LOGIN師団服を着て外に飛び出した私を見て、見張りをしていたローワンが呼び止める。
暗闇に浮かぶ丸い月を背景に、二人とも魔術で浮遊している。 この男はフィアレスの副師団長。 赤茶けた髪と幼い顔。頼りない見た目だが、魔術師としては相当優秀である。「ああ、ローワンか。
そう言えば、お前に仕事を任せたんだったな。」「いえ、それはいいんですが。
団長〜、またリーリエ様の元を飛び出してきたんですね?へえ。よっぽど……」こいつは、私の女嫌い主義に勝手に憧れを抱き、女を寄せ付けない病気にかかっている。
若いくせに、本当にもったいない奴だ。 だが私とリーリエの関係を知っているので、こうやって時々からかってくる。時々、アイザック様は辺境の地へ赴かれる。 皇帝や皇后、エドウィン様の様子見ついでに、密かに仲間達の支援を行っているのだろう。 「エドウィンはいつも泣いて、皆を困らせているようです。 父上達は寝込んでばかりだそうですよ。 リーリエも一緒に?駄目です!お腹には大切な私達の子供がいるんですから。」 「でも……」 「でもじゃありません。リーリエ。 もし貴方に何かあったら、今度こそ私は生きていけません。」 しゅんとする私を、アイザック様は優しく宥めてくれる。 急いで彼と式を挙げ、今度はアイザック様の皇太子妃になったのだが…… 「デリラとユディトですか? あの二人は元気にやってますよ。」 色々と片付いてから二人に女官をやらないかと頼んだが、断られた。 しかし、今ではあの場所は娼館ではなくなった。 『辺境の治療院』 アイザック様が娼館の建物ごと改築し、辺境で魔獣退治をする兵士や、師団員達の傷を癒す治療院へと生まれ変わらせた。 運営は私が担当、もちろんお給料もある。 「患者の手当?すごくやりがいがある!」 「そう言えばこの前、ローワン様も来たよ。」 デリラにユディトは新しい仕事に対して、誇らしげだったという。 「ローワン様は傷もないくせに……ユディト目当てで来てるんだよ〜」 あれだけ女性嫌いを宣言していた、ローワン様が。 ふふ。そのうち、嬉しい知らせが聞けそうだ。 「リーリエ。」 「アイザック様。」 今日もアイザック様は、仕事の合間を縫って私達に会いに来てくださる。 さすが元皇太子だっただけあり、優秀な仕事ぶりで、周囲からも絶賛の声を浴びている。 ロベリアは子供を産み、辺境へと送られた。 今頃、元家族と仲良くしている事でしょう。 娼
皇室では、エドウィンとロベリアとの間に生まれてくる子に関する議論が行われていた。 子供の皇位継承権を巡ってだ。 貴族達はここぞとばかりに二人を攻めた。 「優秀な皇太子妃を裏切り、罠に嵌め、不貞を犯して産まれた子を正当な皇子として認めるか?」 「答えは、いいや!」 「ロベリア・モンターニュは汚い手段で無理やり皇太子妃の座についた。そんな者が産んだ子に、皇位継承権があるか?」 「答えは、ない!!」 「法律に不忠実な者はやがて国をも裏切るだろう。よって彼らの子供にも、その権利はない!」 盛り上がる貴族達。 すでにエドウィン達は辺境に送られているのに。 ロベリアも離宮にいるが、軟禁されていて、あれから一度も顔を見ていない。 どちらにせよ、皇帝不在の帝国。 彼が即位する日も近いかもしれない。 「子供に罪はないのに。」 私がつぶやくと、隣のアイザックさまが深く同調した。 追放された哀れな元皇太子妃という名目で、私は今この場にいる。 「親が無能なばかりに。可哀想な子供です。」 「継承権は無くなるかもしれませんが、私達が愛情を持って育てましょう。 子供は、親とは違いますから。」 「リーリエ、貴方という人は……はあ。 この場で貴方を抱きたい気分だ。」 「だ、駄目ですよ?」 「冗談です。ただ……」 「そうすると、残すは後継者問題です!」 「直ちに新しい皇太子妃を迎え、後継者を作るべきです!」 結局貴族達は、自分達の権力欲のために、自分達の娘をアイザック様に当てがいたいのだ。 それは分かるけれど……アイザック様は私を皇太子妃にすると。 どうするのかしら……? しばらく彼らの白熱した議論を聞いていたら、また胃がムカムカしてきた。
