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推しに救われて、恋になった。
推しに救われて、恋になった。
Auteur: 奏拓人

プロローグ

Auteur: 奏拓人
last update Date de publication: 2025-08-07 20:02:09

「もう、誰も信じられない――」

そう呟いて、俺は幾度も自分の心を閉ざしてきた。

過去の恋愛で深く傷つき、女性という存在にさえ距離を置いてしまった。

数年ぶりの“現場”。

オタク仲間の誘いで足を運んだ地下アイドルグループ「LUMINA」のライブ会場は、薄暗くも活気に満ちていた。

ステージのスポットライトに照らされた彼女の姿。

白咲香織――歌声は透き通り、ダンスはしなやかで、その目は何かを訴えていた。

一瞬で俺の心を鷲掴みにした。

こんなにも誰かに惹かれるのは久しぶりだった。

そして、終演後の特典会で彼女が見せた優しい笑顔が、

俺の壊れかけた心に少しずつ灯をともしていく。

「こんにちは、今日はありがとう。…あの、初めましてですね、僕は奏です」

香織は明るく応えた。

「こんにちは! わあ、初めまして! 来てくれてありがとう、奏くん」

僕は少し照れくさそうに言葉を続けた。

「香織さんの歌、すごく良かったです。今日、友達に誘われてきたけど、一目惚れしました」

彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「嬉しいなあ、そんなふうに言ってもらえると頑張れるよ!」

俺は心の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。

「これからも応援します。無理しすぎないでね」

「ありがとう、奏くん。あなたの応援が、何よりの力になるよ。次のライブも待ってるね。」

その優しい対応に、

俺の壊れかけていた心が少しずつ救われていった。

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Dernier chapitre

  • 推しに救われて、恋になった。   第10話「人気投票」

    「ゴホッ、ゴホッ……」「香織ちゃん、大丈夫?」「るい……お見舞い、ありがとう」「親友でしょ。そんなの当たり前だよ」今、LUMINAは大型フェスに向けたセンター&立ち位置を決める人気投票の真っ最中。……そんなタイミングで、私はまさかの夏風邪を引いてしまった。明らかに不利。推しが出ない現場に来るオタクなんて、ほとんどいないのに。「ねえ、香織ちゃん、聞いてる?」「ん? なに?」「いやだから、奏っちがさ……」「え、どうしたの? 奏くんが? ゴホゴホッ」「風邪引いてるのに、大声出しちゃダメ〜!」「いやさ、奏っち。香織ちゃんいないのに、ライブ毎回来てるんだよ」「えっ、奏くんが……?」「こないだ全員握手会もあったんだけど……」そう――とある握手会の日。「うわぁ、香織ちゃんいないのに参加って……まさか浮気?」「ははっ、まさか〜」(でも……奏っち、目が笑ってなかった)「人気投票、今香織休んでるだろ? 俺1人が頑張ってもどうにもならないのかもしれないけど……。香織の悲しい顔、もう見たくないんだ」るいの言葉が、頭の中で繰り返された。(そんなこと……言ってくれる人、他にいないよ……)胸の奥が、熱くなる。嬉しいのか、苦しいのか、自分でもわからなかった。「……って話なんだけど、香織ちゃん、顔すごい赤いけど大丈夫?」「な、なんでもないよ。熱ぶり返したかな」「えっ、じゃあ私、帰ったほうが――」「…&helli

