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暴君陛下、愛しているふりはもう終わりです
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YuIm

1話. 恋人と呼ばれた夜

last update Veröffentlichungsdatum: 03.11.2026 16:54:13

赤い絨毯に、濃い血の臭いがこびりついていた。

寝殿の空気は氷のように冷たかった。窓格子の隙間から忍び込む冬の風が、蝋燭の炎を危うげに揺らしていた。

レイラは震える手で、銀の洗面器に浸したリネンの布を絞った。冷たい水がぽたぽたと落ちた。

寝台には帝国の皇帝、カリクス・フォン・ルクセンベルクが横たわっていた。兄弟たちの首を刎ねて帝位についた暴君だ。黒髪の下の額は青白く、鎖骨を横切る黒い血管は、蝋燭の明かりでもはっきりと浮かんでいた。

3週間前、正体不明の暗殺者が突き立てた短剣には、古代の呪毒が塗られていた。

侍医たちは、皇帝がいまだに生きていることさえ信じがたい様子だった。毎晩違う解毒剤を持ってきたが、薬を飲ませ、包帯を替えても、寝台の上からは一言の返事もなかった。

リネンを替えても、薬の臭いの奥には血の臭いが残った。レイラは乾いて張りついた布に、もう少し水を垂らした。そのまま剥がせば傷口が開いてしまう。新たに出血した跡を朝の侍医に見つけられれば、真っ先に呼びつけられるのは、一晩中寝殿に詰めていた侍女だ。

清潔な布は洗面器の右側に、汚れた布は足元にまとめた。混ざらないように置くと、ようやく手を動かすだけの場所ができた。燭台も動かしたかったが、皇帝の枕元を越えて手を伸ばす勇気はなかった。不便でも、見えるところを少しずつ拭う。この部屋では、仕事を早く終えることより、何事も起こさないほうが大切だった。

(お願い。今夜も無事にやり過ごせますように)

レイラは唇を噛みしめた。灰色の髪を古びた下女の頭巾にきつく押し込み、息をひそめていた。

エステル公爵家。3年前、謀反の濡れ衣を着せられ、一夜にして滅ぼされた一族。

一族の血が広場を染めた日、17歳だったレイラは、忠実な老従僕の助けを借りて、かろうじて生き延びた。

そして土埃にまみれたまま、皇宮で最も卑しく危険な、寝所付きの最下級侍女として潜り込んだのだ。

灯台下暗しという言葉のとおり、皇帝の寝殿こそ、かつての公爵令嬢の顔を誰も捜さない場所だったから。

生きなくてはならなかった。復讐など考える余裕もなかった。獣のように息をひそめて生き延び、国境の向こうへ逃げる。それだけが、彼女の唯一の生きるすべだった。

国境の向こうでどんな名を名乗るかは、まだ決めていなかった。名前を考えるより先に、この部屋で翌朝を迎えなければならない。レイラは水を含んだ布を手のひらの中で畳んだ。どこまでが傷で、どこからが乾いた血の跡なのか、かすかな蝋燭の明かりでは見分けることさえ難しかった。

皇帝の顔を長く見ないようにしていた。家族を失った日を思い出すと、手に力が入ってしまう。つらい記憶に囚われて乱暴に布を動かせば、生き延びようと耐えてきた日々まで無駄になりかねない。レイラは掛け布の端に視線を落とし、まず指先に残る震えを抑えた。

「……うっ」

レイラは、カリクスの胸にこびりついた赤黒い血膿を、慎重に拭った。

体のあちこちに、戦場を渡り歩いた跡が残っていた。レイラは古い傷痕を避けて布を動かした。新しい傷の縁から、また血がにじんだ。

濡れた布が傷に触れた瞬間、手首の脇で影が動いた。顔を上げる間もなく、銀の洗面器がひっくり返った。血の混じった水が大理石にぶちまけられた。

「かはっ……!」

息を吸うことすらできなかった。鎖よりも頑丈な手がレイラの喉を鷲掴みにし、寝台脇の床へ容赦なく押し倒した。

ドン!

背中に鈍い衝撃が走り、目の前に火花が散った。肺の空気が一度に押し出された。

レイラはようやく目を開いた。3週間閉ざされていた皇帝の目が、すぐ真上から彼女を見下ろしていた。焦点の定まらない赤い目が、彼女の持つ布と顔を交互に見ていた。傷を拭う手を、攻撃だと思ったらしい。

「よもや……朕を害そうとする鼠か」

カリクスの声は、鉄を擦るように低く、乾いていた。

喉を締めつける力が、ますます強くなった。首の骨が砕けそうな激痛に、レイラの足が宙を掻いた。

(死ぬ……こんな、犬死にするなんて……!)

