LOGIN「ま、待ってくれ……!麗奈の話は、嘘だったと言うのか…!?お前達が俺の家に……っ!」 「映像を見て。本当に信じられないわね、麗奈の言葉だけを信じて、こんな大騒ぎにして…滝川さんが怪我をしたら、会社の経営にだって影響が出るかもしれないのよ」 私たちが睨み合い、言葉を交わしていると、警察官の上司が近づいて来る。 「……一先ず、署で救急車を手配して、病院へ行きますか……?」 「きゅ、救急車だと!?そんな大袈裟な……!」 「市民の方を守る立場の我々が、怪我を負わせてしまったのです、決して大袈裟なものでは──」 「いや、救急車はいい。後で自分で病院に行く。それより……加納さんが被害届を提出する。手続きを進めてくれ」 清水瞬と、警察の会話を遮り滝川さんがそう言うと、清水瞬が真っ青な顔で口を開く。 「まっ、待て──!俺たちの間で行き違いがあった……!こちらの被害届は取り下げる!だから……」 清水瞬の自分勝手な言い分に、私は怒りが込み上がり、彼を睨み付けた。 「だから何だと言うのですか、清水さん。……そもそも、嘘をついた当の本人から事情説明もなく、謝罪もない今この場でこれ以上話す事はないです。清水さんはお帰りください」 「こ、心……!」 私は清水さんの事を無視し、警察官に向き直る。 「被害届を提出したいです。どうすれば?」 「そ、それではこちらに……」 「心……!待ってくれ、わ、悪かった……!」 私と警察官の話に清水瞬が割り込み、謝罪を口にする。 「麗奈の話を鵜呑みにした俺に、落ち度がある」 「……謝罪は、私にだけですか?清水さん」 「──っ、滝川さんも、すまなかった」 私の言葉に、清水瞬は悔しそうに唇を噛んだあと、滝川さんに向き直り頭を下げる。 その姿を見た滝川さんは、私に視線を向けて「どうする?」と問う。 私は、このまま許したくはない。 だけど、滝川さんが怪我をしているから早く病院に向かいたい。 清水瞬が被害届を出した件は、彼本人が謝罪をして取り下げをしたので滝川さんがこれ以上警察に拘束される事もない。 それなら、私が取るべき行動は一つ。 「……分かりました。とりあえず、今日は被害届を出しません。清水さんから謝罪をされても、私は意味がない。……嘘をついた麗奈がちゃんと嘘を
にやついた、人を小馬鹿にしたような、不快な声。 私が振り向くと、案の定嫌な笑みを浮かべた清水瞬がそこに立っていて、私の怒りが益々増していく。 彼を睨み続けていると、清水瞬は不服そうに片眉を上げた。 「その態度は何だ、心。このままだと滝川涼真は逮捕されるぞ?俺に謝罪したほうがいいんじゃないか?」 「謝罪……?どうして滝川さんが清水さんに謝罪を?」 「……麗奈から聞いた。滝川が無理やり部屋に入り、お前と一緒に室内の物を荒らしたり、壊したりしていった、と。……麗奈は恐怖で泣いていた。地べたに頭を擦り付けて謝るんだったら、俺もそこまで鬼じゃない。許してやる」 「──はっ」 麗奈の言い分を鵜呑みにしているのだろう。 鼻で笑った私に対し、清水瞬は苛立ちを顕にして私に向かって歩いてくる。 このままの勢いだと、掴みかかってくるんじゃないか──。 そう思った所で、間に立っていた警察官の上司がさっと腕を差し出し、清水瞬を止めた。 「清水さん。どうやら行き違いがあるようです」 「──は?」 「被害に遭われたのは、こちらの加納さんで、加納さんを助けるために滝川さんがそちらのお宅にお邪魔したようです」 「何を言っている……?麗奈が言っていたし、被害届を提出する時も、状況を説明しただろう!?この2人が勝手に部屋にやって来て、拒む麗奈を押し退け、部屋を荒らしたって……!」 「そもそも、そのような事は最初からなかったのです…!そちらの、柳さんが加納さんを駐車場で拉致し、ご自宅に連れ去ったのです……!加納さんと滝川さんの証言通り、証拠もございます…!」 警察官の上司の言葉に、先程までの勢いをなくし、清水瞬は唖然とその場に立ち尽くす。 私は滝川さんの隣に歩いて行き、そっと彼の肩に触れる。 「……事実確認もせず、本当に
