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永遠の愛を君に

永遠の愛を君に

By:  センヨCompleted
Language: Japanese
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今日は颯(はやて)がSNSに投稿すると言った日だ。 私は彼と人目を忍ぶ恋を5年も続け、これでやっと堂々と恋愛できるようになる。 私はそれが嬉しくて、徹夜で私たちのツーショット写真を編集し、5分間の短い動画にまとめた。 そして彼の誕生日が来た瞬間、その動画をSNSにアップした。 しかし、ものの一秒で誰かが私のアカウントにログインし、その動画は消えてなくなった。 それと同時に、颯からメッセージが送られてきた。 【莉緒(りお)、君の親友が失恋したんだ。君がアップした動画を見たらまた悲しませるだろう。いい子だからさ、もうちょっと待ってからまたアップしよう】 すると藤野芽衣(ふじの めい)からもメッセージが届いた。 「彼のこと、何とかしてよ。さっきバーに到着したばかりなのに、突然彼が来て私を車に乗せたのよ、本当にあきれた!」 二人のメッセージが立て続けに送られてきた。 それは私たちが旅行に行った時と同じで、あの二人が前を歩き、私が後からついて行くようだった。 今回、SNSに私と颯が実は付き合っていたことをアップして、周囲に知らせるのは、彼にあげた最後のチャンスだった。 でも、彼にその気がないというのなら、もういい。

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Chapter 1

第1話

私は何度も動画を見かえした。一つ一つの写真をズームし、以前颯が私を愛してくれていた時の様子を見つめた。

その時、玄関のドアが開いたと思うと、芽衣のカツカツというヒールの音が響いた。

颯はいつものように屈んで彼女にピンクのウサギ耳がついた可愛らしいルームシューズをとって渡した。それは颯が彼女に買ってあげた芽衣専用だ。

芽衣は靴を履きかえようと彼の肩を支えにして、足をあげた。その時足が彼の腕に触れ、二人の姿勢はかなり曖昧な雰囲気を漂わせていた。

二人の様子を見ていると、ふいに以前のことが蘇ってきた。この間、出かけていた時に靴紐がほどけてしまい、私は甘えた声で彼に結んでと頼んだ。

彼は振り返って、私をちらりと見た。

「莉緒、お前さ、もう大人なんだから、そんな子供みたいなことを言うなよ」

その言葉に私は恥ずかしくて顔が赤くなり、急いで屈んで靴紐を結び直すと、すぐに彼の後を追いかけた。

でもあれは、私が子供っぽいと嫌っていたわけではなく、彼が大事に可愛がっていたのは私ではなかったからか。

この時、芽衣が今ようやく私に気付いたかのように、こちらを見てきた。

「あら、莉緒、家にいたんだね」

芽衣はソファに座り、足を組んでローテーブルの上に置くと、すぐ傍にあったクッションをつかんだ。そのあまりに自然な動作に、ここはまるで彼女の家のようだと思った。

ただ、この家にある全てのものは、私が颯と気持ちよく暮らせるように、吟味して選び抜いたものばかりだ。

颯は薬箱を持って来ると、これはまた慣れた様子で芽衣の前に跪き、消毒液を綿棒に浸して彼女に塗ってあげた。

芽衣は傷口にしみたのか、痛そうに眉をひそめて私のほうを向いた。

「ねえ、莉緒。あなたってば颯みたいな彼氏によく耐えられるわよね。こんなかすり傷にも薬を塗るのよ。私がお酒を飲むのだってうるさく……」

「あら、その人が私の彼氏だってこと、あなた知ってたんだ」

私は芽衣の言葉を遮ると、顔をあげて彼女に微笑んだ。

その言葉に芽衣は驚いていた。颯の手もその瞬間ピタリと動きを止めた。

私は二人には気づかれないところで、ぎゅっと拳を握りしめた。あまりに力を込めていたため、爪が手のひらに食い込み、その痛みでどうにか冷静さを保っていられた。

芽衣は不満そうな目つきで私を見てきた。

「ちょっと莉緒、まさか私が颯に気があるんじゃないかとか思ってる?あなたが颯と付き合っていることを今は周りに教えられないって言ったから、私がこうやってしょっちゅう来て、事実を隠してあげてるんじゃないの」

