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第178話

Author: るるね
last update publish date: 2026-08-04 04:28:33

 受話器の向こうでは、凛子が興奮した様子で次から次へと言葉を重ねていた。

 たった二日の間に、天国と地獄を何度も行き来するような出来事を経験したのだ。胸に溜め込んでいた思いを、一つ残らず紗月に聞いてもらいたくてたまらないのだろう。

 何より、一刻も早く紗月に会いたがっていた。

『さっちゃん、今どこにいるの? 私が会いに行く』

 紗月は、すぐそばまで歩み寄ってきた慎一へ目を向けた。

 口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。

 けれど、その瞳に宿る温度はどこまでも冷たく、微笑んでいるはずなのに、ひどく意地の悪い表情に見えた。

「紗月、教えてやれ。あいつを助けるために、また俺のところへ戻ってきたってな。それを聞いても、あいつが今みたいに笑っていられるか、見ものだ」

 慎一は、凛子が自分を快く思っていないことを知っていた。だからこそ、その事実を紗月自身の口から聞かせようとしているのだった。

 慎一は分かっていた。

 こんな言葉を口にすれば、紗月が動揺することも。

 案の定、紗月の身体はぴくりと強張る。

 慎一の声が電話の向こうまで届いてしまうのではないか。そんな不安から、紗月はスマートフォンを
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     受話器の向こうでは、凛子が興奮した様子で次から次へと言葉を重ねていた。 たった二日の間に、天国と地獄を何度も行き来するような出来事を経験したのだ。胸に溜め込んでいた思いを、一つ残らず紗月に聞いてもらいたくてたまらないのだろう。 何より、一刻も早く紗月に会いたがっていた。『さっちゃん、今どこにいるの? 私が会いに行く』 紗月は、すぐそばまで歩み寄ってきた慎一へ目を向けた。 口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。 けれど、その瞳に宿る温度はどこまでも冷たく、微笑んでいるはずなのに、ひどく意地の悪い表情に見えた。「紗月、教えてやれ。あいつを助けるために、また俺のところへ戻ってきたってな。それを聞いても、あいつが今みたいに笑っていられるか、見ものだ」 慎一は、凛子が自分を快く思っていないことを知っていた。だからこそ、その事実を紗月自身の口から聞かせようとしているのだった。 慎一は分かっていた。 こんな言葉を口にすれば、紗月が動揺することも。 案の定、紗月の身体はぴくりと強張る。 慎一の声が電話の向こうまで届いてしまうのではないか。そんな不安から、紗月はスマートフォンを両手で強く握り締めた。 幸い、慎一はスマートフォンとは反対側の耳元へ唇を寄せ、囁くように声を潜めていたため、凛子へ聞こえることはない。「ついでに伝えておけ。弟の面倒くらいちゃんと見ろとな。年上の女の家へ勝手に泊まり込むような真似はさせるな。それから、自分の親父の会社で人の妻と抱き合うとは、節度を疑うな」 慎一が言葉を紡ぐたび、熱を帯びた吐息が紗月の耳朶をかすめる。 くすぐるような熱に耐えきれず、紗月は反射的に身を引こうとした。 耳元で囁かれる声に意識を奪われ、凛子が電話の向こうで何を話しているのか、ほとんど頭へ入ってこない。 優介の話題を何度も繰り返す慎一を見ていると、その存在がよほど引っかかっているのだと嫌でも伝わってきた。「凛子、今日は……」 よほど興奮しているのだろう。受話口から聞こえる凛子の声は、離れていてもはっきりと分かるほど大きかった。 今すぐ会いたいと訴える声は、すぐそばにいる慎一にもはっきり聞こえているだろう。 慎一の前で凛子と長く話したくなかった紗月は、彼の様子を一度だけ窺ったあと、すぐに視線を伏せ、小さな声で凛子の誘いを断った。「ごめんなさい、

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