レイラは彼の腕を引っ掻き、身をよじった。爪が皮膚を削っても、喉を掴む力は緩まなかった。視界が暗くなり始めた頃、緩んだリネンの頭巾が脱げた。

灰色の髪が、床の血混じりの水の上に広がった。息を求めて顔を上げたレイラの緑の瞳が、皇帝の赤い瞳とぶつかった。

「……!」

カリクスが息を止めたように見えた。喉を押さえる手から力が抜けた。彼はレイラの顔から目を離さず、信じられないとでもいうように、一度まばたきをした。

「……レイラ?」

金属を擦るような声でその唇からこぼれたのは、皇帝の寝殿では決して呼ばれてはならない名前だった。

レイラは喉を押さえ、激しく咳き込んだ。

喉の奥が焼けるようだった。息を吸うたびに傷ついた場所が疼き、咳を止めようとしても肩が揺れた。つい先ほどまで自分を殺そうとしていた手が、すぐそばにある。後ずさりしたかったが、背中を床から離すことさえつらかった。

皇帝に呼ばれた名は、隠してきた身分のことを考えるより先に、彼女をその場に縫い止めた。平凡な侍女の名前として聞き知っていたのか、それとも失った誰かを呼んだのか、わからなかった。問い返す余裕もない。彼がまた手を伸ばすのを見ると、考えるより先に体が強張った。

「げほっ! ごほっ……!」

彼女が息を整える間もなく、カリクスが床へ身をかがめた。レイラは再び喉をかばおうとしたが、先に彼の腕が背中を包んだ。引き寄せられた胸が傷だらけの体に押しつけられ、痛んだ。

熱い雫が耳元に触れた。涙だった。数えきれない命を奪ってきた男が、彼女の服を握りしめて泣いていた。レイラは顎の下に残る手の痕を意識しながら、次の言葉を待った。

「生きていたのか……レイラ、愛しい人。本当にお前なのか?」

カリクスの荒れた手が灰色の髪をかき分け、震える指先が頬と首筋を確かめるようになぞった。

「夢ではないのだな? 朕を残して……朕を独りにして去らぬと、約束したではないか」

首筋をなぞる手に、レイラの肩が強張った。つい先ほどまで自分を殺そうとしていた男が、今は失うのを恐れるかのようにすがりついていた。

(私を知っているの? いったい誰を見ているの)

焦点の揺らぐ目は、何度も彼女の顔へ戻ってきた。呪毒の後遺症だろうか。彼は記憶の中の誰かと、レイラを取り違えているようだった。

けれど、今この瞬間に「私は罪を負った公爵家の者で、ただの下級侍女にすぎません」と告げたら?

目の前の暴君は、思い違いを否定された屈辱と狂気に駆られ、その場でレイラの首をへし折るに違いなかった。

(生きなくちゃ。何があっても、生きなくちゃ)

彼が聞きたがっている答えを返さなければ。もう一度、あの手が喉にかかる前に。

レイラは震える両腕を持ち上げた。そして、血の臭いと冷や汗にまみれたカリクスの広い背中を、おそるおそる抱きしめた。

とん、とん。

幼い子をあやすように優しく背中を撫でながら、レイラは澄んだ静かな声で囁いた。

「……陛下。私はここにおります」

カリクスの肩が大きく震えた。

レイラは顎を少しずらして息をした。喉の奥を擦る痛みを悟られないよう、次の言葉はさらに柔らかく選んだ。

「泣かないでください。私はどこへも行きません。決して、陛下のおそばを離れません」

離れないという言葉を聞くと、皇帝の呼吸は少しずつ落ち着いていった。レイラは同じ速さで背を撫で続けた。彼の唇から自分の名がこぼれるたび、指先がわずかに止まった。隠すために声をひそめて呼んできた名前を、この男は失ったものを取り戻したかのように呼んだ。

彼が待っていた女は、自分ではないはずだ。それでも答えなければならなかった。背を撫でる手に力がこもる。本当の名で呼ばれているのに、嘘をついている気がした。

彼が力を緩めると、押し潰されていた胸にようやく息が入った。レイラは片手で背を撫で、もう片方の手を床について体を起こした。皇帝の腕がそれについて動いた。どうにか寝台の縁まで移って腰を下ろすと、彼も彼女を抱いたまま寄りかかった。

レイラは首筋に触れようとして、手を止めた。

「少しだけ……腕の力を緩めてください」

彼が顔を上げると、すぐに言葉を継いだ。

「逃げようとしているのではありません。少し、息をしたいのです」

服を掴む手はそのままだったが、腕の間に隙間ができた。レイラはそのぶんだけ身を引いた。痛いと口にするにも、言い訳が必要だった。それでも、息はできた。彼の肩越しに洗面器の位置を確かめ、濡れた裾がこれ以上まとわりつかないよう、膝を少しずらした。

寝殿の扉の外では、皇帝が目覚めたことを、まだ誰も知らなかった。

朝になれば侍医が入ってくる。そのときもこの男は、下女の自分を恋人と呼ぶのだろうか。

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