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第329話

Author: 清水雪代
彩乃から送られてきた位置情報とホテルの住所を見て、智美は愕然とした。

以前は浜市へ行くと言っていたのに、どうしてタイになっているのだろう。

しかも、添付されていたホテルは、ごく普通の三つ星クラスだ。

贅沢に慣れている母が、こんなランクのホテルで我慢できるはずがない。

「お母さん、その平田和樹って人のこと、少しも疑わなかったの?旅行に連れてこられて、泊まるのがこんなホテルなんて……それで納得してるわけ?」

彩乃の声が、やや弱々しくなった。

「最初、私もこのホテルはちょっと……って思ったわよ。でも、和樹さんがこの近くに香水の工場を持ってて、ついでに様子を見に来たの。近くにろくなホテルがないから、仕方なくここに泊まってるだけで。

……それにね、彼の工場にも入ったんだけど、従業員はみんな彼にすごく丁寧だし、工場も大きくて、生産量も売上もかなりのものなの。彼はすごい実業家なのよ。疑う理由なんてないわ」

智美はこめかみを押さえた。「お母さん、旅行に来ておいて工場見学なんて、それ自体がおかしいと思わないの!?それに、お母さんはタイ語も分からないんでしょう。騙されていたって気づけっこないじゃない。

大体、今のお母さん、ちょっと変よ。いつもあの男の不自然な行動を庇って、言い訳を探してばかり……」

「もういいわ、智美ちゃん!これ以上、和樹さんを悪く言うのはやめて!まさか、このお母さんが恋愛するのが気に入らないの?でも、あなたのお父さんはもう亡くなったのよ。私にだって、幸せを追いかける資格くらいあるでしょう!?」

智美は流石に疲れた。「お母さん……」

「はっきり言いなさいよ。送金するの、しないの?たった四十万円でしょう?あなた、祐介くんから慰謝料をたんまりもらったんでしょう?自分で起業までしてるくせに、お母さんにたった四十万円ぽっちも出せないわけ?

……まったく、娘なんて役に立たないわね。お金すらまともに工面できないんだから。もし私に息子がいたら、こんなわずかなお金、絶対に惜しんだりしないのに」

彩乃がまた例の「空想上の孝行息子」を持ち出すのを聞き、智美はもはや呆れるしかなかった。

だが今は、不満よりも母を想う気持ちが勝った。

「わかった」

智美は言われた通り、彩乃に四十万円を送金した。

すぐに、彩乃から喜びを表すスタンプが返ってきた。

智美はすぐに
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