ログインその日の夜、僕は自転車に乗った状態で、町の大広場の中心辺りにいた。
人通りはない。 街灯がいくつかついているだけなので、光は少ない。遠くの家々も明かりを消しているようで窓の向こうが真っ暗だった。 この状況でここにいたら、モンスターはこちらに来るはず…… なのだが、 「なかなか来ないわねー」 ふわぁ、とあくびをするチャーリー。 こいつは不思議なことに、人間と同じように、夜になったら眠くなり、睡眠をとる、人間とちがって、そんなに睡眠をとらなくても大丈夫らしいが。 「油断大敵だ。そういうときに敵は来るもんだ」 と言っているとき、何か物音がした。 上空の方だ。 「ほら、言ってる傍から来たじゃないか」 マンティコアと思われるモンスターが空を飛んでこちらに向かってくる。 たぶん、空を飛んで、上からどこに人がいるか、見ていたのだろう。地上で人を探すより効率がいいだろうしな。 やがて、僕から十メートルほど離れたところに降り立った。 「やあ、マンティコア」 僕がそう言うと、魔物の目が見開かれた。 とりあえず、相手を動揺させようとしてみたが、その試みは成功したようだ。 「貴様、なぜ俺の名を知っている……」 やはり、言葉を話せるようだ。 割と知能がありそうだし、頭を使った戦い方をされたら厄介そうだな。 「なんでだと思う?」 「さあな……まぁいい、お前が俺を知っていようが知っていなかろうが、些末なことだ、どうせ今から殺す相手なのだしな」 「その前に一つ聞かせてくれないか、お前はなぜこの町の人間を襲う?」 「単純な理由さ、憎いからだよ、人間が」 「なぜ?」 「お前らは魔王様を殺した、魔王軍を壊滅させ、俺の居場所を奪った……一日に一人は最低でも殺さないと、気が済まない」 魔王軍は一年前に勇者が壊滅させている。 こいつはその残党ということか。 「お前が恨むべきなのは勇者たちであって、この町の住民は関係ないと思うのだが……」 「黙れ、俺は人間自体が憎いんだ」 話し合いは無理だな、これは。 「つまらん話は終わりだ、お前はこれから死ぬ、こんな夜中にのこのこと一人で出歩いてしまった自分の愚かさを憎むんだな」 ひとりじゃないけどな、とチャーリーの方を見る。 僕が視線を少し逸らした瞬間、マンティコアが猛スピードでこちらに向かってきた。 俺も自転車をこいで、敵の方へ一直線に進んでいく。 「血迷ったか」 嘲笑う獣。 そのまま僕と奴の距離は近づいていき、衝突する―― 「なに!?」 直後、マンティコアの目が見開かれる、 吹っ飛んだのは奴の方で、僕と自転車はその場でぴんぴんとしていた。 多少、機体に傷が入ったが、すぐに自動修復の効果で元通りの状態になる。 「何だその乗り物は、脆そうな見た目なのに、なぜそんなに耐久力がある!?」 ふっ飛ばされた後、体勢を立て直したマンティコアは、バックステップでさらに僕から距離をとった。 「脆そうですって、失礼しちゃうわね」 「ん? なんだ、しゃべることもできるのか、その乗り物?」 「ああ、これちょっと特別なやつなんでな」 「そうか……どうやら少しお前たちを舐めすぎてたみたいだ……だが、物理でダメなら、こいつはどうだ?」 マンティコアがいる地面に魔法陣が描かれる。 「イグニス!」 がぱっと開いた獣の口から火の玉が吐き出され、こちらに向かってくる。 自転車の前輪に当たるが、ほぼ無傷、少しタイヤの表面が焦げるが、すぐに自動修復される。 「あいつ、魔法も使えたのか」 「初級魔法だけど相当な威力よ、魔王軍の元幹部といったところじゃないかしら」 「たぶんそうだろうな」 僕とチャーリーがそのような会話をしている間、マンティコアは唖然とした表情になっていた 「効いてないだと、そんなはずは……!」 マンティコアは唇を震わせながらそう言った後、攻撃の効果を確かめるように、何度も火の玉を放ってきた。 僕は自転車をこいで、マンティコアを中心にして円を描くように移動しながら、その攻撃をかわしていく。 時折、自転車に当たるが、ほぼノーダメージ。 自分に当たりそうなものだけ、体を左右に傾けて回避していく。 「何度攻撃しても無駄だ、僕たちには効かない!」 