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Author: はなきち
last update publish date: 2026-06-29 19:48:01

「大智たちに言っただけ」

「でも……私といるの嫌だったんじゃ」

「違う」

思ったより早い返事だった。

湊くんは少しだけ視線を逸らす。

「……ああいう風に言われると」

ぽつり。

ぽつり。

言葉を探すように続ける。

「また変に距離できそうで嫌だっただけ」

夕日に染まる教室。

その言葉だけが、静かに残った。

私は何も言えなかった。

その言い方がまるで。

“今の関係を壊したくなかった”

そう聞こえてしまったから。「……じゃあ」

少しだけ笑って、湊くんを見る。

「また...放課後、ここ来てもいい?」

湊くんは一瞬だけ目を丸くした。

それから視線を逸らして、小さく肩をすくめる。

「……来たければどうぞ」

相変わらず、ぶっきらぼうだ。

でも。

その声はどこか少しだけ柔らかかった。

「じゃあ来るね」

「好きにすれば」

素っ気ない返事。

なのに、不思議と嬉しかった。

それから。

放課後になると、自然と教室へ向かうようになった。

「今日さ、顧問めっちゃ機嫌悪くてさ〜」

楽器ケースを机の横へ置きながら、ぐったりと机に突っ伏す。

湊くんは頬杖をついたまま、

「へぇ」

と、気のない返事をした。

「“へぇ”じゃないって。低音パート全員巻き添えで怒られたんだから」

「どんまい」

「絶対思ってない」

「思ってる思ってる」

そんな適当なやり取りが。

いつの間にか、当たり前になっていた。

放課後。

夕方。

誰もいない教室。

吹奏楽部終わりの私と。

何故か帰らない湊くん。

最初は気まずかった沈黙も。

今では、その静けさごと落ち着く時間になっていた。

私は窓際の前の席。

湊くんはその後ろ。

会話が途切れても気にならない。

スマホを触るわけでもなく。

何かをするわけでもなく。

ただ、同じ空間にいる。

それだけで、不思議と心が落ち着いた。

ある日。

「……ねぇ」

机に突っ伏したまま、声をかける。

「んー」

気のない返事。

でもちゃんと返事は返ってくる。

「湊くんってさ」

「ん?」

「なんでそんな人と距離あるの?」

シャーペンを動かしていた手が止まる。

聞きすぎたかな。

そう思った頃。

「……嫌われんの、めんどいから」

ぽつり、と返ってきた。

「嫌われる前提なの?」

「まぁ」

「でもさ」

私はゆっくり顔を上げる。

「距離置いてても、嫌う人は嫌うくない?」

湊くんは答えなかった。

夕日が横顔を照らしている。

長いまつ毛の影が頬へ落ちた。

しばらくして。

「……近かった人に離れられる方がだるい」

静かな声だった。

でも。

その一言だけで、なんとなく分かってしまう。

この人。

最初から諦めてるんだ。

傷つかないように。

失わないように。

最初から、自分で線を引いている。

少しだけ笑ってしまった。

「じゃあ私、結構レアじゃん」

「何が」

「その線の中にいるの」

彼は少しだけ目を細める。

「……そうかもね」

その言葉に、胸が少しだけ熱くなる。

でも同時に。

これ以上近づいたら。

何かが変わってしまう気もした。

教室に沈黙が落ちる。

窓の外では、グラウンドから運動部の声が聞こえていた。

その静けさを破るように。

湊くんがぽつりと呟く。

「……まぁ」

私は顔を上げる。

「ちょっとだけなら」

少し照れたように視線を逸らして。

「気ぃ許してもいいかなとは思ってますよ」

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    その後___ 付き合ってからも。 湊くんは相変わらず、 言葉で気持ちを伝えるのは苦手だった。 「授業中寝すぎ」 「ノートちゃんと写せ」 「また消しゴム落としてる」 口を開けば、 小言ばっかり。 でも。 先生に当てられそうになると、 机の下でそっと足をつついて起こしてくれる。 黒板のどこを見ればいいか、 黙って指を差して教えてくれる。 とびきりの優しい表情で話を聞いてくれる。 優しいなんて、 本人は絶対認めないだろうけど。 座席だって、しれっと私の後ろの席に希望を出して 移動してきた。 その全部が、 ちゃんと愛情なんだって。 今の私は知っている。 受験が近づくと、 お互い、前みたいには会えなくなった。

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