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3.アデラ妃

Auteur: 月山 歩
last update Date de publication: 2025-01-24 16:11:30

「あら、ご機嫌よう。」

 夕暮れ時、日課の散歩中に庭園に差し掛かると、アデラ妃が待ち伏せするように、侍女達を引き連れて立っていた。

 アデラ妃は背が高く、吊り目の女性で、原色のドレスを好み、派手な印象をあたえる方である。

「こんにちは、アデラ妃様。」

「最近、フレデリク様が夜おいでになって、私をいつまでも寝させてくれないの。お肌に良くなくて、困ったものだわ。」

 アデラ妃は、自慢気に話す。

 そのことを伝えたくて、わざわざ私を待ち伏せしたのね。

「そうですか?それは大変ですね。」

「ちょっと、マリアナ妃、あなた最近ではフレデリク様に全く構われなくなったそうね。一体何をやらかしたの?」

「さぁ、私にもよくわかりません。むしろ私の方が聞きたいくらいです。」

「ほんの少し前までは、あちこちでこれ見よがしに仲良くして、見せつけていたじゃない。これで少しは、私の気持ちがわかったかしら?」

「アデラ妃様は政略結婚だから、私とフレデリク様が仲良くしていても気になさらないと思っておりました。もし、私の行動で気を悪くされていたなら、申し訳ありません。」

「ふん、今更なんなのよ。同じ側妃と言う立場で、私がそれを見て、なんとも思わないと本当に思っていたの?鈍感女。」

「すみません、本当にそうですね。」

 私はようやく、私に対するアデラ妃の思いを理解した。

 フレデリク様は「二人の妃は共に政略結婚だから、それぞれ好きなことをして過ごしており、私は全く気にすることはない。」と言っていた。

 フレデリク様のおっしゃっていたこととは、どうやら違うのね。

 だとしたら、ラモーナ妃もフレデリク様を慕い、私に嫌悪感を抱いているのだろうか?

「伺いたいのですが、ラモーナ妃様も同じようにお考えだったのでしょうか?」

「ラモーナ妃のことなんて、知らないわ。」

 そう言って、私にするのと同じぐらい眉間に皺を寄せ、腕を組んで私を見下ろす。

「ラモーナ妃と仲が良いとばかり思っていたのですが。」

「そんなわけないでしょ。私達はフレデリク様を巡るライバルなのよ。表面上、仕方なく話しているだけだわ。」

「そうですか。」

 私は結婚してから、一年近くここで過ごしているのに、アデラ妃の本音や妃同士の関係について、一切気がつかなかった。

 本当に私はフレデリク様と結婚して、浮かれていただけの、どうしようもない女なのだ。

「アデラ妃、これからはこうして時々でいいので、お話していただけますか?」

「私の元にフレデリク様が来たからって、擦り寄って来ないでよ。気持ち悪い。」

 アデラ妃は、苛立たし気に私を睨んでいる。

「そうですか。…わかりました。」

 私はがっくりと肩を落とす。

 妃同士の付き合いも必要かと、勇気を出して言ってみたが、確かにアデラ妃からしたら、私の行動は気持ち悪いのかもしれない。

 何しろ、これまでフレデリク様と一緒に過ごすことばかり考えて、すすんでアデラ妃達と会話しようとも、関係性を築こうとも思っていなかった。

 自分がどれだけ酷い女だったか、今更ながら実感する。

 それにしても、フレデリク様が私にべったりの時は、アデラ妃から声をかけられたことは一度もなかった。

 やはり、アデラ妃にとって、フレデリク様に求められることが何より大切なのだろう。

 私にはもうないものだけど。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私がお昼寝をしていると、再びフレデリク様がベッドサイドに現れた。

「庭園で、アデラ妃に絡まれたそうだな。」

「絡まれたと言うほどではないです。でも、結婚してから初めて、アデラ妃の本当の気持ちを聞けました。

フレデリク様は、他の妃達は政略結婚だから、私達が人前で親密にしていても、問題ないとおっしゃっていましたけれど、全然そんなことはありませんでした。

 アデラ妃は、フレデリク様に愛されたかったようです。私、あなたが言うことを鵜呑みにして、妃同士の関係を作る前から、失敗してしまいました。」

「それが、私のせいだと言うのか?」

「ええ、フレデリク様のせいです。あなたはアデラ妃の気持ちを、もっと大切にすべきでした。今、二人の関係が回復されているなら、いいのですが。」

「何故、私が責められなければならない?そんなことを言われるのは、不快だよ。」

「そう言われても、仕方がないことをしたのです。政略結婚でも、アデラ妃の気持ちを理解せず、つらい思いをさせてしまっていたのですから。私も悪かったですけれど。」

「政略結婚ならば、必ずしも相手からの気持ちを受け取れないのは、仕方がないものだ。

 お互いが国の友好のために結婚しているのは、わかっているのだから。」

「それはそうですけれど。」

「それに、マリアナはアデラ妃に気持ち悪いと言われていたな。

 そんなことを言うなんて、酷い女だ。妃達をなんとかしなければ。」

「いえ、それは気にしないでください。私がそう言われても仕方ないことをしていたのですから。」

「マリアナは優し過ぎる。あのようなことを言われてなお、庇うのか?」

「庇っているつもりはありません。今からでも、お話をしたいと思ったのですが、上手くいかなかっただけです。」

「何故、あのようなことを言われても、話たいんだ?」

「だって、お互いフレデリク様に嫁いだもの同士だから、お話をしてみたかったのです。話しかけられたのも初めてなので、理解し合いたいと思うのは当然ではありませんか。」

「いいから、アデラ妃に近づくな。マリアナにとって危険なだけだ。」

「そうなのですか?アデラ妃はそんなに危険なのですか?」

「そうだ。子供に何かあったら、どうする?」

「フレデリク様は初めて私達の子供に興味を持ったのですね。」

「何を言っている?初めてではない。子供を大事に思うのは当然ではないか?」

「今までそのようなことをおっしゃったことはありません。フレデリク様は、子供に興味がないのかと思っておりました。」

「そんなことがあるはずはない。私がどのような思いでいるか、マリアナは全く理解していないんだな。」

「フレデリク様の気持ちは正直言って、全くわかりません。懐妊するまでの、わかった気になっていた自分を叱りたいくらいです。」

「私の愛は伝わらないか?」

「はい、もうなくなったと感じています。」

「違う。私はずっとマリアナを、大切に思っている。」

「そうは思えませんけれど。」

「忘れるな。私はマリアナを愛している。」

 フレデリク様は、私をじっと見ながら、そう言い残してまた姿を消した。

 彼の愛は言葉だけなの?

 彼が告げる愛の言葉は、今の私には何の意味もないように思えた。

 信じてきたものが、すっかり崩れ去ってしまったから。

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