  • 推しに救われて、恋になった。   第9話「この気持ちはなんだろう」

    カレー作りが終わり、夜になった。キャンプファイヤーの炎がパチパチと音を立てる中、みんなで輪になってカレーを食べていた。もちろん、俺の隣には――キャンプファイヤーの炎より暑苦しい、いや、情熱的な男・ヒロがいた。「おい、奏」「ん?」ヒロが俺の肩を小突いてくる。「香織ちゃん、さっきからちょっと落ち込んでる感じだったけど……なんかあった?」「え? いや、特には。でも、ちょっと元気ないかもな……」「にしても、このカレーうめぇな」「特に“香織がといだ米”、最高すぎだろ」「いや、俺も米担当だし」「ヒロ、夢を壊すな……」和やかな笑いがこぼれる中、香織は少し離れた場所で、静かにスプーンを動かしていた。「はぁ……」その小さなため息を聞きつけたのは、輪から少し離れた木陰に座っていたあんじゅだった。「香織、どうしたの?」あんじゅが声をかける。リーダーとしての気配りが自然とにじみ出る、穏やかな口調。「……なんでもないよ」香織はスプーンを止め、俯きがちに答える。「また、アイドル辞めようとしてたときみたいに、自分で抱え込んでない?」あんじゅの言葉に、香織はピクリと肩を揺らす。「……」火の粉がふわりと宙に舞う。沈黙が、ほんの少しだけ、場の空気を張りつめさせた。ほのかが怪我をして、奏が救護室に付き添って行った。私も心配で、少し時間を置いてから向かった。ドアの前に立つと、中からかすかに話し声が聞こえた。ほのかの声と――奏の声。「香織ちゃんじゃなくて、私じゃダメですか?」その瞬間、息が止まりそうになった。「それって……推し変してほしいってこと?」「そ、そうじゃなくて。アイドルとファンじゃなく、1人の女の子として……」冗談だよね。そう思いたかった。でも、耳に届く声は真剣だった。「冗談じゃないです! 奏さんって、オタクとしてもすごいけど……1人の人として、素敵だなって思ってます」胸がぎゅっと締めつけられた。ほのかが奏くんを、そんなふうに見ていたなんて――。私たちはアイドル。ファンと恋なんて、許されるはずがない。でも、1人の女の子として見たら、それはきっと自然な感情だ。……それでも。なんで、よりによって奏くんなの。私のファンでいてくれて、どんなときも支えてくれて、あの笑顔で、私の全部を肯定してくれた、あの人を。胸の奥がざわつい

  • 推しに救われて、恋になった。   第8話「キャンプイベント」

    私は、アイドルが大好きだった。小さな頃からテレビの前で踊って、笑っていた。アイドルが歌って、笑って、誰かの心を照らすたび、「私もいつか、あんなふうになりたい」って──ずっと思ってた。夢が大きくなったのは、中学の頃。私も、誰かを笑顔にしたい。その想いは、自分の中で揺るぎないものになっていた。私は幼い頃からクラシックバレエを習っていて、ダンスには少しだけ自信があった。だからきっと、夢を叶えられるはずって信じてた。でも。いざ親に話したときの反応は、あまりにも冷たかった。「アイドル?そんなもの、将来性がないだろ。もっと現実を見なさい」──父の言葉は、まるで冷水みたいだった。それでも私は、諦めきれなかった。誰かの夢を照らす存在に、どうしてもなりたかった。高校に入り、バイトをいくつも掛け持ちした。制服のままコンビニへ直行して、帰るころには日付が変わっていた。自分で貯めたお金で、養成所に通いはじめた。ダンスはずっと得意だったけど、歌はどうしても弱かった。何度もオーディションを受けた。書類で落ちて、一次審査で落ちて、最終審査で落ちて。何度、もう無理かもって思ったか、分からない。でも──“誰かの希望になりたい”という気持ちだけは、誰にも、負けてないと思ってた。とある日の午後、公園の広場で、私はひとりダンスの練習をしていた。何度も何度も、同じ振り付けを繰り返す。バイトを掛け持ちしながら、わずかな時間をぬって練習して。ボーカルトレーニングにも通って。それでも、オーディションにはなかなか受からない。努力は、すぐには報われないってわかってるけど──それでも。足が止まった瞬間、視界がぼやけた。気づけば、涙が頬をつたっていた。

  • 推しに救われて、恋になった。   第7話「握手会と嫉妬」

    生誕祭のあとも、変わらず香織のオタクとして、LUMINAの現場に通い続けていた。今日はショッピングモールでの外部イベント。イベントの最後には、メンバー全員との握手会が行われることになっていた。香織以外のメンバーには、まだ顔を覚えられていない気がして、ちょっと緊張する。最初に現れたのは、黒髪ロングでスタイル抜群、落ち着いた雰囲気のリーダー・黒瀬あんじゅ。まさに“頼れるお姉さん”という言葉がぴったりだ。「こないだの生誕祭はありがとな」と声をかけると、あんじゅは優しく笑った。「香織のためだし、ヒロくんに頼まれちゃったしね。素敵な生誕祭だったよ。……これからも、香織のことよろしくね」「こちらこそ、香織を支えてやってくれ。あと、ヒロもな」「あら、ヒロくんの扱いが軽くない?」と、くすっと笑う彼女にちょっと救われた気がした。続いて現れたのは、小柄で内気な雰囲気の風花ほのか。ステージ上では力強いダンスを見せる、メインダンサーだ。「こんにちは」と声をかけると、彼女はしばらく黙っていた。戸惑っていると、小さな声で「奏さん……」とつぶやく。「僕のこと知ってくれてたんだ、ありがとう」「そ、それは……」と言いかけた瞬間、スタッフが声を飛ばす。「お時間でーす!」「またね」と手を振ると、彼女は「あ……」と何か言いかけたまま、視線を落とした。次に現れたのは、金髪が目を引く元気な美少女・秋庭るい。LUMINAのメインボーカルだ。「あー!奏っちだー!香織からよく聞いてるよ!」「えっ、まじか。どんな話されてるか気になるな……」「それはヒミツ♪」と、いたずらっぽく笑う。「でもね、香織が言ってたよ。『奏くんって頼りになるオタクなんだよ』って。一緒に香織を支えていこうね、奏っち」「頼りになる……か。う