「そうか? ならなぜおまえは火の玉をさっきからよけている?頑丈なのはその変な乗り物だけで、お前は当たったらまずいんだろう?」 としたり顔のマンティコア。 はったりをかましてみたけど、さすがにバレたか。 「変な乗り物ですって、失礼な!」 ぷんすかと怒るチャーリー。 「決めたわ、もう容赦しない、あいつは上級魔法で屠る。テル、詠唱と魔術式の計算に集中したいから、時間を作って」 「まじか……そんなに持たないぞ」 まぁ、このままじゃ決め手に欠けるとは思っていたけどさ。 うーん、多少時間を稼ぐくらいなら何とかなるか? 「大丈夫よ、大けがしても、回復魔法をかけてあげるから」 「わかった、頑張ってみるよ」 僕は自転車を降りて、単身でマンティコアへ向かっていく。 「なんだ、死に急いだか?」 とせせら笑いながら、火の玉を放ってくる。 僕はそれをサイドステップで避けながら、敵へ近づいていく。 獣の目前まで来ると、腰に下げていた鞘から短剣を抜き、マンティコアの頭部めがけて斬撃を与えようとする―― ――が、前足の爪でガ―ドされる。 「雷の精霊よ、天上より現れたまえ、我に力を、罪深きものに聖なる裁きを――」 後ろでチャーリーが上級魔法の詠唱を開始した。 それを見たマンティコアの表情が焦燥感に満ちたものになる。 「なっ、あの乗り物、魔法も使えるのか!?」 意識をチャーリーにそいでいるマンティコアに追撃の一撃を与えようとするが、すんでのところで、牙でガードされる。 「どけ、俺はあの乗り物を先に攻撃したいんだ!」 「させねぇよ!」 僕が攻撃し、相手が防御する、 最初はそうだったが、だんだん形勢が逆転して、マンティコアの攻撃を僕が何とか防ぐ、という形になっていく。 「ハハハ、あの乗り物は強いが、お前はたいしたことないじゃないか!」 「ぐっ」 頼む、チャーリー、早くしてくれ。 もう持たないぞ。 後ろでチャーリーが詠唱する声に耳を傾けながら、なんとか踏ん張っていたその時―― 「――轟け、雷鳴! 夜闇を切り裂く、一筋の閃光を放て!」 よし、詠唱が終わった。 ぼくは相手の攻撃を剣で防ぐが、わざと衝撃を殺さず、後ろに吹っ飛んで、魔法の効果範囲から離れる。 「食らいなさい、トニトルス!」 その刹那、上空の暗闇から大きな光の柱が地へと降り注いだ。 ドゴォォォォンッッと凄まじい音を立てて、マンティコアの体が電気に覆われる。 「ウグォオオオオオオ!?」 体に大きな火傷を負ったマンティコアが地面に倒れ伏せる。 慎重に近づき、生死を確認する。 息をしていない。 ホッと一息つく。 「お疲れ」 とチャーリーがこちらの方に来た。 「そっちもお疲れ」 「けがはない?」 「大きなのはないな、ところどころ擦りむいたくらい」 「一応回復魔法をかけておくわ」 「ありがとう」 チャーリーが僕に回復魔法を唱えている最中、窓から様子を見ていたらしい町の人々が、広場に集まってきた。 「すごい、本当に倒したんですね」 「あなたはこの町の英雄だ」 とかなんとか、賞賛の声がひっきりなしに上がってくる。 マンティコアの盗伐はほとんどチャーリーの功績なので、なんだか気後れする。 やがて、町長が人ごみをかき分けて、僕の前まで来た。 「この度はありがとうございます。なにかお礼をさせてください」 「お礼だなんてそんな……」 「そうだ、今晩、泊まるところはもう決めていますか? もし決めていないようでしたら、私の屋敷に泊まりませんか? 歓待しますよ、もちろん宿泊費はタダです」 タダか。僕はその言葉に弱い。 「ほんとですか、それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます」 「それでは、我が屋敷まであんないさせていただきます、あ、と、その前に、この魔物の死体はどうしましょうか」 「そこらへんに埋めとけばいいんじゃないか」 という声が十員たちの中から聞こえてくる。 しかし、僕はそれを否定する。 「いえ、墓を作ってあげてください」 この獣は確かに人類の敵だったが、だからといってその亡骸をぞんざいに扱っていいことにはならないだろう。 「あなたがそう言うのでしたら」 と町長が少しめんどくさそうにしながらも首肯した。 