そうだ。それは、もし早い段階で私たちが付き合っていることを周りが知り、結局別れるようなことになったら、私の名誉に傷をつけるとかなんとか颯が言って、5年ものあいだ秘密にしていたのだ。

颯は慎重な手つきで芽衣に絆創膏を貼ってあげると、立ち上がり、責めるような眼差しを私に向けてきた。

「莉緒、でたらめなことを考えるにしても、度を超しているぞ。お前のためじゃなかったら、俺が芽衣の行動にいちいち気を配ってるのは何のためだよ?」

彼がそう言い終わると、芽衣が抱いていたクッションを彼に投げつけた。

「誰がそうしてくれって頼んだのよ!」

そう言うと、彼女は立ち上がろうとしたが、颯が彼女の体を押さえた。

「じっと座ってるんだ。さっき薬を塗ったばかりなんだから」

二人のまるで当たり前のようなイチャつきっぷりに、ぶちまけたい気持ちが、喉まで来てまた引っ込んでしまった。

今日晴れて彼との交際を周りに公表できたお祝いとして鍋を作ろうと思っていた。その材料がキッチンに置かれている。

その食材はほとんどが私の好きなものばかりだ。しかしこうなった今、それは別れの最後の晩餐とすることにしよう。

鍋がぐつぐつと湯気をあげている。芽衣は私の隣、そして颯は私の向かい側に座った。

辛い物好きな芽衣は、自分の小皿に唐辛子を大さじ一杯入れた。それを見た颯が眉をひそめて彼女の手からそれを取り上げた。

そして私のタレが入った小皿と取り替えて、それを芽衣の前に置いた。

「怪我したんだから、辛い物は避けるべきだ。早く良くなりたくないのか?」

芽衣は辛い物が大好きだが、私は大っ嫌いだ。颯も以前からそれをよく知っている。

昔から、私が夜中にお腹を空かせた時、彼は眠たそうな目をしながらもデリバリーを注文する時には、しっかりと辛いものではないか確認してくれていた。

今、私は目の前に置かれた唐辛子入りの小皿を見つめ、突然、この5年に執着する必要もないように感じた。

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第1話
私は何度も動画を見かえした。一つ一つの写真をズームし、以前颯が私を愛してくれていた時の様子を見つめた。その時、玄関のドアが開いたと思うと、芽衣のカツカツというヒールの音が響いた。颯はいつものように屈んで彼女にピンクのウサギ耳がついた可愛らしいルームシューズをとって渡した。それは颯が彼女に買ってあげた芽衣専用だ。芽衣は靴を履きかえようと彼の肩を支えにして、足をあげた。その時足が彼の腕に触れ、二人の姿勢はかなり曖昧な雰囲気を漂わせていた。二人の様子を見ていると、ふいに以前のことが蘇ってきた。この間、出かけていた時に靴紐がほどけてしまい、私は甘えた声で彼に結んでと頼んだ。彼は振り返って、私をちらりと見た。「莉緒、お前さ、もう大人なんだから、そんな子供みたいなことを言うなよ」その言葉に私は恥ずかしくて顔が赤くなり、急いで屈んで靴紐を結び直すと、すぐに彼の後を追いかけた。でもあれは、私が子供っぽいと嫌っていたわけではなく、彼が大事に可愛がっていたのは私ではなかったからか。この時、芽衣が今ようやく私に気付いたかのように、こちらを見てきた。「あら、莉緒、家にいたんだね」芽衣はソファに座り、足を組んでローテーブルの上に置くと、すぐ傍にあったクッションをつかんだ。そのあまりに自然な動作に、ここはまるで彼女の家のようだと思った。ただ、この家にある全てのものは、私が颯と気持ちよく暮らせるように、吟味して選び抜いたものばかりだ。颯は薬箱を持って来ると、これはまた慣れた様子で芽衣の前に跪き、消毒液を綿棒に浸して彼女に塗ってあげた。芽衣は傷口にしみたのか、痛そうに眉をひそめて私のほうを向いた。「ねえ、莉緒。あなたってば颯みたいな彼氏によく耐えられるわよね。こんなかすり傷にも薬を塗るのよ。私がお酒を飲むのだってうるさく……」「あら、その人が私の彼氏だってこと、あなた知ってたんだ」私は芽衣の言葉を遮ると、顔をあげて彼女に微笑んだ。その言葉に芽衣は驚いていた。颯の手もその瞬間ピタリと動きを止めた。私は二人には気づかれないところで、ぎゅっと拳を握りしめた。あまりに力を込めていたため、爪が手のひらに食い込み、その痛みでどうにか冷静さを保っていられた。芽衣は不満そうな目つきで私を見てきた。「ちょっと莉緒、まさか私が颯に気が