  • 推しに救われて、恋になった。   第6話「過去と希望」

    私は、地下アイドルLUMINAのセンター、白咲香織。昔よく一緒に遊んでいた男の子に、男の子だと勘違いされたのが悔しくて──それがきっかけで、小中学生の頃はモデルをしていた。でも、成長するにつれて需要は減り、仕事も激減。ちょうどその頃、両親が離婚して、私と妹・弟の3人は母に引き取られた。そんなある日、当時所属していたモデル事務所の社長が言った。「知り合いが地下アイドルの事務所を始めるんだけど、やってみないか? 興味があったら連絡してほしい」迷いはあったけれど、新しいことを始めたい気持ちが勝った。アイドルなんて自分にできるのか、わからなかったけど……勇気を出して電話をかけた。初めて事務所に足を運んだ日、社長の隣には一人の女の子がいた。「この子は黒瀬あんじゅ。香織ちゃんと同い年で、グループのリーダーをやってもらおうと思ってる」「香織ちゃん、よろしくね。黒瀬あんじゅです!」──これが、あんじゅとの出会いだった。そのあと、秋庭るい、風花ほのか、南雲つむぎが加入。最初は、観客が数人しかいないような、底辺地下アイドルだった。それでも、がむしゃらにレッスンして、必死で歌って、笑って、時には泣いた。気づけば、仲間と過ごす日々が宝物のようになっていた。そんなある日、ライブ後の特典会で、彼に出会った。「こんにちは。今日はありがとう……初めましてですね、僕は奏です」(あのとき、ずっと私を見てくれてた子……奏くん、なんだか懐かしい雰囲気を持ってる)「こんにちは! 来てくれてありがとう、奏くん!」「香織さんの歌、すごく良かったです。今日、友達に誘われて来たんですが……一目惚れしました」(えっ……そんなこと、初めて言われた……)「嬉しいなあ。そんなふうに言ってもらえると、すごく励みになるよ!」「これからも応援します。無理しないでくださいね」(やさしい……また来てくれたら嬉しいな)「ありがとう、奏くん。あなたの応援が何よりの力になるよ。次のライブも、待ってるね」──そして次のライブにも、彼は来てくれた。「こんにちは、香織さん! また来ちゃいました。あの日のパフォーマンスが忘れられなくて……。それに、“待ってるね”って言ってくれたのが、すごく嬉しくて」(パフォーマンスを褒めてくれて嬉しい。私は努力を見てもらえたんだ……)彼は、ライブのたび

