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3.動き出す執着

last update Last Updated: 2025-07-01 15:34:44

 アシュトン様の呟きは、重い沈黙となって執務室に広がった。

 その間、私は彼から視線を逸らさなかった。彼の言葉に動揺を見せないように、という私の最後の意地だった。

 契約破棄の同意書に目を落としたままの彼は、まるで時が止まったかのように微動だにしなかった。その横顔は、普段と変わらない冷徹さを保っているように見えたが、私には確信があった。彼の内側で、何かが確かに動き出している。

「……セリーナ」

 やがて、アシュトン様が、私の名を呼んだ。

 それは、今まで聞いたことがないような、少しだけ掠れた声だった。

「貴様が、本当にこの婚約を破棄したいと?」

「はい。私の意思は固うございます」

 私は、きっぱりと答えた。もう後戻りはしない。

「王家との関係や、フェルティア公爵家の体面は、私の父と母が然るべき対応を取るでしょう。ご心配には及びません」

 そこまで言い切ると、彼の視線がゆっくりと書類から私へと移った。

 その黒曜石のような瞳が、先ほどよりも鋭く、そして、何かを試すかのように私を見つめてくる。

「……愛など、いずれ消え去るまやかしだ。政略結婚に、そのような不確かなものを求めること自体が愚かではないか?」

 アシュトン様の声には、わずかながらの動揺が含まれているように聞こえた。今まで私を無視し続けた彼が、私に語りかけている。その事実が、私の心をほんの少しだけ揺さぶった。

「たしかに、アシュトン様のおっしゃる通りかもしれません。愛は、いつか形を変え、あるいは消え去るものかもしれません」

 私は静かに答えた。

「ですが、私は、人生を共に歩む上で、互いへの尊敬や、少なくとも相手を人として気遣う心がなければ、共にいる意味はないと考えております。アシュトン様は、私にそのような心をお見せになったことは一度もございません」

 私の言葉に、アシュトン様の表情が、さらに硬くなった。

 彼は私から視線を外し、デスクに置かれたペンに手を伸ばした。

「同意書、か」

 彼は、ゆっくりとペンを手に取り、同意書に署名する体勢に入った。

 私は、息を詰めてその様子を見守った。

 ああ、これで終わる。この冷たい結婚から、私は解放されるのだ。

 安堵と、ほんの少しの寂しさがない交ぜになった感情が、私の胸に去来した。

 ――カツン。

 ペン先が、紙に触れる寸前で止まった。

 アシュトン様は、顔を上げ、再び私に視線を向けた。

 その瞳は、先ほどまでとは一転して、獲物を捕らえるかのような、強い光を宿していた。

「……貴様は、これで自由になれると思っているのか?」

 彼の声には、深い、低いうなり声のような響きがあった。

「はい。この契約が破棄されれば、私は公爵令嬢としての務めから解放され、自由に生きていくことができます」

 私は、自分の心を奮い立たせるように答えた。

「ほう。自由に、か」

 アシュトン様は、意味深な笑みを浮かべた。それは、普段の彼からは想像できないような、どこか底の見えない笑みだった。

「この俺との婚約を破棄して、貴様が本当に『自由』を手に入れられるとでも?」

 彼の言葉に、私はぞくりと背筋が凍りついた。

 今まで見せたことのない彼の表情。それは、まるで彼の内側に潜む、本性が姿を現したかのようだった。

「……どういう意味でございますか?」

 私は、平静を装いながら尋ねた。

 アシュトン様は、ゆっくりと立ち上がった。

 その長身が、私に影を落とす。彼の体が動くたびに、纏っている重厚な公爵服が、かすかに衣擦れの音を立てた。

 彼は、私の前に立ち、その黒曜石の瞳で私を見下ろした。

 その距離は、今まで私たちが近づいたことのないほど近い。彼の吐く息が、私の顔にかかるのを感じるほどだ。

「貴様は、俺が婚約破棄に同意すれば、すべてが終わると思っているようだが……」

 彼の声が、私の耳元で囁くように響いた。

「俺が貴様を、そう簡単に手放すと思うか?」

 その言葉に、私の頭は真っ白になった。

 手放さない? どういうことだろう? 彼は私に愛を与えないと言い放ち、無視し続けたはずだ。それなのに、なぜ今になって、そんなことを言うのだろう?

「アシュトン様は、私に興味などないと、そうおっしゃいました」

 私は、かろうじて言葉を絞り出した。

「だが、興味がなかったのは、これまでの話だ」

 彼は、ゆっくりと手を伸ばし、私の頬に触れた。

 彼の指先は、まるで氷のように冷たかったが、その接触は、私の心を痺れさせるような、不思議な熱を帯びていた。

「貴様は、俺の感情を揺さぶった。それは、この俺がこれまで経験したことのない感情だ」

 彼の瞳が、私を射抜くように見つめる。その瞳の奥には、確かに、今まで見たことのない強い光が宿っていた。

 それは、執着。まさしく、あらすじにあった「執着」そのものの眼差しだった。

「どういう……ことですの?」

 私は、混乱して尋ねた。彼の言葉の意味が理解できなかった。

「俺は、貴様を、手に入れたいと思った。それだけだ」

 アシュトン様の言葉は、まるで絶対的な真実を語るかのように、私の心に響いた。

 そして、その手が、私の顎を掴み、顔を上げさせた。

「貴様は、俺のモノだ。この契約が破棄されようと、俺は貴様を手放すつもりはない」

 彼の言葉は、まるで呪いのように、私の耳にまとわりついた。

 私は、彼のあまりにも突然の変貌に、ただただ呆然とするしかなかった。

 冷徹だった公爵が、なぜ今、私に執着を見せるのか。

 私の人生は、彼のこの言葉によって、再び予想もしない方向へと動き始めたのだった。

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