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第2話
私は箸を置くと、立ち上がってドアのほうへ歩いていった。颯が私を追いかけてきて、強い力で私の腕を引っ張った。「芽衣は失恋したばかりなんだぞ。お前は彼女の親友なんだから、少しは慰めてやるべきだろ。さっきから今までずっとムスっとしてさ、一体何を考えてるんだよ?」私は、今目の前にいる5年の間、大好きで愛していた男を見つめた。「ねえ、颯」私は彼に言った。「あなたって、毎回見事に私の期待を裏切らないわよね」私の言葉が理解できないらしく、彼は眉間に皺を寄せていた。するとこの時、突然リビングから「キャアッ!」という叫び声が聞こえてきた。その声が聞こえた瞬間に、彼は私に背を向けて、芽衣のもとへ急いだ。私は視線を戻し、彼らに背を向けてここを去った。少し前に会社から、私に高見原市にある支社へ異動してもらいたいと通知が来ていたが、その時は少し考えさせてほしいと断わっていた。それは、颯から遠距離恋愛はしたくない、毎日私と一緒にいたいと言われたからだ。しかし今、彼と暮らした家にあるあのピンク色のルームシューズに、さっきの唐辛子が入った小皿を頭に思い浮かべた。私はきっとかなり前から二人の中で「はみ出し者」になっていたのだろう。それに今私はようやく気付いただけだ。私は颯と付き合い始めるとすぐに親友の芽衣を紹介した。あの頃、芽衣にはまだ彼氏がいて、颯と芽衣はお互いの立場をはっきりと分けていた。芽衣が彼氏と別れては仲直りを繰り返しているうちに、全てが私の知らないところで、徐々に変わっていたのだ。芽衣は夜中に酔っぱらって私に電話をかけてきた。私は颯と一緒に彼女を迎えに行ってあげた。芽衣が車の中で吐いてしまい、それを嫌った颯は車を中古で売ってしまった。芽衣が彼氏と別れると騒ぎ始めて私に相談しに来るようになってから、颯はとてもうんざりしていた。彼は何回も二人っきりの世界になれないと愚痴をこぼしていた。それがだんだん文句を言う数は減っていき、芽衣が酒に酔っていても嫌悪しなくなっていった。芽衣が酔っぱらうと、颯が真っ先にふらつく彼女の体を支えてあげて、コンビニに酔い覚ましのドリンクを買いに行き、辛抱強く彼女の背中をさすってあげた。私たちが遊びに出かけた時には、彼はいつも芽衣を連れていけば、私たちが付き合っていることを隠す
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第3話
翌日会社に行くと、みんながまるで異様な物でも見るかのように私を見てきた。この日一日中、私が来ると、みんなさっきまでおしゃべりしていたのに、暗黙の了解のようにピタリと話を止め、せかせかと仕事をしているふりをし始めた。退勤時間が迫っても、こそこそと噂をする声はやむことがなかった。私はもう耐えられなくなって、振り返った。「何か私に言いたいことがあるなら、言ってよ。そうやって裏でこそこそと話してないでさ」誰も私に返事してくれなかったが、ただ一人、小声でつぶやく人がいた。「ネットを騒がせてるってのに、何を知らないふりしてんだか」その言葉を聞いて、私はすぐにスマホを開いた。ネットで今関心を集めているゴシップが真っ先に目に入った。【私を愛してくれながら、別の人とも思い出作り】そこにあったのは、まず颯と芽衣のあの動画だ。それと、「リオの小さな世界」という名称の私の裏垢も。その裏垢は私が昔、颯とのささいな日々を綴ろうと思って作ったものだ。