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第305話

Auteur: 清水雪代
菊江は智美に言った。「あの子に腹が立って仕方ないわ。彼のために辺鄙な場所で修行までしたのに、結局悪い癖を直してあげられなかったなんて。まあ、大桐市の仏様が効かないに違いないわ。羽弥市に戻って、羽弥市の仏様を拝まなくちゃ!」

智美は首を傾げた。仏様って地域で効果が変わるものなの?

それでも菊江は神仏に祈るだけで、孫のところに怒鳴り込んだり二人を引き裂こうとしたりはしなかった。やはり品格のある人だ。

彼女は菊江に笑顔で言った。「おばあさん、帰るのもいいですね。確かひ孫さんがいらっしゃるんでしたよね?帰ってひ孫を抱っこすれば、気持ちも晴れますよ」

菊江は頷いた。「そうね。この孫が情けなくても、他にも孫がいるんだから!」

そして智美に言った。「そういえば、すごい偶然なんだけど、君、私の孫が同じ……」

言い終わらないうちに、菊江の携帯が鳴った。

和也からだった。

「おばあさん、大変です!本家に置いてあった仏像、謙太が誤って落として壊しちゃって。怒らないでくださいね?」

菊江はあの仏様を大事にして信心深く拝んでいた。

でも、仏様よりひ孫の方がずっと大事だ。

「けんちゃんは怪我してない?」

和也は怒っていないのを聞いてほっとした。「大丈夫ですけど、やっぱりびっくりしたらしくて、ずっと泣き止まなくて、みんな困ってるんです」

「はぁ、けんちゃんの面倒もまともに見られないなんて。君たち、誰も頼りにならないわね。やっぱり私が帰らないと」

和也はこれをチャンスだと思った。菊江を呼び戻せれば、また辺鄙な場所で修行するようなことはないだろう。

「そうなんですよ、おばあさん。早く帰ってきてください。謙太が仏像を壊しちゃって、仏様に怒られたりしませんよね?こういうことよく分からないんで、早く見に来てくださいよ」

「こら!縁起でもないこと言わないで。仏様が子供に怒ったりするわけないでしょう」

菊江は慌てて言ったが、ひ孫のことが心配でたまらなかった。

「分かったわ、すぐにプライベートジェットで帰るから」

それから智美に向き直った。「また今度ゆっくりお話ししましょう。急いでひ孫をあやしに帰らなくちゃ」

そして、さっきまでの落ち込んだ様子が嘘のように、颯爽と立ち去っていった。

智美は微笑んだ。菊江の気分が晴れてよかった。このままだったら体調が心配だったから。

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