  • 推しに救われて、恋になった。   第5話「夏夜に咲いた記憶」

    香織の生誕祭が終わり、LUMINAの現場もしばらくお休み。仕事も夏季休暇に入ったので、俺は久しぶりに実家のある八王子へ帰省することにした。同じ都内といっても、帰るのは半年ぶりだ。「母さん、ただいまー」「おかえり奏。ごはん作って待ってたわよ」「ありがと。ちょうど腹減ってたし、助かる。荷物置いて着替えたら食べるわ」「はーい、ゆっくりしていってね」いつもの会話。少し懐かしい、実家の空気。自室がある2階に上がり、押し入れをがさごそと探る。「そういえば、この辺に……あった、あった」引っ張り出したのは、幼少期のアルバムだった。ページをめくると、記憶の中で引っかかっていたあの一枚が目に飛び込んできた。「あー……この子だ。俺のこと“かなくん”って呼んでた……あの“男の子”」手にした写真を持って、リビングに降りる。「ねえ母さん、この男の子って誰だったっけ?」「うん? ああ、この子ね……男の子じゃないのよ。女の子。髪短くて活発だったから、あんたが勘違いしてたのも無理ないけどね」「えっ……じゃあ、名前は?」「うーん……相当昔のことだし、ちょっと待ってね……」「しっかりしてくれよ、母さん」「言うじゃないの。でも、なんで急にこの子のこと思い出したの?」なんて答えようかと考えていると、母がふと思い出したように口を開く。「……あっ、思い出した。香織ちゃんよ。その子。白咲香織ちゃん」(──やっぱり……香織だったのか)「その子がどうかしたの?」「いや、なんでもない。ただの偶然。……せっかく作ってくれたごはん、冷めちゃう前に食べよ。いただきます」食後、久しぶりにのんびりと実家の空気に身を任せていたら、スマホにLINEの通知が入った。──ヒロ:「奏、今なにしてる?」俺:「実家だけど」ヒロ:「じゃあ新宿で飲まね? 八王子だろ? 中央線一本じゃん」(……めんどくせぇ。でも、生誕祭で世話になったしな)俺:「わかった。今から出る。アルタ前18時な」ヒロ:「了解!」────ということで、中央線に揺られて、新宿まで向かうことに。アルタ前で待っていると、「奏ー!」「ヒロ。誘ったくせに来るの遅いな」「すまんすまん。じゃ、いつものとこ行こうぜ」居酒屋までの道中、ヒロの“最近調子いい”っていう自慢話を聞き流しながら、俺の頭の中は、あのアルバムに

  • 推しに救われて、恋になった。   第4話「生誕祭」

    8月17日。今日は香織の生誕祭、当日。胸の高鳴りと、ほんの少しの緊張を抱えながら、俺は会場へ向かった。「おい、奏。大丈夫かよ、ふらふらしてんじゃん」「よう、ヒロ。仕事しながら動画編集してたら、ここ3日ほとんど寝てなくてさ」「そんな状態で平気か? これ、俺が持つから」両手にはネットで取り寄せた大量の白い大閃光と、コンビニで印刷した「香織おめでとう」のスローガン。「ありがとな。最高傑作できたから……楽しみにしてろよ」──香織が笑ってくれますように。

  • 推しに救われて、恋になった。   第3話「七夕の願いと声集め」

    香織の生誕祭の企画がまとまった俺は、ヒロにLINEを送った。──俺:「香織の生誕祭、やる内容まとまった!」俺:「明日、渋谷で会えない?」ヒロ:「おけ。ハチ公前でいい?」俺:「19時集合で」ヒロ:「飲み代は任せた」俺:「お前ほんとそればっかw」──翌日、渋谷の居酒屋でヒロと合流した。「ファンの“声”を集めた動画を作りたいんだ。 香織に、これからもステージに立ちたいって思ってもらえるような――そんな動画を」

  • 推しに救われて、恋になった。   第2話「この気持ちが、君をもう一度照らせたなら」

    朝の光が、いつもよりやけに白く感じた。目覚ましが鳴る前に目を覚ました俺の胸には、昨夜の香織の言葉が冷たく沈んでいる。──「私、アイドル辞めようと思ってて」あの声が、何度も頭の中でリフレインして離れない。スマホを手に取り、何気なくタイムラインを開く。そこには、いつも通りLUMINAの話題があふれていた。でも、その裏で香織がひとりで悩み、涙を流していたなんて――誰も知らない。洗面台の鏡に映る自分の顔を見ながら、自問する。(俺に、何ができる?)推しのために何かしたいと思っても、俺はただの一ファンにすぎない。オタクは、近いようで遠い存在だ。どれだけ想っても、どれだけ時間と金を注

  • 推しに救われて、恋になった。   第1話「香織の告白」

    「……かなくん――」ピリリリッ、ピリリリッ……目覚ましの音が、夢の続きを容赦なく断ち切る。誰かが俺の名前を呼んでいた気がする。まるで昔聞いたことのある声のように、胸の奥を揺らした。目を開けると、天井。見慣れた部屋。現実。手探りでスマホを手に取ると、ロック画面には、俺の推し、白咲香織の写真が映っていた。「香織……最高に可愛いな」スマホを握りしめる手に、無意識に力が入る。何度も見返したくなるその写真は、俺の心の支えであり、時に苦しくなるほどの愛おしさだった。あの日――ライブハウスのステージで初めて見た香織のパフォーマンスが、今でも頭から離れない。歌声、ダンス、そして表情―

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