しかし、颯から言われて彼の顔を載せたことはない。それでもネット民たちは、その写真から、まるで粗探しでもするかのように細かいところに目をつけて、私の名前、仕事、住所まで特定していたのだ。それを見た瞬間、私は血の気が引き、指先が氷のように冷たくなった。そして最後に私は気がついた。芽衣も同じくインスタのアカウントを持っていて、私が裏垢を作ったのと同時期に作ったようだ。私はもうそれを更新していなかったが、彼女はまだ続けていて、最新の内容はあのエコー写真だった。ネット民たちは、芽衣が可哀想だと心を痛め、私は浮気相手だと責めた。そして誰かが私のメインでやっているインスタまで探し出し、私と芽衣が親友だということまでばれていた。私のSNSは完全に炎上状態で、ダイレクトメッセージがひっきりなしに届いた。家に着くと、大家が玄関の前で待っていた。彼女はイライラした様子で私を見ていた。「あなた、さっさと出ていってもらえるかしら。あなたなんかに貸したくないのよ。敷金礼金は後から差し引いた金額をそっちに振り込むから、早く出ていって!」「どうし……」「どうしてなのか、よく聞けるわね?」大家は私の言葉を遮り、声を荒げた。「あんたの炎上よ。私の商売にかなり影響が出てるんだからね!賃貸情
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第4話
電話は切られ、ただ、ツーツーという耳障りな機械音だけが響いた。芽衣のXとインスタには同時に新しい写真がアップされた。颯は優しさが溢れる瞳で、芽衣のお腹に手を当てている。その写真と一緒に【パパとママが愛し合っているからこそあなたがここにいるのよ】と書かれていた。私はベッドに崩れるように倒れ込み、涙が頬を流れシーツを濡らした。私が目を覚ました時には、すでに翌日の昼になっていた。会社からまた電話がかかってきて、芽衣が会社で騒ぎ、かなり悪影響が出ているから、今すぐに解決しに来いと言った。私は目をこすり起き上がると、昨日雨に濡れた服も着替えることなく、急いでホテルの部屋を出た。会社に到着すると、芽衣が私の席に座り、同僚たちに囲まれていた。「ねえ、赤ちゃん、何か月?」「私クッション持ってるよ。それに座ったほうが気持ち良いと思う」「芽衣さんって本当にお人好しだわ。親友に裏切られたっていうのに、それでもちゃんと彼女と話したいなんて」私に気付いた社員が声をひそめて話していた。「ねえ、村瀬さんが来たよ」彼女たちが芽衣の周りから離れると、芽衣が腰を支えながらゆっくりと立ち上がり、私の目の前にやって来た。「莉緒、あなたときちんと話したいの」この時の私は頭痛がひどかった。きっと昨夜雨に濡れてそのまま寝てしまったせいだろう。私が顔をあげると、同僚たちはみんな軽蔑する目で私を見ていた。その中にはまるで私が芽衣に何かするんじゃないかと警戒した様子で、彼女を守るように囲んでいる人もいた。この時、窓から風が吹いてきて、私は身震いし心も完全に冷え切ってしまった。芽衣が近寄り私の手をとると、嗚咽まじりにこう言った。「莉緒、私たち長い付き合いじゃない、お願い、きちんと話し合おう。ね?」この言葉はかなり曖昧だ。事情を知らない人が聞けば、親友に裏切られたのに、まだ友情を取り戻したいと言っているように聞こえる。こめかみあたりがピクピクと跳ねた。私は眉をひそめて彼女に触れられないように手をあげて避けた。しかし、芽衣はまるで大きな力で押されたかのように、そのまま後ろに倒れ込んだ。周りは驚き、叫び声をあげて、慌てて芽衣を起き上がらせた。芽衣はしっかりとお腹を押さえて、目を真っ赤にさせた。「莉緒、私たちには誤解があるん
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第5話
