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第3話「七夕の願いと声集め」

Author: 奏拓人
last update Last Updated: 2025-08-13 20:00:00

香織の生誕祭の企画がまとまった俺は、ヒロにLINEを送った。

──

俺:「香織の生誕祭、やる内容まとまった!」

俺:「明日、渋谷で会えない?」

ヒロ:「おけ。ハチ公前でいい?」

俺:「19時集合で」

ヒロ:「飲み代は任せた」

俺:「お前ほんとそればっかw」

──

翌日、渋谷の居酒屋でヒロと合流した。

「ファンの“声”を集めた動画を作りたいんだ。 香織に、これからもステージに立ちたいって思ってもらえるような――そんな動画を」

少し驚いた顔を見せたヒロだったが、すぐに頷いた。

「いいじゃん、それ。俺がカメラ回すよ。で、奏が声かけていく感じで」

「え、俺が声かけるの? そういうのはヒロがやった方が……」

「何言ってんだよお前。人見知りなのは知ってるけど、これはお前の企画だろ。俺がやっても意味ねーんだよ。お前が言うからこそ、意味があるんだよ」

「……わかったよ。じゃあ、明日の現場から少しずつ声かけていこう」

「任せろ。全力で香織ちゃんに届けようぜ」

翌日、俺たちは少し早めに現場へ向かい、メッセージカードと動画企画への協力を呼びかけることにした。

(……俺とヒロ、なんか現場で浮いてないか? ちゃんと話、聞いてもらえるかな……)

その不安は、見事に的中した。

声をかけても目を逸らされたり、足早に立ち去られたり。ひそひそ話の視線も、ひりひりと痛い。

なかなか協力を得られないまま、時間だけが無情に過ぎていく。

そんなとき、会場近くで話している二人組のファンが目に入った。

(……もう、やるしかない)

意を決して、俺は声をかけた。

「す、すみません!!」

そのうちのひとりが、パッと顔を上げて、まっすぐこっちを見た。

「はい! あ、えっ、もしかして香織推しの奏さん? それに、あんじゅ推しのヒロさんじゃないですか?」

「えっ、なんで俺たちのこと知ってるんですか?」

「だって、いつもチェキ券めっちゃ持ってるし、最前列にいたら目立ちますよ。 それにヒロさん、地下界隈じゃちょっとした有名人ですから!」

(……マジかよ、ヒロ。ってことは、俺たち浮いてたんじゃなくて……普通に見られてたのか)

「おい奏、そんなことより……」

「あ、すみません! 香織の生誕祭で、ファンのメッセージカードを集めてて……。あと、“声”を集めた動画も作ってるんです。撮影に協力してくれる人を探してて……」

すると、そのファンは目を輝かせて言った。

「いいんですか!?お二人と話してみたいと思ってたんです!素敵な企画ですね。俺、他のオタともつながりあるんで、声かけておきますよ」

「助かります!お名前は……?」

「風花ほのか推しのトモって言います。よろしくお願いします!」

あまりにもスムーズに話が進んで、俺は一瞬言葉を失った。

そんな俺の肩を、ヒロが軽く叩く。

「心強いな、奏。お願いしようぜ」

「トモくん、LINE交換してもいいですか? 連絡取りたいし」

「もちろんです!」

トモのおかげで現場の空気は一気にやわらぎ、メッセージカードの回収も順調に進んだ。

動画撮影への協力者も集まり始め、俺たちのプロジェクトは静かに動き出した。

生誕祭準備の真っ只中、迎えた7月7日――LUMINAの七夕イベント当日。

バタバタしていた俺にとって、この日は一瞬だけ心を緩める癒しの時間だった。

物販列の横には、笹と色とりどりの短冊が飾られていた。

「るなと付き合えますように」

「あんじゅちゃんと仲良くなれますように」

「目指せ武道館!」

オタクたちの願いが、真剣な筆跡で並んでいる。

俺も、ふと足を止めて短冊を1枚取り、願いを込めた。

――「香織が、ずっと俺のアイドルでいてくれますように」

会場が暗転し、ライブ本番が始まる。

浴衣姿のLUMINAのメンバーたちがステージに登場する。

香織は、メンバーカラーの白い浴衣を身にまとっていた。

まるで月の光を纏ったかのようで、思わず見惚れてしまう。

ライブは熱気に包まれ、最高の盛り上がりのまま終演。

その余韻の中で、特典会が始まった。

香織の列に並んでいる間、俺のスマートウォッチが「心拍数上昇」の警告を出してくる。

(……いや、ほんとやばい。浴衣フェチの俺にこれは無理)

ようやく順番が来る。

「奏くん!」

いつものように明るく呼んでくれるその声に、心が揺れる。

「よ、よう……」

「浴衣、どうかな?」

「……すごく、似合ってるよ」

正直すぎる感想しか出てこない。

「感想それだけ? 奏くんってそういうとこ可愛いよね。すぐ照れるし」

「はぁー……?」

「ていうか、奏くんが書いてくれた短冊、読んだよ」

「……えっ!?」

「“香織がずっと俺のアイドルでいてくれますように”って。嬉しかった」

「なんでわかったの? 名前……書かなかったのに」

「わかるよ。……何年の付き合いだと思ってるの? ありがとう。

奏くんにそう思ってもらえるだけで、本当に嬉しいよ」

そう言って微笑んだ香織の目が、ふと、ほんの一瞬だけ伏せられる。

その瞳の奥に宿った小さな影が、なぜか胸の奥に引っかかったまま――七夕イベントは幕を閉じた。

イベント後、ヒロとファミレスに入って、動画編集を進めつつ今後の話をする。

「今日のイベントも最高だったな、奏〜。あんじゅの浴衣、見た? エロすぎた」

「お前ほんと……ファミレスで“エロい”とか言うなよ。香織の生誕祭の話しようぜ」

「つまんねぇの。お前だって浴衣見て興奮して、スマートウォッチ鳴らしてたじゃん」

「……なんで知ってんだよ」

「列すぐ隣だったからな。バッチリ見てた」

ヒロは笑いながらコーラを注いで戻ってきた。

「でもさ、トモのおかげでカードも動画も集まってきたろ?」

「うん、形にはなってきた。けど……なんか、まだ物足りない」

「十分感動できる出来になってると思うけどな」

そのとき、俺のスマホにLUMINAのYouTubeチャンネルから通知が届いた。

「……あ、LUMINA、大型フェスに出るんだ。すげぇ。あんじゅって進行うまいよな〜」

「それだよ……ヒロ!!」

「ん? どれ?」

「……ああして、こうして……」

「…………あーーー! なるほど! 天才だな、俺の奏は。わかった、任せろ」

「マジで? いいの?」

「俺しかいないだろ、そういう役。立場的にも、距離感的にもな」

その瞬間、ふたりの間にバチッと火花が散るような感覚が走った。

香織の生誕祭。

準備は、いよいよクライマックスへと進んでいく――。

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