散々人を愛撫したアイザック様は、今夜はかなり興奮している。手袋を外したせい? 「ああ、綺麗です……リーリエ様っ!興奮が収まりそうもない。 見て下さい、私のも、もうこんなに。」 彼は自身のものを扱き、限界まで我慢する。なぜ我慢するのか。返っていやらしい。 こんな変態的行為……。 これが、ユディトやデリラ達が言っていた……変態的行為? 「も、お願いします、アイザック様。 早くきて———」 焦らされた私の方が耐えきれなくなるほど。 そして結局私はまた自分から求めてしまう。 彼が欲しくて。 アイザック様はいつも無理にはしない。私を最優先に扱ってくれる。……変態だけれど。 「ああ……!リーリエ、リーリエ!君は女神だ!美しい、かわいい、気高い!そして…… 私が最も愛する人……!分かりますか? リーリエ。貴方の中に私がいます。 貴方を悦ばせるために、孕ませるためにいるんです。」 彼が優しく抽送を繰り返すたび、下腹部の芯が切なくて辛くなる。 もっと早く、もっと激しくして欲しいと。 そう願うと彼に願いが通じたように、腰の動きが早くなる。 「わ、分かります、お腹がいっぱいです……! アイザック様、んっ、待っ、んんっ!あっ!」 「……くっ!リーリエ、私ももうっ…… 一緒に……!孕んでください、リーリエ! 私の子を……!」 果てしない快感を覚えると同時に、彼のものがまた中で同時に弾け、暴れ回る。 一緒に脈打つ鼓動。 「はあ、はあ、
アイザック様の皇太子即位に、エドウィンの廃位、皇帝夫妻の追放など。 皇室も帝国も大混乱しているというのに。 今夜も、アイザック様は私の魔力を求めて離さない。 彼が新しく皇太子宮に指定した部屋で、すでに私達は裸同然で抱き合う。 「あ、あの……!私はいつかここを去る身です……! アイザック様が皇太子にお戻りになったなら、新しく皇太子妃を迎える必要があります。 必要なら魔力供給は行いますので、その辺りはしっかり線引きをされた方が……」 引き離そうとすると、アイザック様は眉を吊り上げられた。 「誰がここを去ると?そんな事……私が許しません。」 「きゃ!」 アイザック様に魔術で拘束され、ベッドに仰向けに寝かされてしまう。 そしてついに彼は、あの手袋を口で外された。 初めて見た、アイザック様の逞しい手。 しなやかで品があって……骨張って、指も長い。すごく逞しい手だわ。 「あ、アイザック様……?」 薄暗い部屋で彼は逞しい体で、私を鋭く、捕食者のように見つめる。 「言いましたよね?リーリエ様。 私は貴方を妻にすると。そして……貴方を孕ませると。 私は有言実行する男です。 今から貴方が私から離れるなどと考えないよう、孕ませる事にします。覚悟してくださいね。 リーリエ様。」 「え……?アイザック、様?」 彼は妖艶なため息を吐く。その後、ありとあらゆる手を尽くして、魔力供給……を行った。 いや、これは魔力供給という名の。 彼の手に直に触れられ、いつもよりも私の体が悦んでる。 こんなの教え込まれたら、もう戻れない。 アイザック
裁判で私は勝利を。アイザック様は皇太子の座に返り咲いた。 「ゆ、許してくれ、フェリクス……あの頃は魔術師なんてよく分からない存在だったんだ。 な?落ち着いて……」 彼をいつ死ぬともしれない死地に追いやり、平和を維持した皇帝。しかし今はアイザック様に情けなくそう懇願する。 あの大きな魔獣は倒したが、彼がいなければ再びあの地に魔獣が蔓延るだろう。 まだ戦わせたいのだ。しかしアイザック様は自分がされたように、無慈悲に告げる。 「陛下。今度は貴方が国を守る番です。 私は何年も戦場にいたので、そろそろ交代する時ですよ。 エドウィンと一緒に。」 皇帝が膝から崩れ落ちると、背後にいた皇后が擦り寄ってくる。 「私は許して……ね?貴方の母親でしょう?」 「母上。父上とエドウィンには母上が必要でしょう。側で二人を支えてあげて下さい。 それが、リーリエを傷つけたあなた方への罰です。」 自分の事ではなく、私の事を……。 彼が両陛下を切り捨てると、今度はエドウィンが縋りつく。全くこの家族は学習しないのね。 「いやだ、魔獣退治なんて……死ぬに決まってる……いやだ、いやだ!兄さん!考え直してください!」 「そんな場所と知りながら喜んで送り出したのはエドウィン、お前達だろう?」 お見事です。アイザック様。 全てを冷酷に切り捨てるこの勇ましさ。鋭さ。 どこまでもついていきます。 背後で彼を見守りながら、私はまたアイザック様に惚れる。 「あ、ロベリアは身重だから、生まれるまでは皇室で預かろう。 と言っても別宮に軟禁だ。 子供に罪はないから、私達が引き取ろうと思う。 だが、それだと寂しいだろうから…… ロベリアにも出産後には辺境に行ってもらおう。」