診察室では、医者が芽衣のお腹にエコーゼリーを塗っているところだった。ひやっとするゼリーに芽衣はぶるっと震え、隣にいる颯の手をつかんだ。颯はかすかに眉をひそめ、無意識にその手を引っ込めようとした。ちょうどその時、医者が口を開いた。「動かないでくださいね、すぐに終わりますので」颯はやはり彼女の手をほどくことなく、さっきの考えとは逆に彼女の手を強く握りしめた。芽衣は甘えた様子で、傍にいる彼に視線を向けた。妊娠3ヵ月ではお腹の子供はまだ小さすぎて、なんとなく形が分かる程度だった。芽衣は彼の手を揺らした。「ほら、颯、すっごく不思議ね。私もうすぐママになるんだよ」颯は画面に映る白黒の画像を見て、突然私のことを頭に思い浮かべた。彼は私と結婚して家庭を作り、私たちとの間に可愛い子供をもうけることを考えたことがないわけではない。しかし、どうしてこうなってしまったのか。颯はここ暫くの間に起きた事を何度も頭で思い返していた。彼はそうしているうちにどんどん怖くなっていった。さっき芽衣に手をつかまれた瞬間、彼は猛烈に心の中が空っぽになったような気がした。「颯、ねえ、颯ってば」彼は芽衣の声に意識を呼び戻された。彼女はティッシュを颯の目の前に突き出していた。「ほら、拭いて。私じゃ見えないところもあるから」颯はそう言われるとティッシュを手にとり、少しずつゼリーを拭き取っていった。医者がすぐ傍でその様子を微笑んで見ていた。「奥さんが妊娠されて、旦那さんが奥さんの気持ちを落ち着かせようと、きちんと夫としての責任を果たしているんですね。そうすれば妊娠中は奥さんも気分が良く過ごせますよ」「いや、俺は……」颯が動作を止め、医者の言葉を否定しようとした時、彼の手をつかむ芽衣の手に力が入った。芽衣は願いのこもった眼差しで彼を見つめていた。颯はそのまま続いてゼリーを拭いてあげた。「ええ、もちろんです」少しして、颯は芽衣の体を支えながら診察室を出た。彼は無意識に周りを見渡したが、私の姿を見ることはできなかった。芽衣は片方の手を彼の腕に絡め、もう片方の手にはエコー検査の結果を持ち、彼の前にさし出した。「颯、見て見て、赤ちゃん無事に育ってるって」彼は適当に彼女に返事をすると、スマホを取り出して私に電話をし
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第6話
芽衣は颯の大きな声に驚き、振り返って可哀想なふりをした。「どうしてそんなに怖い顔で怒鳴るの。私はただ代わりに片付けようと思っただけよ」颯は数歩進み、芽衣の前に立ちはだかった。「その必要はない。どうせ、ここに長居するつもりもないんだ。莉緒にきちんと説明して、彼女の怒りが収まったら、俺と彼女の家にまた引っ越すんだから」この時の颯は、私たちの家はすでに彼のせいでなくなっていることを知らない。一緒に暮らしていたあの部屋は、すでに何もかもなくなって空っぽになっている。それと一緒に私たちのあの5年間も綺麗に片付けてしまった。芽衣は彼に背を向けた。そして彼に見えないように、嫉妬と憎しみに歪んだ顔をしていた。颯はベッドの端に座って、繰り返し私が作ったあの短い動画を見つめていた。実は、彼は削除する前にスマホに保存していたのだ。ラブソングに合わせて、画面が次へと変わっていく。颯は思わずそれを見ながら笑い声をもらした。その時の彼は、ウキウキしながらあの動画を編集する私の嬉しさと、SNSに付き合っていることを公表できるあの日の期待を想像し、感じ取っているようだった。でも、見続けているうちに、彼の笑顔が消え、顔はこわばっていった。あんなに期待していた日。心を込めて動画にまとめあげた私たちの5年という時間。それを彼の誕生日に日付が変わってすぐアップした時、彼は一体私に何をした?私のSNSにログインし、あの動画を消して言った。失恋したばかりの芽衣の気持ちを考えてやれと……あの時、彼は私の気持ちなど一切考えていなかった。颯はベッドの端に座ったまま、両肘を膝の上に置いて、手を組んだ。心の奥底から込み上げてくる苛立ちと後悔が一つになり、泥沼にはまってしまったかのように抜け出せない。そしてこの時、ドアが開いた。芽衣がワインを持ってドアの前に立っていた。「颯、あなた今気分が落ちてるでしょ。一緒に飲むことはできないけど、心の中の鬱憤を吐き出してくれていいよ。私、莉緒の大親友だもの。あなたが彼女に説明しに行った時には、話を聞いてもらえないようなら、私も代わって説明することができるわ」颯はほんの少し迷ったが、結局は立ち上がって芽衣と一緒にリビングに行った。この時の彼は酒の力を借りて自分の気持ちを麻痺させる必要があった。それにより
