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悪夢から覚め、愛想を尽かした妻は手の届かぬ星へ
悪夢から覚め、愛想を尽かした妻は手の届かぬ星へ
Auteur: 白団子

第1話

Auteur: 白団子
子供を亡くしてからの杉本麻美(すぎもと あさみ)は、杉本渉(すぎもと わたる)が嫌がるようなことはすべてやめた。夜通し連絡したり、渉が帰ってこなくても泣き叫んだりはしなくなった。

事故に遭い、医者に家族へ連絡するように言われた時でさえ、麻美はただ淡々とこう答えた。

「身寄りはいません。連絡できる人なんて、一人もいないんです」

しかし、看護師は麻美の正体に気づいていた。「杉本さんの奥さんですよね?ご主人が上の階にいらっしゃいますが、呼んできましょうか?」

麻美はその時ようやく気づいた。この病院は杉本グループが運営しているのだと。

首を振り、麻美は小さな声で大丈夫だと伝えた。しかし、30分後には渉が姿を現した。

鋭い眉をわずかに寄せただけで、息も詰まるほどの威圧感を放った。「車に撥ねられたんだろ、なぜ俺に連絡しなかった?」

麻美は視線を伏せた。「足が折れただけ。大したことないわ」

そのあっさりとした口ぶりに、渉の心の中は得体の知れない苛立ちで満たされた。

麻美は昔、とても甘えん坊だったはずだ。付き合っていた頃は、ちょっとした風邪でも抱きついて離れず、甘えたりキスをせがんだりしていた。それが今、片足が折れているのに眉一つ動かさない。

渉が何かを言おうとしたその時、廊下から看護師たちのひそひそ話が聞こえてきた。

「杉本さんは本当に妹さんを大切にされているわ。膝を少し擦りむいただけなのに、専門家を何人も呼んで診察させ、ご自身もつきっきりだもの。妹さんが移動する時は常に抱っこして、足先一つ床に着かせないようにしているわよ」

渉の鼓動が急に速くなる。彼の中には怒りがあったはずだが、無意識に視線は麻美に向けられた。まるで、麻美が嫉妬して騒ぎ出すのを待っているかのようだった。

だが、麻美は瞼すら上げず、ただ静かに目を閉じてベッドで横たわっていた。

渉の気分はさらに沈んだ。冷ややかな声で釈明する。「皆の噂を鵜呑みにするな。美穗は撮影中に膝を打っただけで、俺はついでに病院まで送ってきたに過ぎない」

麻美は小さく「うん」と応えただけで、それ以上は何も言わなかった。

渉は急にイライラしたように怒鳴った。「俺を信じていないのか?」

「信じてるわ」麻美はそう答えたが、もうそこに以前のように心はこもっていなかった。「美穗はあなたの妹同然なんだもの。心配するのは当然よ」

以前なら、渉は冷めた目でこう叱責したものだ。「美穗は妹だ。見捨てられるはずがないだろう。俺らは兄妹の関係なんだ、一体いつまで騒ぐんだ?」

今、麻美は彼の望み通り、泣くことも騒ぐこともやめた。それなのに、渉の心には何かが詰まったようなもどかしさが残る。

違う、何かが間違っている……

その時、看護師が慌てて部屋に入ってきた。「杉本さん、妹さんが膝が痛いとおっしゃっています。早く様子を見にいらしてください」

渉は苛立ちを露わにして反射的に怒鳴った。「膝が痛いなら先生を呼べよ。俺は医者じゃないんだぞ、何で俺を呼ぶんだ?」

看護師が下がった後、渉はすまなそうな顔で麻美を見つめた。

「麻美、まだ子供の件で苦しんでるのか?あの時は確かに美穗が悪かった。もう説教はしておいたんだ」

渉は一呼吸置いて、ゆっくりと歩み寄り、麻美のベッドの横に腰を下ろした。

「俺たちはまた子供を授かれるはずだ」渉が麻美の手を握った。

「こうしないか?次の1週間、俺がずっとつきっきりで看病する」

だが、麻美は無言でそっと、渉の手から自らの手を引き抜いた。

渉が眉をひそめて何かを言いかけたその時、部屋の外から派手に物が倒れる音が聞こえた。

杉本美穗(すぎもと みほ)が松葉杖をついたまま、麻美の部屋の前で倒れ込んでいた。

渉はすぐさま駆け寄り、美穗を抱き上げた。「何でまたそんな動き回るんだ?ベッドで安静にしてろと言っただろ」

「麻美さんが車に撥ねられたって聞いたから」美穗は悲しげに言った。

「心配でお見舞いに来た」

そう言いながら、渉の胸に縮こまった。まるで麻美に何かされたかのように、目を潤ませて訴える。

「麻美さん、怒らないで。聡くんが亡くなったのは、わざとじゃないの」

昔の麻美なら、絶望し、叫び散らし、渉に泣きじゃがりながら問い詰めたはずだ。なぜ、杉本聡(すぎもと さとし)を殺した女をかばうのか、と。

しかし今はもう、何も言わなかった。ただ瞼を閉じて横たわり、眠っているようだ。

顔は血の気がなく、あまりにもか弱くて、遠くから見ると今にも砕け散りそうだった。

渉の心は理由もなく締め付けられた。「美穗を上の階に運んだら、すぐに戻ってくる」

彼は美穗を抱いてそのまま去り、夜遅くなるまで二度と現れることはなかった。

逆に航空局から麻美のもとに連絡が入った。

「本当に航空局の月面探索プロジェクトに参加されますか?これは国家級の秘密プロジェクトです。一度参加すれば、今後数十年は航空基地から出られず、外部との連絡も絶たれます。ご主人との接触も禁じられますよ」

「間違いありません」麻美は冷静に答えた。

「安心してください。すでに離婚届の準備は進めています。あと1週間で提出し、自由の身になれます。この世から隔絶された場所は、私にぴったりですから」
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