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第242話

Author: 魚住 澄音
「だからおかしいのはそこなのよ」ことははここで完全に行き詰まっていた。「やはり近藤さんに期待するしかないね」

「でもあの人、精神的に異常になってるんでしょ?聞き出せるの?」

「できなくてもやるしかない」

たった一人のおじさんのせいで、自分の身分が決まってしまうのはごめんだった。

-

翌日、直哉や雪音と外回りを終えた後、ことはは昼休みを利用して病院へ向かった。

ことはは、ちょうど彰を担当していた精神科医の種島(たねじま)先生とバッタリ会ったので、二人は話をしながら小さな公園へと向かった。

種島先生は言った。「この二日間、近藤さんの状態はかなり落ち着いているので、特別に外の空気を吸わせに公園に連れてきました。篠原さん、後で私から2歩ほど離れたところにいてください。まず近藤さんに慣れていただく必要がありますので。もし近藤さんが徐々に慣れていけば、篠原さんも少しずつ近藤さんの近くに来てください。慎重に進めていく必要があります」

ことははうなずいて了解した。

小さな公園に着くと、ことははすぐに彰を見つけた。

今の彰は、まるで静かな小柄のおじいさんのようだった。花壇のそばにしゃがみ、両手でバラをそっとつまみながら、体を前後に揺らしている。とても気持ちよさそうな様子だった。

初めて会った時と比べると、まるで別人のように変わっていた。

種島先生が先に彰に近づき、しゃがみ込んで会話を始めると、彰は終始ぼんやりと笑っていた。ことはは内心不安だった。もし当時のことを聞いて、突然刺激してしまったらどうしよう?

ことはがこのことについて悩んでいたら、彰はいきなり顔を上げ、ことはの方を向いた。

すると、ぼんやりと焦点の定まらない瞳が、驚くほどの速さで恐怖に満ちたものへと変わった。ことはは反応する間もなく、彰は突然地面に倒れ込み、手足を使って狂ったように後退し始めた。

「幽霊だ!幽霊がいる!幽霊!幽霊だ!

あああああ!幽霊だあああああ!

死にたくない、死にたくないんだ、殺さないでくれ、やめてくれ!

助けて、助けてくれ!幽霊が俺を殺そうとしている!」

彰の発狂は、すべての医療スタッフを不意打ちにした。彰の叫び声は、他の患者さえも怯えさせるほどだった。

一瞬にして、小さな公園にいた他の患者たちが一斉に逃げ出そうとした。

医療スタッフたちは慌てふためきながら他
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