あれから。 私と滝川さんは、警察署に向かった。 信じられない事に、麗奈と清水瞬は滝川さんを不法侵入したと通報し、被害届を提出していたようだ。 そんな事をすれば、自分たちがどうなるか。 それすらも分からないのだろうか。 滝川さんが麗奈の部屋に乗り込んだのは、私が攫われたから。 私のスマホに入れていたGPSのアプリを追って、私を助けに来てくれた。 そして、私は麗奈に連れ去られた時、部屋に入れられた時に玄関の鍵を開けたままにしておいた。 麗奈が興奮していた隙をつき、玄関の鍵をこっそり開けておいたのだ。 きっと、駐車場から姿を消した私に1番最初に気づいてくれるのは秘書の持田さん。 そして、持田さんはすぐに滝川さんに知らせてくれるだろうと思った。 だから、スマホのGPSが切れないように気をつけ、部屋に入った時に鍵を開けておいた。 絶対に滝川さんが助けに来てくれる、と思ったから──。 警察署に着いた私は、この事情を警察官とその上司の方に話し、証拠として間宮さんがタブレットで滝川さんの会社の防犯カメラ映像を流してくれた。 そして、私が連れ去られた時間とGPSの位置情報を照らし合わせ、間宮さんが補足説明をしていく。 始めは、不遜な態度で私たちの話を聞いていた警察官と刑事も、話が進むにつれて青い顔をして、真剣な表情になっている。 そして、私は最後に滝川さんの家にやってきた警察官を睨みながら、話した。 「それなのに、そちらの警察官は、私の証言に聞く耳を持たず、関係ないと一蹴しました。…しかも、あろう事か私の松葉杖にぶつかり、転倒した際にも自分の保身のために言い訳ばかり。私を助けるために、濡れ衣を着せられた滝川さんが怪我をしたんです」 私の言葉を聞いた警察官の上司は、自分の部下に視線を向け、「本当か」と問いただす。 警察官がもごもごと口を動かし、自分の非を認めない態度を見て、間宮さんがタブレットを再び差し出した。 「社長のご自宅の玄関、及びリビングに通じる廊下には防犯のためにカメラを設置しております。映像を流しましょうか」 「も、申し訳ございません……」 間宮さんの言葉に、ようやく警察官が謝罪を口にする。 彼が謝罪をした事で、私の証言が全て真実だと分かったのだろう。 上司は額を抑え、怒鳴っ
突然の私の発言に、警察官は一瞬呆気に取られたような表情をしたけど、私の言葉を鼻で笑い、軽くあしらった。 「拉致って…、そんな事をする訳がないでしょう。いいから、無関係な人は下がっていて」 「無関係じゃないです。被害届を提出したのは清水瞬と、柳麗奈ですよね」 松葉杖をつき、近づいて行く私を心配するように滝川さんが視線を向けてくる。 警察官は煩わしそうに目を閉じつつ、私を追い払うように手を振った。 「いいから。無関係な人は──」 「──あっ」 ガツン、と警察官の払った腕が私の松葉杖に当たる。 そのせいで、私はバランスを崩した。 「加納さん!!」 ガシャン!と松葉杖が倒れた音が派手に響く。 私は、倒れそうになった所を滝川さんに抱き止められ、滝川さんと一緒に床に倒れ込んだ。 警察官は流石に顔を真っ青にしていたが、はっとして言い訳を口にした。 「か、関係ない人が話に割り込んでややこしくしたから……!それに、わざとじゃない…!」 「ふざけるなよ。警察官ともあろう人が、守るべき市民に暴力を働くとは何事か!」 滝川さんが声を荒らげ、警察官に叫ぶ。 滝川さんの気迫に押された警察官は、狼狽えつつそれでも言い訳を続けた。 「わ、わざとじゃないし、証拠がないだろう!?こ、この女性が勝手に近づいて、転倒しただけで──」 「証拠は、ございます。ここは、社長のご自宅ですから。玄関回り、リビングの入口には防犯カメラがございます」 警察官の言葉に、持田さんの冷静な声が答える。 持田さんを振り返ると、持田さんは恐ろしく冷たい目で警察官を見据えていた。 「しゃ、社長……?」