私はこれまで、リーリエの何を見てきたのだろうか? 兄さんが私を脅しにきたすぐ後、他の女官達からの密告があった。 「告白いたします! ずっと、皇太子妃……ロベリア様に脅されて言えませんでしたが…… 本当は、元皇太子妃のリーリエ様は素晴らしい女性でした。 私達にはいつも優しくしてくれたんです。 ですが私達は……ロベリア様に……言うことを聞かなければクビにすると言われて。 だから、宮廷にリーリエ様に関する悪い噂を流しました。」 「なん、だと?噂?何の?」 それは、リーリエが実際には一度も言ったことがない言葉だったという。 「《エドウィン様が無能》だと。 《彼はできそこないで、仕方なく仕事を手伝っている》と。……まるでリーリエ様が言ったように噂を流せと……」 「《夜を共にするのも面倒臭いし、あれも下手くそだ、》とも。」 「何だと!!」 そんな恥部まで!? 「《私は優秀だ、エドウィン様は無能》。」 そんな……嘘だ。すべてロベリアが? じゃあ、夜の誘いを断ったと思っていたあの全ては? ロベリアが手紙を止めていて、リーリエは知らなかったのか?一人のあの食事も? 「それにロベリア様は、殿下と関係を持つ前に、複数人の男性と寝ていたそうです。 そのおかげで殿下を落とせたと、やけに自慢していたそうですよ。」 嘘だろう?私が初めての相手ではなかったのか!?ロベリア!君は! さらにリーリエ付きだった補佐官も言う。 「いつも、エドウィン様の事をお考えになっていましたよ。」 「仕事の手柄は、全てエドウィン様のものにするようにと。」 出てくるのはリーリエが私のために懸命に働いてくれていた事実と、ロベリアの多くの嘘。
*** 「貴方の、1095日分を私が買いました。」 「え……………?」 この方は、今一体何と言ったの? 辺境にある娼館に送られてから私は、そこの男主人に色々と説明を受け、風呂に入り、薄い衣服を着用するようにと命令された。 まさにピンク色のシュミーズのような。 「いきなりだが、今夜客を取るからな。」 先に部屋で待機するようと、半ば背中を押される形で押し込まれた。 彼は私が元皇太子妃なのを知っているようだが扱いは雑だった。 狭くて薄
ロベリア!一体何を企んでるの? すぐに追い払おうとしたが、逆に腕を強く掴まれてしまう。 「ロベリ———」 「可哀想なリーリエ。 まさか娼館送りだなんて。 あんな所に送られて、本当に惨めね。 私…………ずっと貴方が嫌いだったの。 いつも偉そうに上から人に物を言ってくる貴方が。単に高貴な家に生まれたというだけで。 感謝してよね?皇太子妃の座は私が継いであ・げ・る。 貴方と違ってエドウィン様に愛されながら、彼の子をたくさん産んであげるから!ふふ!」 イタズラ好きな子供の様に、ロベリアは私の耳元で小さく囁いた。 ………………この女は悪魔だ。 親友だからと、ロベリアには二人き
*** 「皇太子殿下を裏切って、下級騎士と姦通したんですって。」 「まあ!なんて淫乱な。確かになんか冷たい方だとは思っていたよ! それにあの見た目だもの。白銀の髪に豊満な胸。あの妖艶な青い瞳なんて、いかにも浮気しそうよねえ。 元皇太子妃のリーリエ様って。」 あの忌まわしい事件から流れる様に時が過ぎ、今日私は裁判で決められた通り【娼館】に送られる。 「不貞を犯した皇族が罰で娼館送りになるのはまだマシな方だよ! 処刑じゃなかっただけでも良しとしないと」 「元皇太子妃がねえ。御愁傷様。」 気づいたら帝国中に私の悪い噂が広まっていた。 これはエドウィン様が意図的に流したものと思
朝目覚めると。扉を開けて部屋に入ってきたロベリアや、他の女官数名が悲鳴をあげた。 私は裸で、隣には………エドウィン様が寝ているものだとばかり。 「きゃあああ!!皇太子妃様、その男は一体誰ですか!!」 「まさか、皇太子妃ともあろう者が不貞行為を犯すなんて………!!」 ロベリア。貴方にはもう来るなと言っておいたのに、なぜその場にいるの? それに人の夫と不貞行為を犯したのは…… 「申し訳ございません、皇太子妃様!! 誘いを断れずに……殿下に触れた私の罪でございます!!」 床にひれ伏す見慣れない男。 証言が狂気じみてる。 こんな男知らない。何も覚えてないのに。 事態は