そうして、マンティコアの墓は、町はずれの小さな丘に作ることになった。私、今、とっても憂鬱なんです。 ご主人様と離れ離れにされた上に、自室に閉じ込められてしまったからです。 出ようとしても、ドアを開けるとすぐそこに使用人たちがいて、部屋の中に連れ戻されちゃうのです。 お気に入りのメイド服も捨てられて、普通の服を着せられてしまいました。 オフショルダーの白いワンピース……べつにこれが嫌というわけではないのだけど、ここ最近はずっとメイド服を着ていたので、なんだか違和感があります。 ハァッと、ため息ばかりついてしまう。 旅をする前は感じなかったのに、今はすごく感じる、この家の狭さを。 私はまだ広い世界を見ていたい。 そう強く思っていたとき、こんこん、とノックの音が聞こえてきました。 ドアが開くと、父が部屋に入ってきました。「お父さん、ここから出してください、私、ご主人様に会いたいです!」「ダメだダメだ、あんな男、もう忘れなさい、今日はクルシェにいい縁談の話を持ってきたんだ、相手はラルバド商会の会長の息子だ」「それ、お父さんがその人と結婚させたいだけじゃないですか、どうせ商売でメリットがあるからなんでしょう?」「ああ、そうだが?」「やっぱり、娘の幸せと商売、どっちが大事なんですか!」「どっちも同じくらい大事だ」「そんな……私の幸せの方が大事だって、嘘でも言ってほしかった」「何を言っている、嘘をついたら重罪じゃないか」 あ、そうでした。 私もだいぶ長いことここを離れていたから、感覚が鈍っちゃっているのかもしれません。「何が不満なんだ、お前にとっても悪い話じゃないはずだ、一生裕福な暮らしができるぞ」「そんなものいりません、私、ご主人様と旅がしたいんです」「旅なんでダメだ、そんな危険なこともうさせてたまるか、今度、ラルバド商会の会長とその息子をこの屋敷に招いて、パーティを開く予定なんだ、クルシェも出席すると伝えているからな」「ちょっと、勝手に決めないでください」「いいか、絶対にパーティーに出るんだぞ!」 と言ってお父さんは部屋を出ていってしまいました。 私、このまま好きでもなんでもない人と結婚させられてしまうのでしょうか。 はぁ、ご主人様、会いたいです……。 そのとき、コツ、コツ、とどこからか音がしました。 音がした方向を見ると、窓に石をぶつけられているようでした。 窓の外を見ると、
次の日―― 僕はクルシェの実家の前に来ていた。「……なんか、でかくね?」 思わず、大きく口を開けて、そう言ってしまう。 立派な門があり、庭があり、建物も三階建てで、見るからに金持ちの住む家って感じだ。「クルシェってもしかして貴族かなにかだったりする?」 とチャーリーが訊くと、「そういうわけではないんですけど、父が大商人で、商売でとても成功したみたいなんです」 彼女の靴やバッグがけっこう上等なものだったから、裕福な家庭なのかなとは思っていたけど、まさかここまでの家に住んでいたとは。「こんないい家に住んでいたのに、何であの屋敷でメイドなんかやっていたの?」 と僕が訊くと、「私、ずっと、両親の言いなりで、行く学校も交友関係も親に決められて、働く場所すらも決められそうで……私、それが嫌で、家出しちゃったんですけど、両親が使用人とかに私のことを捜索させていたみたいなんです。家に連れ戻されたくなかったので、まさかメイドをやっているとは思わないだろうなって考えて、あそこで働いていました」 そういう理由だったのか。 家に訪問する前に、僕はもう1つ確認しておくことにした。「一度は出た家に戻ることになるけど、それはいいの?」「はい、いつかは戻らないといけないとは思っていましたし、それに、ご主人様のこと、両親に紹介したいですから」「そっか」「ご両親、クルシェのことを心配してるんじゃない? かなり長い間帰っていないんでしょう?」 とチャーリーが言うと、クルシェは困ったような笑みを浮かべて、 「かもしれませんね」 彼女がそう言った後、僕が呼び鈴を鳴らすと、使用人らしき者が出てきた。「お、お嬢様!? しょ、少々お待ちください!」 彼は家の中に戻ると、数分くらいで、他に五人くらい使用人を連れて、戻ってきた。「お嬢様、どうぞ中へ、お連れの人も一緒に……」 促され、中へ入る。 外も豪奢だったけど、中もなかなかにすごかった。 天井にシャンデリア、床に高級そうな絨毯が敷かれていて、部屋の隅には高そうな陶器が置かれていて、壁にはドアがたくさんあった。「お父さんとお母さんは?」 とクルシェが使用人に訊いた。「今、外出中で……もうすぐ戻ってくると思います」「じゃあ、ご主人様、それまで家の中を案内しますね」 リビング、ダイニング、洗面所、トイレ