「警察……?」 滝川さんの声が、低くなる。 訝しげに持田さんに視線を向けているが、持田さんも何が何やら、と言う様子で持田さんも珍しく狼狽えていた。 「分かった、下に行って話を聞いてみるか。加納さんは部屋にいて?警察の話が終わったら、朝食にしよう」 「わかりました……」 滝川さんは私を安心させるように笑ったあと、ぽん、と頭を撫でて部屋を出て行く。 私は、階段を降りて行く滝川さんの背中を見つめる。 滝川さんの後ろには持田さんも着いて行っている。 持田さんも、間宮さんもいるし、滝川さんだって会社の社長を務めている人だ。 「きっと、何もないわよね…。大丈夫、よね…?」 もやもや、と不安が胸に渦巻く。 私は自分の部屋にある松葉杖を取りに急いで室内に戻った。 松葉杖を使い、慎重に階段を一段一段降りていく。 すると、玄関で話をしている滝川さんの声と、聞きなれない男の人の声が聞こえてきた。 聞きなれない方の声は、警察の声なのだろう。 「昨夜、あなたは他人の家に勝手に侵入しましたね?」 「侵入?」 「ええ、被害者から被害届が提出されております。住居侵入の件で、滝川さんには署まで同行を」 「──はっ、ふざけた事を……」 「その態度は何だ?逮捕状を請求してもいいんだぞ!」 警察官の怒声が響き、私は急いで階段を降り、玄関に向かう。 持田さんや間宮さんがぎょっとして、私を止めようとしてくれたけど、このままでは、滝川さんが連れていかれてしまう。 信じられない! 私を拉致したのは、麗奈なのに!それなのに、あろう事か警察に通報したのだ。 滝川さんを不法侵入の罪で通報した。 大事にしたくなかった。 それに、顔見知りではある。 だから警察に通報しようか、と言う滝川さんの言葉を私は断ったのに…! それにきっと、麗奈だけじゃない。 清水瞬だって手を貸している。 麗奈1人じゃあ、ここまで早く被害届を提出する事はできないだろうし、受理だってされない。 清水瞬が被害者になったのだろう。 だから、あっさり被害届は受理されたし、こうして翌日に警察が滝川さんの家までやってきた。 本当に、信じられない……! 麗奈
ころり、と寝返りをうつ。 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるようで、私は眩しさに顔を顰めた。 「──んん」 まだ、眠っていたい。 そう考えた所で、私の意識が急速に浮上する。 「──っ!?」 眠る!? それに、朝日!? そこまで考えた所で、私はばちっと目を開けた。 がばり、と勢い良く起き上がった私の体から、バサリと何かが落ちる。 ベッドの下に落ちたそれを確認すると、それは──。 「滝川さんのスーツ……!?」 どうして、滝川さんのスーツが、と混乱してしまう。 落ちてしまった滝川さんのスーツを拾う。 何度確認してみても、それは間違いなく昨日滝川さんが着ていたスーツだ。 そして、それが皺になってしまっているのを見て、私はサッと顔を青くした。 昨夜、病院に行き、帰宅中の途中から記憶が無い。 車の中で少し寝ていい、と滝川さんに言われた事は覚えている。 けど、それ以降の記憶がなくて……。 そこまで思い出した私は、頭を抱える。 十中八九、起こしてくれたのに私が目を覚まさなかったのだろう。 そして、滝川さんのスーツがここにあるって言う事は、滝川さんに私を運ばせてしまったのだろう。 スーツを握って離さなかった私に困り、滝川さんがスーツを脱いで部屋を出た。 確実に、そうだ。 「わ、私はなんて失礼な事を……!お、追い剥ぎだわこれじゃあ……!」 私が頭を抱えて叫んだ途端。 部屋の扉の方向から殺しきれない笑い声が聞こえて、はっとして顔を向ける。







