LOGIN今日は颯(はやて)がSNSに投稿すると言った日だ。 私は彼と人目を忍ぶ恋を5年も続け、これでやっと堂々と恋愛できるようになる。 私はそれが嬉しくて、徹夜で私たちのツーショット写真を編集し、5分間の短い動画にまとめた。 そして彼の誕生日が来た瞬間、その動画をSNSにアップした。 しかし、ものの一秒で誰かが私のアカウントにログインし、その動画は消えてなくなった。 それと同時に、颯からメッセージが送られてきた。 【莉緒(りお)、君の親友が失恋したんだ。君がアップした動画を見たらまた悲しませるだろう。いい子だからさ、もうちょっと待ってからまたアップしよう】 すると藤野芽衣(ふじの めい)からもメッセージが届いた。 「彼のこと、何とかしてよ。さっきバーに到着したばかりなのに、突然彼が来て私を車に乗せたのよ、本当にあきれた!」 二人のメッセージが立て続けに送られてきた。 それは私たちが旅行に行った時と同じで、あの二人が前を歩き、私が後からついて行くようだった。 今回、SNSに私と颯が実は付き合っていたことをアップして、周囲に知らせるのは、彼にあげた最後のチャンスだった。 でも、彼にその気がないというのなら、もういい。
View More颯は黒の傘を差して、急ぎ足で私の前まで走ってきた。颯はまず私を見て、その後隣にいる同僚のほうへ視線を移した。彼は無意識に手を握りしめ、こわばった声で話した。「莉緒、彼は誰なんだ?」私は顔をあげて彼を見た。感情の一切こもっていない淡々とした声で私は言った。「あなたと関係ある?松浦さん、毎日ここでじっと待っていて、何か変えられると思っているの?私たち大人なのよ。そんな子供っぽい真似しないでくれるかしら」それは昔彼に言われたことだ。今そっくりそのまま彼に返してやる。颯は肩を震わせ、納得できない顔で私を見ていた。「莉緒、本気で俺を捨てる気なのか。5年間も愛し合った仲だっていうのに、そう簡単に?」彼は卑屈になり懇願するような口調で、かすれた声でそう言った。「俺、ネットでもうみんなに事情を説明したよ。ネット上にある罵りや俺に対する汚名も全部受け止める。ただ、一回だけでいい。今回だけでいいから許してほしいんだ。お願いだ……」「松浦颯さん」私は小さな声で彼の言葉を遮った。「一体誰が私たちの仲を壊すことに決めたのか、それはあなたが誰よりもよく分かっているはずよ。あの頃、私はあなたと芽衣が曖昧な関係になっていくのをこの目で見ていた。私が辛い物が苦手なのに、それを私の目の前に置いた。彼女が失恋でつらい気持ちでいるからって、私が作った動画を削除した。あなたは私がネットで叩かれてもどうでもいい。大家から家を追い出されても構わない。ねえ、知ってる?あの夜大雨が降っていたの。今日とは比較できないほどの雨だったわよ。なのにあなたはどうして私が許してくれると思えるの?私がもう一度やり直そうって思うとでも?」颯は手から力が抜けて傘を地面に落とし、絶望したようにうつむいた。その瞬間、雨が彼を容赦なく打ちつけた。私は彼の惨めな姿を見ても、全く心は乱れなかった。「松浦さん、もう二度と私の前に現れないで。あなたを見ただけで吐き気がしそうよ」そう言うと、私はもう彼に視線を向けることはなく、横を向いて同僚を引っ張り、振り返ることもせず颯爽とその場を離れた。数歩進んだところで、後ろからドサッという鈍い音が聞こえた。そして喉の奥から絞り出すような泣き声が聞こえてきた。私は振り返ることも、立ち止まることもなかった。あの日、病
芽衣はその瞬間、その場で固まってしまった。慌てた目をして無意識にいつもの手を使おうと考えていた。彼女はいじめられた可哀想な被害者ヅラをして、誰かに押し倒されたように見える名演技を披露しようと考えた。しかし、彼女の体が少しふらつき、後ろに倒れそうになった瞬間、後ろにいたある同僚がすぐにスマホを上にあげて、カメラレンズがある側を芽衣の前に突き出し、嘲笑しながらこう言った。「動画を撮っていましたよ。莉緒さんは少しもあなたに触れていません。あなたが自分で倒れようとしただけでしょう。ドラマの撮影か何かですか?それなら大根役者ですね、あなた」周りの同僚たちはこの状況に、次々と賛同するように口をそろえ、その発言はすべて核心に迫っていた。「だからこの間のネット上での風向きがおかしかったんだ。今みたいに可哀想な被害者ヅラをしてみせたり、小細工して同情を買おうとしたのね。真実がばれないようにうまく隠したってわけか」「ネットで莉緒さんのイメージを悪くさせるような事ばかり並べて、彼女は性格に問題があるとか言ってたっけ。今思えば、それはあなたのほうじゃないの」「5年もの恋愛を友達のあなたに壊されたのよ。それなのに、あなたは罪悪感もなく、莉緒さんが新しく働いている会社にまで押しかけて、また嘘を流そうとするなんてさ、本当に恥知らずにもほどがあるわ」ここにいる誰もが芽衣を詰問し、嘲笑している。それに動画にはきちんとした証拠があるため、芽衣の計画は全て見抜かれてしまった。この時の芽衣は、顔を真っ青にして、醜く顔を歪めていた。弱い女を演じることができなくなり、恥ずかしさと怒りがはっきりと表れた顔をみんなの前であげることはできなかった。最後に、その場の全員から軽蔑の目を向けられ、彼女は居ても立っても居られなくなり、慌てた様子で服の端をぎゅっと握りしめ、背を向けて逃げるようにその場を離れた。彼女が去ると、私は溜まった息を一気に吐き出した。同僚たちが集まってきて、私にどうしたのか、大丈夫かなどと話しかけてくれた。私はみんなを見渡し、何度も頷いた。その時、涙で視界がかすれていた。「みんな、ありがとう、本当にありがとう……」それから数日後、私の名前がまたネットで騒がれることになった。しかし今回は前の炎上のようではなく、私の身の潔白を証明する内容だっ
