沢山の屈強そうな山賊達が、ニヤニヤしながら私達を取り囲んでいる。
彼らは略奪や、村や町の破壊行動を繰り返す山賊だ。だが結局ルナールの一派は、奪われた地を奪還するという目的を持ち、ソーカル族の姫だった彼女を密かに守る、護衛達でもあるのだ。
何てアツいエピソードだろう!好き過ぎる。
何としても、ルナールと和解したい。 そして早くローランドの仕事を減らしたい。「ルナール。私はクブルクの王妃、アデリナ・フリーデル・クブルクです。」
「……っ!」
真後ろで彼が舌打ちした音が聞こえた。だけど構わない。
ルナールの前に進み出て、私はその目を堂々と見つめた。 下手な小細工はしないって言ったでしょ?「……!!ふぅん。お前があの王妃か。」
椅子の上で肩肘をき、顔を斜めに傾けていたルナールがニヤリと笑う。
女なのに男装して仲間をここまで引き連れてきただけあって、さすが迫力がある。 それにアデリナは、こんな所にまで有名な性悪妻ってわけね。「回りくどい言い方はしません。私は貴方と和解交渉する為にここまで来ました。
今頻繁に行っている、略奪や破壊行動をやめて頂きたいのです。」このままだとルナール一派は規模を拡大し、国に打撃を与える大きな組織となる。
そして最後、ルナールはローランドへの想いを秘めたまま戦いに敗れ、虚しく死んでしまう。 そうしない為にも、この交渉は絶対成功させなくちゃいけない。「…それをして俺達には何のメリットがあるっていうんだ?王妃サマ。」
鋭い眼光が私を見下ろしていた。
髪はおしゃれな紐で一周巻き、耳飾りもガラス細工の様な繊細なものをしている。 着ているのは分厚い毛皮、ベルト風の紐、そしてブーツの様な靴。しかもモコモコだ。 下手したら最先端のおしゃれかと思う。 スラリと伸びた背丈、綺麗な指先が服の先から覗いている。 「貴方がセイディも初めは私が悪いとか言って暴れていたが、様々な証拠を突きつけられて侍女を解任。 すぐに実家に送り返される上に、しばらく謹慎するよう言い渡された。 「だって……だって〜!! 何であの王妃陛下が、国王陛下に愛されるんですか〜! 私の方が美人だし、私の方が遥かにいい女なのに! 納得いかない!納得いかないですわ〜!」 すごい馬鹿な小娘みたいに、皆の前でワンワン泣いていた。 今はこの馬鹿な女のことなんかどうだっていいわ! まさか、嘘でしょ……! あのサディーク国の修道院と言ったら。 一度入れば二度と出ることはできないと言われている、厳しい規律に縛られた、まさに正義の監獄! 一生、貧乏な平民や病人に死ぬまで尽くさなきゃいけない。 いや。いやよ。私はヒロインなのよ? 何でこうなったの!!! 「リジー。私の妻に手を出したことを、一生後悔するんだな。」 いらない……!! こんな冷たい男なんていらないから、修道院行きは勘弁してよ……!! 「いやっ。」 「嫌じゃないだろ?さ、行くぞ。リジー。」 まるでピクニックにでも出かけるくらいの軽い調子で、オディロンが私の手綱を引いた。 「や、やだあ!!いやー! 私がヒロインなのよ! 私がこの国の王妃になるの! 一生遊んで暮らせると思ったのにー!!!」 ……ちなみにこの小説は未完だが、アデリナの死後の話が、暫くして投稿された。 ローランドは愛するリジーに贅沢をさせたが、やがてリジーは金遣いが荒くなり、性格まで悪くなる。 アデリナと同じ、いや、それ以上に。 ……ローランドは騙されていたのだ。 リジーは初めからこの国を乗っ取るつもりだったのだ