キランを騎士団に引き渡した後、僕たちは白銀の町を出た。 クルシェはずっと表情が暗く、チャーリーもテンションが低めだ。 まぁあんなことがあったしな……。 こういうときは、酒を飲んで、うまい飯を食うに限る。 ということで、訪れた町の酒場とかで、酒を浴びるように飲んだり、ドカ食いしたりしていたのだが、一時は明るくなっても、またすぐに皆元気がなくなってしまった。 どうしたもんか、と思いながら、街道で自転車をひたすら漕いでいた時、荷台に乗っていたクルシェがこんな提案をしてきた。「ご主人様、私の故郷に行きませんか」「クルシェの故郷っていうと、嘘をついてはならない国だっけ、たしか」「はい、そうです、ここから近いので、どうかと思って」「そっか、僕もそこには興味があったし、行ってみるか、チャーリーもいいよな?」「ええ」 ということで、クルシェの故郷に向かうことにした。 そして一週間後、クルシェの故郷である、嘘をついてはならない国の王都に着いたのだが――「あんたって、ほんとブスよね」「そういうあんたは性格が最悪よね」「なんですって!」「男は金よ、金!」「いいえ、顔の方が大事よ」「やっぱり女は胸だな、巨乳こそ正義!」「いや、違うな、女は尻だ」「ごめんなさい、実は私、浮気しているの」「ええ……」「しかも、あなたを含めて今、彼氏が三人いるの」「まじかよ……でも、よかった、実は俺も君以外に四人付き合っている女の子がいるんだ、俺たち、お似合いのカップルだな、あははははは」「は? ふざけんな」 町に入るなり、人々がそんな会話をしているのが聞こえてきた。「どうですか、言いたいことがはっきりと言える、素敵な町でしょう?」 とクルシェが微笑する。「うーん……」「そう……かしらねぇ……」 僕もチャーリーも微妙な反応を返した。「あ、どこか行きたいところ、ありますか? 案内しますよ」「じゃあ、ポーションを買いたいから、ちょっと薬屋に行きたいんだけど、どこにあるかわかる?」「薬屋ですね、ついてきてください」 とクルシェに連れていかれて、薬屋に入ったのだが、なんかどの商品も相場よりだいぶ高くないか? 他の客も「おい、店主、ぼったくりすぎだろ」とか言っている。それに対して「ああ、他の国の三倍の値段で売っているからな」なんて店主が返している。
「はぁ?」 キランのその提案に、チャーリーが怒りと呆れが混じったような声を上げる。「なんでテルがそんなことしないといけないのよ、あたしと勝負しなさいよ、ぼこぼこにしてあげるわ」「俺はテルと戦いたいんだよ」「ふざけないで、なんでそんな分が悪い戦いをテルにさせなきゃならないのよ」 チャーリーの言うことはもっともだ。でも……。 僕は深く考えて、決意した。「わかった、キラン、サシで戦おう」「そうこなくちゃ」「はぁー?」 チャーリーが今度は僕に怒りを向ける。「何言ってんのよ、テル、正気?}「ああ、正気だ」「前からバカなんじゃないかと思ってたけど、まさかここまでバカだったとはね、一応聞くけど、理由は?」「……親友の頼みを聞いてやりたいんだ」 親友という言葉に、ぴくりとキランが眉を動かしたのが視界の端に映った。「……そんだけ?」「ああ、そんだけだ」「はぁーーーー」 と大げさに溜息をつくチャーリー。「……あんたじゃ、キランに勝てないわ」「そうだろうな」「死ぬわよ」「かもしれないな」「それでもやるの?」「ああ」「……はぁ、わかった、もう好きにしなさい」 と投げやりな感じで言うチャーリー。 クルシェはというと、先ほどからあわあわとしていて、僕とキランを交互に何度か見た後、両者の間に入ってきた。