私が高見原市に来て、まるまる1カ月経った。初めてここに来たばかりの時は、新しい環境に慣れなかった。それに到着したばかりの頃は毎日雨続きだった。しとしとと降り続く雨に、湿気も混じっていて、どんよりとした空のせいで気分が沈んだ。そんな憂鬱な気分は、ゆったりと休める休日に自然と目が覚めた瞬間に消えていった。目を開けて外を見ると、細かい雨粒が窓ガラスにそっと優しく落ちていた。突然、ここには騒がしいものなど一切なく、平穏だと感じた。ガラス越しに見えるぼんやりとした雨の景色を見つめ、私はふいにこの知らない町にようやく心の平穏を覚えた。以前書いていた履歴書を手に、私はなかなか良い仕事を見つけることができた。ネットの炎上はこの時すでに鎮まり、私の過去を知る人はいなくなった。入職する当日、私はまだ緊張していた。ネットの情報を見た人がまた私を誤解してきたり、事情をきちんと聞いてくれる人もいないのではないかと不安だった。しかし、面接官は私にいくつか専門的な質問をしただけで、翌日には内定通知を受け取ることができたのだ。そしてあっという間に2ヵ月が過ぎ、やっとここでの生活に慣れた。もう誰も私の穏やかな日々を邪魔する人はいないだろうと思っていた矢先、芽衣がいつまでも執着し、どうしても私を潰そうとしてきた。一体どうやって私の職場を見つけ出したのか知らないが、ある日私が仕事を終えて帰ろうとした時、慌ただしい足音が聞こえてきた。私がその音に振り返る前に、誰かに肩を強く掴まれた。そしてすぐに芽衣の声が耳に飛び込んできた。「あんた、颯を一体どこに隠したの!?」同時に多くの社員が何事かと集まってきて、昔みんなに囲まれて攻撃された記憶が蘇ってきた。私はその場に立ち、ただ自分のうるさい心臓の音だけが耳に響いた。私が無意識に後ずさりした時、隣の席の同僚が私の背中を支えた。彼女は私の傍に立って、厳しい表情で芽衣を見つめた。「すみませんが、どうやってここに入ってきたのですか?ここはオフィスフロアです。部外者は勝手に入ってはいけないことになっています。妊婦さんのようですから、警備員は呼びませんので、すぐに出ていってください」彼女がそう言うと、さらに多くの社員が私のほうに立ってくれた。「そうよ、わざと騒ぎを起こしに来たんじゃない?」
芽衣は颯の大きな声に驚き、振り返って可哀想なふりをした。「どうしてそんなに怖い顔で怒鳴るの。私はただ代わりに片付けようと思っただけよ」颯は数歩進み、芽衣の前に立ちはだかった。「その必要はない。どうせ、ここに長居するつもりもないんだ。莉緒にきちんと説明して、彼女の怒りが収まったら、俺と彼女の家にまた引っ越すんだから」この時の颯は、私たちの家はすでに彼のせいでなくなっていることを知らない。一緒に暮らしていたあの部屋は、すでに何もかもなくなって空っぽになっている。それと一緒に私たちのあの5年間も綺麗に片付けてしまった。芽衣は彼に背を向けた。そして彼に見えないように、嫉妬と憎しみに歪んだ顔をしていた。颯はベッドの端に座って、繰り返し私が作ったあの短い動画を見つめていた。実は、彼は削除する前にスマホに保存していたのだ。ラブソングに合わせて、画面が次へと変わっていく。颯は思わずそれを見ながら笑い声をもらした。その時の彼は、ウキウキしながらあの動画を編集する私の嬉しさと、SNSに付き合っていることを公表できるあの日の期待を想像し、感じ取っているようだった。でも、見続けているうちに、彼の笑顔が消え、顔はこわばっていった。あんなに期待していた日。心を込めて動画にまとめあげた私たちの5年という時間。それを彼の誕生日に日付が変わってすぐアップした時、彼は一体私に何をした?私のSNSにログインし、あの動画を消して言った。失恋したばかりの芽衣の気持ちを考えてやれと……あの時、彼は私の気持ちなど一切考えていなかった。颯はベッドの端に座ったまま、両肘を膝の上に置いて、手を組んだ。心の奥底から込み上げてくる苛立ちと後悔が一つになり、泥沼にはまってしまったかのように抜け出せない。そしてこの時、ドアが開いた。芽衣がワインを持ってドアの前に立っていた。「颯、あなた今気分が落ちてるでしょ。一緒に飲むことはできないけど、心の中の鬱憤を吐き出してくれていいよ。私、莉緒の大親友だもの。あなたが彼女に説明しに行った時には、話を聞いてもらえないようなら、私も代わって説明することができるわ」颯はほんの少し迷ったが、結局は立ち上がって芽衣と一緒にリビングに行った。この時の彼は酒の力を借りて自分の気持ちを麻痺させる必要があった。それにより