◇ 「罪状、看護師リジーは国王陛下に横恋慕し、王妃陛下に毒殺未遂の罪を着せた上にタウゼントフュースラー伯爵と共謀し、王妃陛下を武力によって抑えつけた。 なおその毒は自ら服毒し、また始めから解毒剤を用意しておくという周到ぶり。 王妃陛下の髪飾りを盗み、証拠品であるかのように偽装した。 それ以前にも王妃陛下のよからぬ噂を広め、王妃陛下の尊厳を踏み躙った。 これにより看護師リジーは……」 あれから私は多くの人々の前で断罪されていた。 何でよ?私はヒロインなのよ? こんなの何かの間違いよ。 ねえ、ローランド王。 私のこと、愛してるわよね? 私に一生楽させてくれるんでしょう? 何でもう誰にもヒロインの力が効かないの? 罪人として裁判所の法廷に立たされ、辛辣な人々の視線を浴びながら、奥の特等席に座るローランド王を見上げた。 有罪判決が下ると、ローランド王がやっぱり氷のように冷たい瞳をして言った。 「私の妻に手を出した。 本来なら死刑にしたいが…… 私の妻はどこかの女と違って心が清らかなのでな。殺せば嫌がるだろうから…… よって看護師リジー。 お前を今すぐサディーク国に強制送還する。 その後は規律に厳しいことで有名な修道院に入ってもらうことにした。そこで一生、貧しい民や、病人達のために尽くすんだな。」 「はい〜。そんなリジーを、このサディーク国の王太子オデュロンが特別監視役となって国に連れ帰る事にしましたよー。 逃げたくても逃げれないからね? 一生、頑張って働いてもらうよう、見てるからね。」 その場に出廷していたオディロン王太子が軽い感じで恐ろしいことをケロッと言う。 それに加えてタウゼントフュースラー伯爵とセイディ達までもが断罪されていた。 「わ、私達は何かの魔法にかかって…!」 伯爵に至ってはアデリナ王妃を捕ま
だが、すぐに今の状況を察したみたいで、アデリナ王妃は青白い顔をした。 本当に笑いを堪えるのに必死だったわ。 残念だったわね。 ローランド王はもうすっかり私の虜よ。 あなたの役目はもう終わったの……!! 「王妃陛下……いえ、アデリナ様。 ご自分の立場を忘れないで下さいね。 あなたは所詮は性悪妻。 私とローランド王の恋を盛り上げるための、いわゆる《悪役》。脇役なんですよ。 だからもう、あなたは完全に用済みなんです。 悪役は悪役らしく、潔く退場してくださいね。 それではご機嫌よう。さようなら。」 そうして私は、絶望したような顔をするアデリナ王妃の前で扉を閉めた。 最高よ……!!私はヒロインだもの!! 最後は私が勝つに決まってるじゃない!! ————そう思ったのに。 部屋の奥に進むにつれ、やけに照明が煌々と灯っていて少し不思議に思った。 ふと、ベッドに座っているローランド王の姿が見えて一瞬喜んだ。 だが彼だけではなかった。 脇にランドルフ侯爵、それに見慣れない官僚が二人も立っていた。 え……?何これ……? 「リジー。お前がアデリナに罪を着せようと、自分で毒を飲んだという事はすでに分かっているんだ。 殺されたくなければ、素直に罪を認めるんだな。」 そこで私を待っていたのは私を愛するローランド王でも、私を優しく迎え入れてくれるランドルフ侯爵でも、私を見て鼻の下を伸ばす官僚達でもなかった。 「我々は事件の捜査官です。 嘘をつけばあなたの罪は重くなるでしょう。 さあ。白状してください。リジーさん。」 ……終わった。
他にもムカつくことがあるわ。 ローランド王とランドルフ侯爵もそうなんだけれど、この王宮にある神殿の神殿長、イグナイト様が私をすごい目で睨みつけてくるの。 金髪碧眼の男よ。 けれどかなりの美形なの。だから最初はローランド王を手に入れたらゆくゆくは彼も私のハーレムに入れてあげようかなって思ったの。 なのに。 「は………。欲まみれのゴミのような女ですね。 あなたがあの王妃陛下に勝てるとでも?」 神殿にお祈りに行った際、すれ違いざまにイグナイト様にポソっとそう言われたの。 あの目と言ったら。当初のローランド王やレェーヴと全く同じ!!嫌悪感丸出し。 しかも。私の故郷であるサディーク国のオデュロン王太子まで。 何でかは知らないけれど、彼は度々王宮を訪れていて、たまに城に滞在する事もあったわ。 女好きで有名だから、すぐ私に魅了されるだろうと思いわざわざ挨拶してあげたのに。 「え……? ローランド王は趣味が変わったのか? 悪趣味だな〜。 だけどこの女が本当に側室になるなら、俺がアデリナ王妃を自国に連れ帰って再婚してもいいけどな〜 子供も俺の子として育てるよ?」 