「ちょ、ちょっと、なんでそんな、一騎打ちなんて……、二人とも、あんなに仲良かったじゃないですか、どうして戦わないといけないんですか、やめましょうよ、こんなことに何の意味が……」 キランが鋭い目つきでクルシェの方を見る。「うるせぇ! 男の戦いに口出すんじゃねぇ、引っ込んでろ!」 彼にものすごい剣幕で怒鳴られたクルシェはびくびくっと震えて、よろよろとした動きで僕とキランの間から離れていった。 それから、僕とキランは見つめ合った。 お互い示し合わせたように、同じタイミングで、鞘から剣を抜いた。 チャーリーもクルシェも、もう何も言わなかった。、ただ固唾を飲んで、僕たちを見守っている。 僕とキランはお互いに距離を詰めていく。無言で、ゆっくりと、間合いを確かめながら。 キランの持つ剣の方が剣身が長いので、彼のほうが早く間合いに到達する。 だから、最初に仕掛けてきたのは、キランの側だった。 僕の頭に向かって、剣を振り下ろしてくる。
僕たちは訪れた町の酒場などでキランの情報を収集しながら、旅を続けた。 一月以上経過した頃、白銀の町と言われているところで、キランがいるという情報を手に入れた。 僕たちはそこへ訪れることにした。 その町へ近づいていくにつれ、地面は雪道になっていき、 チャーリーは魔法で雪を溶かしながら前進した。 白銀の町へ着くと、入り口から少し先へ行ったところに、大きな雪ダルマがあった。「ようこそ、白銀の町へ」 雪ダルマがしゃべった!?「わぁ、かわいいですね」 とクルシェが目を輝かせている。 「魔法で喋っているのか?」「いえ、これはモンスターみたいね」 僕の問いにチャーリーが冷静に答える。 モンスターということなので、僕が短剣を鞘から抜いて、臨戦態勢をとると、雪ダルマが慌てた様子で、「ちょ、何もしないよ、僕は悪いモンスターじゃないよ」 と言うが、モンスターの言うことなので、僕は真に受けず、警戒を解かないでいると、一人の人物がこちらにやってきた。「安心してください、そのモンスターは本当に危害を加えたりはしませんよ」 やってきた人物がニコニコとした顔でそう言う。「あなたは?」「私は町長のビルモントです。その雪ダルマは私が物心ついた時からこの町にいる、穏やかな性格のモンスターですよ」 僕の疑問に町長はそう答えた。 周囲を見回すが、たしかにモンスターがいると言うのに、この町の人々は特に気にしているそぶりはなかった。 僕は短剣を鞘にしまい、警戒を解いた。 雪ダルマがほっと一息をつく。「僕が善良だとわかってくれたようでよかったよ、この町についてわからないことがあったら何でも言ってね」「じゃあ、訊きたいんだけど、この町に赤髪の美男子が来なかったか?」「赤髪の美男子……ああ、二日前にここに来たよ」「今はどこにいるかわかるか?」「ごめん、それはちょっと……」 としょぼんとした様子の雪だるま。「私もその赤髪の男を二日前に見かけましたが、今どこにいるかはわかりませんね、酒場にいけば、情報が手に入りやすいと思いますよ」 と町長が言うので、酒場の場所を教えてもらい、そこへ向かった。 店内に入ると、僕とクルシェがお酒を頼んで、届いたそれを飲みながら、キランのことについて聞き込みをすると、なんとほんの少し前までこの酒場にいたというのだ。 酒を一気
眠らない人々の町を出て、休憩しながら自転車をこぎ続けて、五日後、僕たちは眠るのが好きな人々の町というところに着いた。 が、しかし――「誰もいませんね」 とクルシェがぽつりと言う。 もう今は昼くらいの時間帯なのに、誰も見かけない。 どこの家も窓の奥が真っ暗だった。「ちゃんと、人は住んでいるんだよな……?」 と僕が疑問を口にすると、「そう聞いているけど」とチャーリーが自信なさげに言った。 人の気配がしない町の中を歩き回ること数十分、目の前にあった家の窓の奥が明るくなると、その家のドアから誰かが出てきた。「おや、旅人さんかな」 その人物が僕たちに近づいてくる。年齢はおそらく5,60歳くらいだが、若々しくて活力のある男性だった。「あなたは?」 と僕が訊くと、彼はよく通る声で、「私はここの町長のトルテスです、さぞやびっくりしたことでしょう、外に誰もいないから。