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第7話
私が高見原市に来て、まるまる1カ月経った。初めてここに来たばかりの時は、新しい環境に慣れなかった。それに到着したばかりの頃は毎日雨続きだった。しとしとと降り続く雨に、湿気も混じっていて、どんよりとした空のせいで気分が沈んだ。そんな憂鬱な気分は、ゆったりと休める休日に自然と目が覚めた瞬間に消えていった。目を開けて外を見ると、細かい雨粒が窓ガラスにそっと優しく落ちていた。突然、ここには騒がしいものなど一切なく、平穏だと感じた。ガラス越しに見えるぼんやりとした雨の景色を見つめ、私はふいにこの知らない町にようやく心の平穏を覚えた。以前書いていた履歴書を手に、私はなかなか良い仕事を見つけることができた。ネットの炎上はこの時すでに鎮まり、私の過去を知る人はいなくなった。入職する当日、私はまだ緊張していた。ネットの情報を見た人がまた私を誤解してきたり、事情をきちんと聞いてくれる人もいないのではないかと不安だった。しかし、面接官は私にいくつか専門的な質問をしただけで、翌日には内定通知を受け取ることができたのだ。そしてあっという間に2ヵ月が過ぎ、やっとここでの生活に慣れた。もう誰も私の穏やかな日々を邪魔する人はいないだろうと思っていた矢先、芽衣がいつまでも執着し、どうしても私を潰そうとしてきた。一体どうやって私の職場を見つけ出したのか知らないが、ある日私が仕事を終えて帰ろうとした時、慌ただしい足音が聞こえてきた。私がその音に振り返る前に、誰かに肩を強く掴まれた。そしてすぐに芽衣の声が耳に飛び込んできた。「あんた、颯を一体どこに隠したの!?」同時に多くの社員が何事かと集まってきて、昔みんなに囲まれて攻撃された記憶が蘇ってきた。私はその場に立ち、ただ自分のうるさい心臓の音だけが耳に響いた。私が無意識に後ずさりした時、隣の席の同僚が私の背中を支えた。彼女は私の傍に立って、厳しい表情で芽衣を見つめた。「すみませんが、どうやってここに入ってきたのですか?ここはオフィスフロアです。部外者は勝手に入ってはいけないことになっています。妊婦さんのようですから、警備員は呼びませんので、すぐに出ていってください」彼女がそう言うと、さらに多くの社員が私のほうに立ってくれた。「そうよ、わざと騒ぎを起こしに来たんじゃない?」
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第8話
芽衣はその瞬間、その場で固まってしまった。慌てた目をして無意識にいつもの手を使おうと考えていた。彼女はいじめられた可哀想な被害者ヅラをして、誰かに押し倒されたように見える名演技を披露しようと考えた。しかし、彼女の体が少しふらつき、後ろに倒れそうになった瞬間、後ろにいたある同僚がすぐにスマホを上にあげて、カメラレンズがある側を芽衣の前に突き出し、嘲笑しながらこう言った。「動画を撮っていましたよ。莉緒さんは少しもあなたに触れていません。あなたが自分で倒れようとしただけでしょう。ドラマの撮影か何かですか?それなら大根役者ですね、あなた」周りの同僚たちはこの状況に、次々と賛同するように口をそろえ、その発言はすべて核心に迫っていた。「だからこの間のネット上での風向きがおかしかったんだ。今みたいに可哀想な被害者ヅラをしてみせたり、小細工して同情を買おうとしたのね。