大胆不敵な言葉をヘラヘラと吐き出したオディロン王太子を、ローランド王がキツく睨みつける。 「は……?ふざけないで頂きたい。 アデリナは私の妻です。この国の王妃。 大切な国母です! どこにもやりはしません………!」 さらに。 時々王宮を自由に出入りしているライリーという美少年まで、私を無言で睨みつけてくる。 かと思えばアデリナ王妃の前ではコロッと表情を変え、犬みたいに懐いてる。 何なの? どいつもこいつもアデリナ、アデリナって…… そのポジションは本来私の物だったのよ? ロ
だから私はある計画を思い付いた。 あの時、ローランド王の部屋で手に入れておいたアデリナ王妃の髪飾り。 いつか使えるんじゃないかと入手しておいて正解だったわ。 侍医から手に入れた軽めの毒を飲み、その場にアデリナ王妃の髪飾りを置いた。 もちろん死ぬつもりなんてない。 毒を飲んでも、私の部屋にこっそり用意している解毒剤を侍医に投与するよう指示してあるし、私が倒れたらタウゼントフュースラー伯爵にすぐに兵を引き連れ、アデリナ王妃を捕まえるようにと命令している。罪名は嫉妬による側室候補の毒殺未遂。 これで完璧よ!あの女を牢獄にでも放り込めれば、従順な兵に命じて暗殺もできる。 それが終わったらローランド王を落とすチャンスは、いくらでもあるわ………!! ◇「リジー。陛下より御命令だ。今晩寝室へ来るようにと。」 目を覚ました私を待っていたのは、ローランド王の寝室へのお誘い。 ランドルフ侯爵は事務的にそう告げ、二人の兵と同行するようにと言った。 聞いた話では、ローランド王は事件直後にアデリナ王妃を北の塔に閉じ込め、彼女ではなくすぐに私の安否を心配して部屋に来てくれたらしい。 これはヒロインの力が働いたと考えても間違いないわ。 「ふふ。ふふふふ……! 目を覚ましてすぐに、ローランド王の寝室へ来いだなんて。 もうこれは完璧に私のものになったって言う証拠ね。あははは!あーはっはっはっ!」 笑いが止まらなかった。 ローランド王の部屋前に到着すると、同行していた二人の兵は足早に去っていった。 そんなに待ち切れないのかしら?全く。ローランド王ったら。 だが。 「え……?リジー……?」 扉を閉めようとしたまさにその時、目の前にあの女が現れた。アデリナ王妃!
◇ 財務大臣のタウゼントフュースラーは、財務庁の業務のことで色々と指摘をされて、アデリナ王妃をかなり嫌っているらしい。 そんな人ほど私の力に簡単に魅了された。 これはチャンスだわ。 「ねえ。タウゼントフュースラー様ぁ。 私、ローランド王に恋をしてしまったのです。 どうか私タウゼントフュースラー様の養女にお迎えくださいませ。 そうして、どうか私をローランド様の側室として推して下さぁい。」 甘えた声を出し、大臣の肩に手を添えて畳み掛ける。 大臣もまんざらではない様子。 「よ、よし…!私がお前をローランド王の側室にしてやろう!」 鼻の下を伸ばす馬鹿な男…なんて操りやすいのかしら? そうして私はまんまとローランド王の側室候補に収まった。 侍従長を魅了し、鍵を手に入れ、ローランド王の私室で彼が来るのをこっそり待っていた。 いざとなれば、体で落とせばいい。 アデリナ王妃とは違う、可憐で可哀想な私を抱いたらローランド王だって心変わりするに決まっているわ……! なのに。……どうしてなの? 「私に触れるな……!それに私に許可もなく勝手に部屋に入ってきて、覚悟はできてるんだろうな? 侍医も侍従長も厳しい罰が必要だな……!」 いざローランド王に触れようとしたら、すごい目で睨まれて、おまけに手まで振り払われて拒絶された。 何よ。何なのよ? あなたは私の物なのよ? そうか。やっぱりあの王妃…… あの女も何らかの理由で未来を知っているのかも知れないわ。 だから阻止したのよ。 自分が贅沢するために。 やはり噂通り。ローランド王を都合の良い財布代わりにして、一生遊んで暮らすつもりなのね……!! 許せない。