい、大したことないだろ?」

その横で、美月は怯えた顔をしていた。

だが止めなかった。

それどころか。

「綾香お姉様、暴れたら危ないよ……」

震える声でそう言いながら、どこか安心したような目をしていた。

「どうせ刑務所に入るなら、顔なんて必要ないだろう」

綾香の顔へ刻まれていく傷を、美月はじっと見つめていた。

「ずっとあなたの人生を生きたかった」

まるで。

ずっと憎んでいたものが壊れていくのを見守るように。

◇◆◇

「……っ」

綾香は反射的に一歩下がった。

美月の手が空を切る。

「え……?」

美月がきょとんと目を丸くした。

「綾香?」

理央も不思議そうに綾香を見る。

二人とも、まるで何も知らない顔をしている。

そのことが、余計に恐ろしかった。

綾香はゆっくり息を整える。

怯えるな。

今度は、壊される側ではない。

「ごめんなさい」

綾香は微笑んだ。

「少し考え事をしていただけよ」

「本当に?」

美月が心配そうに眉を下げる。

「私、綾香お姉様が元気ないと嫌だなぁ……」

そう言いながら、美月は理央の袖を軽く掴んだ。

甘えるような仕草。

その自然さに、綾香は背筋が冷えた。

前世では気づかなかった。

この二人は、最初から妙に距離が近かったのだ。

「そういえば!」

美月が明るい声を上げる。

「理央さん、さっき婚約のお話してたんですよね?」

理央の目がわずかに動く。

「ええ、まあ……」

「いいなぁ」

美月は羨ましそうに笑った。

「綾香お姉様は昔から何でも持ってるんだもの。綺麗で、お金持ちで、理央さんまでいて……」

その言葉に、綾香は目を細めた。

彼女の言葉の奥には、粘つくような嫉妬が隠れている。

「美月」

理央がやんわりと名前を呼ぶ。

だが咎めるような響きではない。

むしろ甘い。

美月は少し唇を尖らせた。

「だって本当のことでしょう?」

そう言って、今度は綾香を見る。

「私、お姉様みたいになりたいって、ずっと思ってたの」

私になりたい?

綾香の脳裏に、ウェディングドレス姿の“自分の顔”が浮かぶ。

――君みたいな顔になりたい。

理央の言葉が蘇った。

全身がぞっと冷える。

「……そう」

綾香は静かに笑った。

「でも、人のものを欲しがるのって、あまり良いことじゃないわよ」

空気が止まった。

美月の笑顔がわずかに引きつる。

理央の視線も鋭くなる。

けれど綾香は微笑んだままだった。

「え……?」

「欲しいものがあるなら、自分で努力して手に入れないと」

柔らかな声で続ける。

「他人から奪おうとしたら、いつか全部失うもの」

美月の表情が固まった。

その目に、一瞬だけ剥き出しの敵意が浮かぶ。

だがすぐに、美月は困ったように笑った。

「理央お兄、分かっているでしょう? そんな意味で言ったんじゃないの」

言いながら、理央の腕に抱き着く。

「美月」

今度は理央が低い声で遮った。

先ほどまでとは違う声音だった。

「綾香に失礼だ」

理央はその腕を静かに振りほどいた。

美月が目を見開く。

「……っ、ごめんなさい」

唇を噛む姿は、まるで叱られた子供のようだった。

だが綾香は見逃さなかった。

美月が理央を見上げた瞬間の、不満げな目を。

そして理央もまた、美月へ一瞬だけ冷たい視線を向けていたことを。

まるで。

“今は余計なことをするな”とでも言いたげに。

綾香は静かに確信する。

やはり、この二人は繋がっている。

しかも、ずっと前から。

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