真実がばれないようにうまく隠したってわけか」「ネットで莉緒さんのイメージを悪くさせるような事ばかり並べて、彼女は性格に問題があるとか言ってたっけ。今思えば、それはあなたのほうじゃないの」「5年もの恋愛を友達のあなたに壊されたのよ。それなのに、あなたは罪悪感もなく、莉緒さんが新しく働いている会社にまで押しかけて、また嘘を流そうとするなんてさ、本当に恥知らずにもほどがあるわ」ここにいる誰もが芽衣を詰問し、嘲笑している。それに動画にはきちんとした証拠があるため、芽衣の計画は全て見抜かれてしまった。この時の芽衣は、顔を真っ青にして、醜く顔を歪めていた。弱い女を演じることができなくなり、恥ずかしさと怒りがはっきりと表れた顔をみんなの前であげることはできなかった。最後に、その場の全員から軽蔑の目を向けられ、彼女は居ても立っても居られなくなり、慌てた様子で服の端をぎゅっと握りしめ、背を向けて逃げるようにその場を離れた。彼女が去ると、私は溜まった息を一気に吐き出した。同僚たちが集まってきて、私にどうしたのか、大丈夫かなどと話しかけてくれた。私はみんなを見渡し、何度も頷いた。その時、涙で視界がかすれていた。「みんな、ありがとう、本当にありがとう……」それから数日後、私の名前がまたネットで騒がれることになった。しかし今回は前の炎上のようではなく、私の身の潔白を証明する内容だっ
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第9話
颯は黒の傘を差して、急ぎ足で私の前まで走ってきた。颯はまず私を見て、その後隣にいる同僚のほうへ視線を移した。彼は無意識に手を握りしめ、こわばった声で話した。「莉緒、彼は誰なんだ?」私は顔をあげて彼を見た。感情の一切こもっていない淡々とした声で私は言った。「あなたと関係ある?松浦さん、毎日ここでじっと待っていて、何か変えられると思っているの?私たち大人なのよ。そんな子供っぽい真似しないでくれるかしら」それは昔彼に言われたことだ。今そっくりそのまま彼に返してやる。颯は肩を震わせ、納得できない顔で私を見ていた。「莉緒、本気で俺を捨てる気なのか。5年間も愛し合った仲だっていうのに、そう簡単に?」彼は卑屈になり懇願するような口調で、かすれた声でそう言った。「俺、ネットでもうみんなに事情を説明したよ。ネット上にある罵りや俺に対する汚名も全部受け止める。ただ、一回だけでいい。今回だけでいいから許してほしいんだ。お願いだ……」「松浦颯さん」私は小さな声で彼の言葉を遮った。「一体誰が私たちの仲を壊すことに決めたのか、それはあなたが誰よりもよく分かっているはずよ。あの頃、私はあなたと芽衣が曖昧な関係になっていくのをこの目で見ていた。私が辛い物が苦手なのに、それを私の目の前に置いた。彼女が失恋でつらい気持ちでいるからって、私が作った動画を削除した。あなたは私がネットで叩かれてもどうでもいい。大家から家を追い出されても構わない。ねえ、知ってる?あの夜大雨が降っていたの。今日とは比較できないほどの雨だったわよ。なのにあなたはどうして私が許してくれると思えるの?私がもう一度やり直そうって思うとでも?」颯は手から力が抜けて傘を地面に落とし、絶望したようにうつむいた。その瞬間、雨が彼を容赦なく打ちつけた。私は彼の惨めな姿を見ても、全く心は乱れなかった。「松浦さん、もう二度と私の前に現れないで。あなたを見ただけで吐き気がしそうよ」そう言うと、私はもう彼に視線を向けることはなく、横を向いて同僚を引っ張り、振り返ることもせず颯爽とその場を離れた。数歩進んだところで、後ろからドサッという鈍い音が聞こえた。そして喉の奥から絞り出すような泣き声が聞こえてきた。私は振り返ることも、立ち止まることもなかった。あの日、病
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