まだほとんどの人が寝てるんですよ、ここの住民は皆一日に12時間は寝ていますからね」「12時間も?」「それ以上寝ている者もいるくらいですよ」「なんでそんなに寝ているんですか」「他の者は知りませんが、私は単純に好きだからですね、眠るのが。だって、朝、早起きせずにたくさん眠れるのって幸せじゃないですか?」 そう言われ、考えてみる。 前の世界では学校とかバイトとかで早起きしないといけないことが多かったから、休みの日に遅くまでぐっすりと眠れる時はたしかに幸せだったかも……。 それが毎日続くなると、さすがにそのありがたみが薄れそうだが。「どうですか、あなたたちも時間を気にせず、ゆっくり寝てみては」「そうですね、この町ではそうしようと思います、ところで、この町に中波と法村って人がいると思うんですけど、ご存じでしょうか」「ああ、知っているよ、知り合いなのかい? じゃあお二人の所に案内しよう、まずはここから近い、法村さんの方から行きましょうか」 町長はある家の前まで案内してくれると、二度寝すると言って去っていった。 まだ眠るつもりなのか……。 僕は法村の家の呼び鈴を鳴らした。 すると、すぐにドアが開かれ、男が出てきた。「どなたですか……て、矢島か?」「ああ、そうだ、久しぶりだな」「いや、ほんとそうだよ、元気してたか!」「うん、そっちは」「まぁ元気だよ、あ、どうぞ上
それから五分ぐらい歩いて、宿に着いた。 受付で宿屋の主人に部屋が空いているか聞くと、二人用の部屋と一人用の部屋がそれぞれ一つ空いていると返答が来た。「どうしようか、やっぱり、クルシェとは別々の部屋の方がいいよな……」 金銭的なことを考えると同じ部屋にしておきたいんだけど……。「え、同じでいいですよ、お金、もったいないじゃないですか」「そう? クルシェがいいならそうするけど……」「なに、同じ部屋だとあんた、なんかするの?」 とチャーリーが訝しんだ声を発する。「いやいや、まさか……」 と顔の前で手を左右にぶんぶんと振る。「追加料金を払えば、夕食と朝食をつけられますが、どうし
数時間おきに休憩をはさみながら自転車をこいでいると、遠くに村が見えてきた。「あれが次の目的地ね、不幸な人が誰もいない村と呼ばれているわ」 チャーリーがそう言うと、クルシェは目をキラキラとさせた。「不幸な人が誰もいない? ほんとだとしたら、とても素敵なところですね!」 不幸な人が誰もいない……本当なのだろうか? まぁ行ってみないとわからないか。 それからさらに数十分くらい自転車をこいで、村に到着した。 自転車を降りて、入り口を通ると、じろじろと村人たちから視線を浴びる。「旅人かい?」 近くに寄ってきたガタイのいい村人から声をかけられたので、僕は慌てて返事をした。「あ、はい
さらに自転車をこぐこと数時間、辺りが暗くなってきたので、そろそろ野宿の準備をしようと思った。 少し先に、大きな岩が点在しているところがあったので、その辺りで休もうと考えた。「あの岩の辺りで、今日は野宿しようか」「わかったわ」「はい!」 チャーリー、次いでクルシェが返事する。「クルシェは野宿大丈夫?」「大丈夫です、あの誰とも仲良くなれない町に来るまでに何度か経験ありますので」 となぜか自慢げに言う。「ひとりで野宿してたの? モンスターとかに襲われなかった?」 と僕が訊くと、彼女は胸を反って、「いえ、旅の途中で出会った、旅人や冒険者や行商人とかと一緒に旅をしていたので、襲
誰とも仲良くなれない町を出て、しばらく自転車を街道に沿ってこいでいた。 先程から周囲がほぼ草木しかない光景が続いている。 たまにゴブリンやスライムなどの低級のモンスターが襲い掛かってきたが、自転車でそのまま轢いて吹っ飛ばして進んでいく。 数時間くらいこぎ続けているので、そろそろ一休みしたいな、と思っていた時、ちょうど数十メートルくらい先に、大きな木を見つけた。「あそこの木陰で休憩しよう」「わかりました」「オッケー」 クルシェさん、次いでチャーリーが返事をした。 やがて、大きな木の前に着いたので、その近くに自転車を停めて、木に持たれるようにして座り込む。「ふぅ」「お疲れ様







